「強制」と「矯正」を手放すと子どもはのびのび前進する![やる気を引き出すコーチング]

子どもとのコミュニケーションについて、こうして定期的に発信させていただいていると、折々に、保護者の方からご相談を持ちかけられます。

「うちの子が学校に行かなくなりました」、「せっかく入った大学をやめたいと言っています」、「家族とまったく口を聞きません」など、「子どもが困った状態です」という内容です。多くの事例をうかがっていると、ある共通点が見えてきます。課題解決のためには、「大人が子どもを『強制』して動かすことと『矯正』しようとすることをやめてみたらよいのでは?」と思えてくるのです。

「強制」するのではなく「見守る」

以前、上のお子さんが中学1年生で不登校になり、下のお子さんも小学5年生で不登校になったという体験を語ってくださったAさんと出会いました。今では、二人とも、社会人として自立され、子育ての手は離れたそうです。Aさんの実感がこもったお話はとても印象的でした。

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今、ふりかえると、不登校の原因は、学校にあるというより、私たちだったような気もするのです。親が子どもをコントロールしようとしたことがよくなかったのではないかと思います。『こうしなさい』、『こうすべきだ』、『それではダメだ』とずいぶん正論を言って、こちらの言う通りにさせようとしました。

学校に行かなくなってからも、何度言い聞かせても悪化するばかりで、最後は、こちらも疲れきり開き直ってしまいました。力づくで動かそうとするのをやめ、ただ見守ることにしました。それから、子どもはみるみる元気になっていきました。最初から、親は子どもを信じて見守るだけでよかったのだと思います。
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私の周りには、のびのびと意欲的に自己実現をしている若者たちもたくさんいます。この人たちに、「親御さんはどんな関わり方をしてくれたの?」と聞くと、判で押したようにこう答えます。「親はあまり何も言いません。でも、放任というわけでもなく、見守ってくれているなという感じはあります」。Aさんのお話を裏打ちするような言葉だなと思います。

「矯正」するのではなく「尊重」する

こちらは、ピアノ教室の先生をされているKさんのお話です。

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娘にもピアノが弾けるようになってほしいなと思って、小さい頃から私が教えていたのですが、弾き方を直そうとすると反発して、だんだん練習しなくなってしまいました。それでも、ピアノは好きなのでしょう。時々、遊びで弾き始めます。でも、私はそのラフな弾き方が許せなくて、つい、『そうじゃなくてこうでしょう!』と正そうとしてしまいました。反発され続け、親子関係はボロボロになりました。

コーチングに出会って、『自分と子どもは違う存在』、『子どもの意思を尊重する』ということを知りました。ピアノに限らず、『そんなことを考えていたんだね!おもしろいね』と受けとめ、娘の気持ちを尊重するようにしました。

高校生になって、『私、音大に行く!』と言い始めました。正直、こんな我流の弾き方では無理だと私は思うのですが、もう否定することはやめました。何より、娘が『自分はこうしたい!』と自分で考えて、私に話してくれたことがとても嬉しかったんです。私がダメ出しをしていた頃は、そんなことは到底考えられない状況でした。どんな結果であっても、本人が決めたことなら、納得できると思います。私はずっと味方として応援していきたいと思っています。
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嬉しそうに話すKさんの表情から、Kさん自身も矯正しようとすることをやめて、とても楽になったんだなということが伝わってきました。「子どものために」と力を入れ過ぎたことで、かえって、関係性が崩れている事例が多いように感じます。子どもも一人の人間として尊重して接することで解決できることがたくさんあるのではないでしょうか。

プロフィール


石川尚子

国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ。ビジネスコーチとして活躍するほか、高校生や大学生の就職カウンセリング・セミナーや小・中学生への講演なども。著書『子どもを伸ばす共育コーチング』では、高校での就職支援活動にかかわった中でのコーチングを紹介。

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