運動を続けているのに、上達しないのはなぜ?

この連載も3か月めに入りました。多くの方々に読んでいただき、改めて幼児期・少年期の運動に対する関心の高さを感じるとともに、わたしの責任の大きさも痛感しています。

そこで今回は、保護者の方々から寄せられた悩みや相談にお答えしたいと思います。このコラムの中で、わたしは「運動は誰でもうまくできるようになる」と申し上げてきましたが、「そうは言ってもなかなかうまくいかない……」という保護者のかたも多いようです。

●運動能力には個人差があって、誰でもうまくなるということはないのではないでしょうか?
●うちの子は小さい時から運動をさせているのですが、なかなか上達しません。どうしたらよいのでしょうか?

幼いころから野球チームやサッカークラブに入れているのに、なかなか上達しないことを悩んでいる保護者のかたは多いと思います。しかし、わたしが見たところ、これらは、本人の運動能力によるものではなく、運動は続けているけれども、「上達するコツをつかんでいない」ケースがほとんどだと思われます。

≪コツ≫をつかまないまま長い間練習しても、下手な手本を見ながら習字を練習するように、なかなか効果は上がりません。逆に正しい≪コツ≫をつかめば、上達は早いはずです。では、運動がうまくなる≪コツ≫とは何でしょうか。


運動が上達するコツとは?

まず、知っておいていただきたいのは、スポーツのような、身体をダイナミックに使う運動では、体幹をうまく使うことが何より大切だということです。走る時に「地面を強く蹴(け)る」、投げる時に「遠くへボールを飛ばす」など、スポーツの基本的な動きの場合、皆さんは体のどの部分を使うと思いますか?

コツがつかめていない場合、強く地面を蹴ろうとすると、足先に力が入り、遠くへ投げようとすると、手先に力が入ってしまいがちです。実は、これでは、いくら繰り返し練習しても上達しないのです。

投げる時は手が動き、走る時は足が動くので、一般的にはなかなか実感しにくいのですが、人間の動きは、身体の中心部から、骨や筋肉を通じて末端の手足に力が伝わるようにできています。
この中心部が体幹なのです。そして、体幹とは、走る場合は≪股関節≫、そして投げる場合は≪肩関節≫のことをいいます。


運動上達の≪コツ≫は体幹を使うこと

○走る時:股関節の筋肉でつくった力が、大腿部、下腿部を通じて足先まで伝わっていく
○投げる時:肩関節の筋肉でつくった力が、上腕や前腕を通じて指先に伝わっていく

走ったり、投げたりする時に、途中にある関節、つまりひざや足首、ひじや手首がリラックスしていると、脚や腕全体がムチのように動くのです。この体幹を使う動きを繰り返し練習することで、運動は上達していくのです。スポーツ中継などで「この選手は腰のキレが良いですね」「良い肩をしていますね」という解説を耳にしますが、これは体幹をうまく使っているということなのです。

「運動上達のコツは体幹をうまく使うこと」、まずはその根拠をご理解いただけたことと思います。次回は、体幹をうまく使うための具体的な方法をご紹介します。


プロフィール


深代千之

東京大学大学院 総合文化研究科 教授。(社)日本体育学会理事、日本バイオメカニクス学会理事長、日本陸上競技連盟元科学委員。文部科学省の冊子や保健体育教科書の作成にも関わる。*主な著書:「運動会で1番になる方法」「運脳神経のつくり方」など

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