絵本の世界を楽しもう! 心を育てる読み聞かせのコツ【後編】
絵本の読み聞かせには、特別な技術は必要ありません。子どもがしっかりと絵本の世界に入っていけるように、絵本を大きく広げ、ゆっくり、淡々と読めばいいのです。大切なのはよい絵本を選ぶこと。では、よい絵本とはどんな絵本なのでしょうか。引き続き、福岡県行橋市にある私立きらきら星幼稚園の黒田秀樹園長に聞きました。
よい絵本は「なかなかお話が始まらない」
絵本の読み聞かせでは、読み手がうまいかどうかよりも、優れた絵本を選ぶかどうかのほうが何倍も重要です。では、優れた絵本とはどんな絵本なのでしょうか。
優れた絵本には、子どもたちを引き込んでいく仕掛けが施されています。表紙、そして表紙をめくった見返しと扉の世界、続くタイトルページ…と、ページをめくっていくにつれて、少しずつ物語の世界に近づいていることがわかります。表紙を開いても、なかなか物語が始まらず、まるで子どもたちに絵本が「楽しいよ、おいで、おいで」と語りかけているかのようです。同様に、物語が終わった後も、裏表紙まで、余韻を楽しむ世界が準備されています。古典といわれる多くの絵本はそうした構成です。反対に、よくない絵本は、同じ物語でも、表紙を開いたらすぐにお話が始まるような構成です。安く作るための出版社の都合かもしれませんが、これでは子どもたちがじっくりと絵本の世界に入っていくことができません。
大人はよく、さっさと表紙をめくって、文章が書かれている1ページ目から読み始めようとしますが、ぜひ表紙から、1枚ずつページをお子さまに見せながら、開いていってください。きっとお子さまは、ゆっくりと現実世界から物語の世界へと引き込まれていくはずです。そして、読み聞かせの最後には、裏表紙と表紙を大きく広げてお子さまに見せてあげることで、物語の余韻をさらに楽しませることができます。
私の幼稚園で大人気の絵本5冊をご紹介します
近年も、優秀な絵本作家がたくさん生まれています。私の幼稚園で子どもたちに支持されている絵本をご紹介しましょう。
『もりのおふろ』(西村敏雄/福音館)
うちの幼稚園の3歳児に大人気です。子どもにとってお風呂は特別な場所です。そのお風呂に動物たちが入るなんて、とってもわくわくする楽しいことに感じられるのでしょうね。
『まくらのせんにん』(かがくいひろし/佼成出版社)
かがくいひろしさんは、すてきな絵本をたくさんつくったかたですが、なかでもこの作品はすごくおもしろい絵本で、子どもたちは大喜びです。なにがおもしろいかは…親子で一緒に楽しんでみてください。
『まるまるまるのほん』(エルヴェ・テュレ/ポプラ社)
これは物語ではなく、いわば遊びの本です。本を触ったり、動かしたりすると、絵本の中で何が起きるか…? 子どもたちは、絵本の世界で遊ぶような感覚を楽しめます。とくに年少の子どもにおすすめです。
『たまごにいちゃん』(あきやまただし/鈴木出版)
1人前になるとはどういうことかを、なかなかヒヨコになりきれない「たまごにいちゃん」から子どもたちは学びます。子どもたちは、きっと成長している自分に投影し、共感しているのだと思います。
『おおきくなるっていうことは』(中川ひろたか/童心社)
大きくなるって洋服が小さくなったり、新しい歯が生えてきたり、いろんなことができるようになることです。でもそれだけではなく、自分で考えられるようになることでもあります。卒園前の年長さんに、「小学校に行ってもがんばろうね」という思いを込めて、読んで聞かせることが多い本です。
児童文学の研究者である松岡享子さんは、子どもたちは、いつの日か、サンタクロースはこの世にいないことを知るけれど、サンタクロースの存在を信じた「心の部屋」は、サンタクロースがいなくなってもずっと心の中に残り、その部屋の中に、友人や恋人など、別の大切な人が入ることになる。だから、サンタクロースの部屋は必要なのだとおっしゃっています。すぐれた絵本で空想の世界に遊ぶことは、人間として豊かに成長するためにも、大切なことなのだと私は思います。
どんな絵本を読み聞かせすればよいか、迷った時は、まずは幼稚園や保育園の先生に相談するといいと思います。最近は、図書館でも絵本のコーナーを大切にしているところが増えているので、よい司書のかたに巡り会うことができれば、あなたのお子さまに合った絵本を紹介してくれることでしょう。