子どもの目線で寄り添うことができる先生[こんな先生に教えてほしい]
私は全国のとびっきりの授業を伝える「わくわく授業—わたしの教え方—」(放送:日曜午後6時—NHK教育テレビ)の制作に携わっています。また、「NHKデジタル教材」という先生方に授業で使って頂くための番組やWebを作るなかで、たくさんの授業を見せて頂き、その授業作りについて先生方に話を聞く機会をもちました。そのなかで感じたことを書きたいと思います。
このテーマで書かせていただく2回目です。今回は、「子どもの目線で寄り添うことができる先生」です。
子どもの目線で寄り添う……。このことは、当たり前のように思われると思います。しかし、実はなかなかできないことだと思います。
たとえば、皆さまが、初めて出会う小学生の子どもに何かを教えることになったとき、どんなことに気を配りますか。
- これまでの経験や知識に適したテーマか?
- 今、興味をもっている内容は何か?
- その子が自ら考え方を進めていくために必要な準備は何か?
これらは、私が取材した先生方が授業をする前や授業中に常に意識していることです。そして、一人ひとりの子どもたちが「実のある学び」を体験するには欠かせないことだと思います。
なぜなら、興味のないことを、どう考えればいいのかもわからないのに提示されても、途方に暮れるだけだからです。つまり授業中、子どもたちが「つまらない!」と感じる状況になるのは、もう知っていることや、なぜ?と考える気にもならないことがテーマだったり、何をしてよいかわからないなどの状況に陥ったりしているからです。
それは、授業の仕方でかなり改善できます。テーマの選択やその進め方に工夫をすればよいのです。前向きな先生方の多くは、その技術やノウハウを手に入れるため、勉強会に通ったりしています。また、リーダーシップのある先生がいる学校では、校内研究が盛んに行われています。
ただ、この数年、多くの先生たちからよく聞くのは、子どもたちの経験や知識が驚くほど少なく、興味関心をもつストライクゾーンが小さくなっているということです。
そんな状況のなかでも、ストライクゾーンをしっかりとつかんでいる先生はいます。それが、「子どもの目線で寄り添うことができる先生」ということです。
さて、この内容について書こうと思ったとき、最初に思い浮かんだのが富山県のB先生でした。
私はNHKの教育テレビで、全国の先生方の授業をとりあげる「わくわく授業」という番組を担当しています。これまで120本以上の番組を担当してきました。そのなかで、子どもが感動して涙を流し始めたという授業をしたのは、このB先生だけです。
その授業は、2年生の生活科の授業で、「生まれてきたこと」の本当の意味を立ち止まって考えてもらおうというものでした。
授業は、「誕生日」を導入に自分の成長を振り返っていきます。
まず、自分が生まれてきた日のことを思い返すために、お母さんのおなかの中に命が宿ったときから、生まれる直前までを紙芝居風にして伝えます。そのとき、先生は、妊婦の実物大の絵、胎内にいるときの心音や産声などのテープ、首のすわっていない赤ちゃん人形などを用意しました。生まれたときのことなど、意識も興味ももっていない子どもたちに、五感をとおして、感動を与えるためのしかけです。
さらにこのとき、先生は、子どもたちの経験の少なさを補うために自分が赤ちゃんのときの写真や思い出の品集め、家族へのインタビューをさせていました。自分自身に興味関心を寄せ始めていた子どもたちは、先生が用意した両親からの「生まれてきてありがとう」の手紙を読んで涙を見せるのです。
この授業には、子どもたちが自分の成長を実感できるようにという狙いとともに、自分自身が生涯の宝物だったという願いを感じ、これから困難にぶつかったとき、かけがえのない自分の存在を認識し立ち止まれるようにとの先生の願いがこもっています。
実は、このような子どもたちの心に寄り添う授業が成功するのは、何よりも一人ひとりの心の状態を先生が的確につかんでいる必要があります。そのためにB先生は常に子どもたちの状況把握に心を配っていました。それは、非常に地道な作業です。それは、毎日1回以上、子どもたちに声をかけ、話をするということでした。そのとき、子どもの反応を全神経でとらえるそうです。
5年程前、私は先生方の子どもの状況把握の方法について興味をもって、取材したことがあります。B先生のように声をかける方法以外にも、古典的ですが毎日子どもたちと連絡帳のやり取りを続けている先生などがいました。本当に地道な努力の積み重ねだと思います。
次の四つは、B先生のモットーです。
- 楽しくわかる授業
- つけたい力を明らかに根気よく鍛える授業
- 子どもが自分の言葉で思いや考えを表現できるように育てる授業
- 学ぶ意味を子どもたち自身が気付き、自ら学ぶようになる授業
こうした授業を実現する第一歩が、子どもの目線に寄り添うということであり、その土台には、毎日の地道な積み重ねがあります。
努力している先生を応援したいと思います。