ぬまっち先生、「自分からやる子」になるには、どうすればいいですか
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先生が司会役、生徒たちがひな壇芸人のようにトークを広げていくMC型授業が話題となり、メディア出演も急増中の「ぬまっち先生」こと沼田晶弘先生。東京学芸大学附属世田谷小学校で担任を受け持つクラスでは、子どもが各都道府県の観光大使になるという体で学習する「勝手に観光大使」や、掃除の時間に音楽を流しサビになると踊る「ダンシング掃除」など、ユニークな指導法が次々と誕生しています。今回は子どもの自主性を引き出すプロ・ぬまっち先生に、子どものやる気を引き出すコツ、褒め方のテクニックについてお話を聞かせていただきました。
勉強が「自分ごと化」できれば、自然とやる気がでてくる
子どもにやる気を出させるにはどうしたらいいか—。保護者の方から多く寄せられる質問のひとつですが、物事を自分ごと化して見られるかどうか、だと考えています。
例えば、新型コロナウィルスについても、感染者が増えてきたり、身近にかかった人が出てきたりしてやっと自分ごととして感じられるようになり、だんだんと怖くなってしっかり自宅で過ごすようになるじゃないですか。
子どもも同じで、これをやらなきゃいけない、これは大事だと自分でわかってくれば、みんな普通にやるわけです。それをどういう風に思わせるかがポイント。子どもが「この勉強が将来なんの役に立つの?」と言ったときに、「これはこういう生活で使えるんだよ」って一緒に考えて教えていくことが大切です。
実例を話すと、去年、4年生で折れ線グラフの勉強をしたときに、「これを利用して親に上手くプレゼンすれば焼き肉が食べられるかもしれないぞ」と教えました。折れ線グラフの特徴は、前回との差がわかりやすいということ。テストの点数が悪い人が急に良くなった場合はグラフがポンと跳ね上がり、親が褒めてくれるのにうってつけの材料になるのです。そういうことをやっていくと、勉強が楽しくなっていきます。なぜなら、自分に使えるから。使えるようになる勉強をいかにやっていくかが、大事です。
「こんなのありえないよね」の一言で教科書の世界を現実化
実は学校の教科書、とくに算数などは現実的でないことが多くあり、自分ごと化しにくいのです。よく例にあげるのが、「A子さんは朝オレンジジュースを1/3dL飲みました、夜2/3dL飲みました、合わせて何dL飲みましたか」というような問題。計算する前に、ちょっと考えてみてください。なぜA子さんはオレンジジュースをdLで計って飲むんですか?だからボクは、「A子さんはどんな子でしょうか?」という問題を付け足します。そうすると、子どもたちから「病気でオレンジジュースを制限されているのかも」というような発言がでてきます。
3年生の国語で習う『モチモチの木』もそう。おじいちゃんがお腹痛くなって、孫の豆太が夜中に山道を走ってお医者さんを連れてくる話なのですが、翌日にはおじいちゃんのお腹が治ってケロッとしているので、もしかして仮病じゃないか、と。そうすれば辻褄が合いますが、結局豆太は勇気がついたから、仮病でも仮病じゃなくてもこの作戦は成功だねっていう話になる。さらにお父さんがお医者さんの子どもに、「おじいちゃんの病気はなんだと思う?」と聞いてもらったことも。そうやってどんどん自分たちで調べたり、自分ごと化して読みを深めたり、のめりこませる。ファンタジーな作りの教科書の世界は、まず「こんなのありえないよね」って一言つけて現実化してあげないと、絶対に自分ごと化できないし、読解力も上がってきません。やる気を起こすというのは、すべてそこだと思います。
ボク自身も、おむつなんて全然興味なかったですが、子どもが生まれたらすごく興味を持ちました(笑)。自分に必要なこと、何か関わりがあるとわかることが、ひとつのやる気を出す条件かなと思います。
失敗して立ち直る経験が、自主的にやる子にもなる
やる気を引き出すためには、事象や物事との出会い、親の声かけや仕掛けも必要です。子どもはたいてい焼き直しばかりするので、「去年やったあれが楽しかったから今年もまたそれをやりたい」と言い出します。だから「もっと面白いことあるよ」「こういう切り口あるよ」と親から提案してあげると良いです。仕掛けたり、ときには待ったり、ときには困らせたり、というのもいいでしょうね。
また、子どもがなにか出来ないとき、すぐに手を出すのではなく、積極的に見守るのも大切です。親が子どもに失敗させたくないのはわかりますが、大事なところで失敗させないためには、何かを乗り越えるトレーニングをさせないといけません。小さいうちにたくさん転んで、手をついて顔や頭を守る転び方を習得したり、転んだら立ち上がる勇気を身に付けたり、そういうことを学んでいくのです。失敗して自分で立ち直った経験をしていくと、やる気がどんどんでてきて自主的にやる子になります。
ボクはやる気を引き出すことと、自主的に伸びる子にさせるというのは、近いことだと思っています。自分からやるというのは、やる気があるからですよね。だから、どういう風にして子どもが自らやりたい状況を作るか、ということがカギとなるのです。
子どもの承認欲求の満たし方は5段階
最近の日本は、子どものやる気を出すために褒めて伸ばすという風潮もありますが、親御さんたちが褒め疲れしてるような気がします。褒めるなということではなく、適切な褒め方と、褒めの熱量が大事なのです。ボクの著書『one and only 自分史上最高になる』にも書きましたが、褒めるという承認欲求の満たし方は5段階あります。
レベル1 見る
レベル2 気づく
レベル3 認める
レベル4 褒める
レベル5 喜ぶ
小さい子はすぐに「ママ見て!」と言いますよね。みなさん、「見て」というオーダーに対して、「すごいね」と褒めていないでしょうか。実は、見るだけで十分なのです。例えば、お母さんたちがアイドルグループのコンサートに行って「手を振ったらアイドルが見てくれた」っていうじゃないですか。向こうは見ただけなのに、ちゃんと満たされていますよね(笑)。子どもも同じです。「見て」と言って、先生や親が見ただけで満たされるんです。
見た後は、レベル2、相手に見ていることをちゃんと「気づかせ」ます。そして、レベル3の「認める」は、ただ受け入れるだけ。「漢字テスト70点だった」と言われたら、「ふーん、70点だったんだ」でいいんです。
見て・気づいて・認めるだけで、承認欲求はかなり満たされます。実は1日の8割ぐらいはレベル3ぐらいまででいいのです。いつも無駄に褒めるから、褒めなくていいところを一生懸命褒めたり、褒め方がおざなりになったりするのです。本当にすごいと思ったときに褒めて、さらにすごいときは、レベル5の「喜ぶ」をやってください。「漢字テスト100点だった!」というときは、「すごいじゃない!」と褒めて、そのあと「お母さん、超嬉しいんだけど!!」ってお母さんが大興奮(笑)。人が喜ぶことが、最も承認欲求が満たされるんです。
以上が、褒める側のポイントです。
子どもも褒められたら素直に喜ぶ練習を
次に、褒められる側も工夫したいところです。
大人でもそうですが、よく褒められる人ってやっぱり褒められ上手なんですよ。褒められたときのリアクションが上手いし、素直に喜べるんです。
去年1年間うちのクラスでも、褒めてるのにブスっとしてる子がいたら、「やり直し!」「喜び方が足りない」って何度もやり直しさせました。なぜそんなことをやろうと思ったかというと、日本人は叱られ慣れていて、叱られたときの経験は積んでいますが、褒められたときどうしたらいいかわかっていないんですよ。そういう、褒める方の気持ちの持ち方とか、褒められたときの応え方をしておくことによって、スムーズな関係が築けると思います。
中には、褒められ上手は生まれつきだっていう人がいるかもしれないけど、そんなの生まれつきじゃありません。練習量です。
うちのクラスは、褒められたときは立ち上がって、大統領のように手を振ったり、オリジナルのポーズをとったりするというルールだったのですが、恥ずかしがり屋の女の子もいつの間にか手を振れるようになり、笑顔がでるようになりました。去年その練習をする前は人のできないことを注意しあうようなクラスでしたが、褒められる練習をした後は自分たちもびっくりするぐらい人の成功を褒められるあたたかいクラスになりました。
単純な話、足の速い子はいつも走っていて、時には走っちゃいけない廊下でも走っています。絵が上手い子はいつでも絵を描いてるし、字が上手い子はよくお手紙を書いているし、喜ぶのが上手な子は、いっぱい喜んでるんです。一見ばかげてることかもしれませんが、何かできる子はその経験をしっかり積んでいるんですよね。これは子どもだけでなく、大人でも言えることですが、何事も自分ごととして経験することが、やる気や自主性、すべてにつながっていくとボクは思います。
まとめ & 実践 TIPS
自分ごと化できるような声かけ、5段階の承認欲求に準じた褒め方、褒められたときに喜ぶ練習など、簡単に実践できそうなコツをご紹介いただきました。子どものやる気を出したいと考えている親御さんは多いと思いますので、ぬまっち先生のテクニックを参考に、まずはできることから取り入れてみてはいかがでしょうか。
ぬまっち先生、子どもが将来お金に困らないために、教えておくべきことはなんですか?
取材・文/井上加織
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