「買って、買って」と駄々をこねる子[教えて!親野先生]
教育評論家の親野智可等先生が、保護者からの質問にお答えします。
【質問】
駄々こねに困っています。先日も雑貨コーナーの前を通ったら、気になるおもちゃを見つけて「あれ、欲しい」と言い始めました。「ダメ!出かける前にお約束したでしょ」と言ったら「買って、買って」と駄々をこね始めて、その場から動かなくなりました。人が大勢いるところなので困りました。
相談者・ゴールドライター さん(年少 男子)
【親野先生のアドバイス】
ゴールドライターさん、拝読しました。
人前で駄々をこねられると困りますよね。
親の方には「しつけのできない親と思われたくない」という気持ちがあるので、ついイライラしたり感情的に叱りつけたりということになりがちです。
その結果、さらに子どもが興奮して、親子でちょっとした修羅場を演じてしまうということにもなりがちです。
本当に、こういうとき感情的になって叱りつけるのは、まったくの逆効果です。
ですから、まずは大きく深呼吸などをして落ち着いてください。
そして、「じゃあ、こっちでお話聞かせて」と言って、その場から離れることが大事です。
できたら、静かで人がいないところに連れて行きます。
もちろんそういう場所が見当たらないことも多いと思いますが、そういう時もできるだけその条件に近いところに連れて行きます。
とにかく、欲しいと言った物がある場所から離れることが大事です。
それが目の前にあると、いつまでも気持ちが変わりません。
小さい子の場合、目の前から物がなくなった時点で、既に何が欲しかったのかよくわからない状態になっていることもあります。
また、少しでも気持ちを落ち着かせるために、優しく抱きしめたり頭を撫でてあげたりするのもいいでしょう。
次に、座るなどして子どもと同じ目の高さになり、静かな落ち着いた声で「お話聞かせて」と言います。
あるいは、「どうしたの?」「なんで欲しいの?」などです。
繰り返しますが、子どもと同じ目の高さになることがとても大事です。
子どもと同じ目の高さになるだけで、不思議なことに、親の方も気持ちが落ち着いて居丈高な言葉が出なくなります。
それに、親は子どもの身長の2倍くらいの高さがあります。
今、これをお読みのみなさん、実際に上を見上げて、自分の身長の2倍の高さから何か言われたと想像してみてください。
それだけで怖く感じるはずです。
しかも、子どもにしてみれば自分に望ましくないことを言われているのですから、よけい怖く感じます。
すると、子どもは自分を守るために心理的なバリアのようなものを張り巡らせて、外からの情報が入ってこないようにしてしまいます。
こうなると、親が何を言っても、子どもの中に入っていきません。
親がしゃがんで同じ目の高さになるだけで、子どもはいたずらに怖さを感じることもなくなります。
しかも、静かな落ち着いた声で言われれば、自分の気持ちも落ち着いてきます。
それに、人は誰でも相手の声の調子につられるもので、怒った調子で言われると怒った調子で返したくなります。
親に静かな声で言われると、子どもも静かな声で返したくなるものです。
さて、もし、子どもが「○○が欲しい。だって、□□君も持ってる」などと言ったら、どう答えればいいでしょうか?
ここで、すぐに「ダメダメ、買わないよ。わがままはダメ。よそはよそ、うちはうち」などと否定しないことが大事です。
まずは、「そうか。○○が欲しいんだ」「お友達も持ってるんだ。お友達が持ってると欲しくなるよね」など、子どもの気持ちを受け入れて、共感してあげてください。
中には、まだ言葉で表現する力がまだ育っていなくて、自分の気持ちをうまく言えない子もいます。
そういう場合、「ちゃんと言わなきゃダメでしょ。泣いててもわからない」などと叱っても、いたずらに子どもを苦しめるだけです。
その場合は、次のように子どもの気持ちを代弁してあげることが大事です。
「○○が欲しいんだね」「うん」「なんで欲しいの?」「……」「お友達も持ってるのかな?」「うん」「たしかに、お友達が持ってると欲しくなるよね」
いずれにしても、子どもの気持ちに十分共感してあげることが大切です。
その後で、「でも、今日はがまんしよう。出かける前にお約束したよね」とか「この前△△を買ったばかりだから、今日はがまんしようね」などと言うようにします。
すると、子どもも、一応は自分の気持ちをわかってもらえたということで、諦めがつきやすくなります。
もちろん、すぐ百パーセント諦めてくれるとは限りませんが、少なくともお互い感情的になって修羅場を演じるようなことはなくなります。
そして、「がまんできるね。じゃあ、帰りに屋上で遊んでいこうか」「電車見ていこうか」「ところで、この前描いた絵はすごく上手だったね」など、子どもの気持ちを別のところにそらしてあげると効果的です。
また、日頃から、スキンシップ、子どもとの触れ合い、子どもの気持ちに寄り添った共感的な対応などを心がけることも大切です。
たとえ「ノー」と言わなければならない場合も、まずはじめは共感的に聞いてあげてください。
それによって、子どもが自分は親に愛されていると実感できるようにしてあげてください。
というのも、全てとは言いませんが、子どもが駄々こねをする場合、日頃から親の愛情を実感できていないケースもあるからです。
そういうケースでは、その物自体が欲しいというより、それを買ってもらうことで「自分は愛されているのだ」という確信を得たいという気持ちが働いています。
ですから、子どもにしてみれば譲れないわけで、駄々をこねてでも買ってもらいたいのです。
また、この他にも、子ども自身が何らかのストレスを感じているときも、駄々をこねることがあります。
「愛情不足」の話ともかぶりますが、もしかしたら、弟や妹が生まれてから自分へ向かう親の愛情が少なくなったと感じているのかも知れません。
あるいは、園や学校で友達とうまくいっていない、先生とうまくいっていない、先生に叱られた、などのストレスがあるのかも知れません。
そのような場合は、子どものストレスがどこにあるか探って、取り除いてあげる必要があります。
そのためには、園や学校の先生に話を聞いたり相談したりする必要も出てきます。
私ができる範囲で、精いっぱい提案させていただきました。
少しでもご参考になれば幸いです。
皆さんに幸多かれとお祈り申し上げます。
(筆者:親野智可等)