絵本の読み聞かせの効果 「ゆっくり読む」はNG。脳と心を育てる3つのコツ
- 育児・子育て
「一日の終わりには、絵本の読み聞かせをして子どもとゆったり過ごしたい」
そんな理想を描いていても、うまくいかないことも多い絵本の読み聞かせ。せっかく選んだ絵本に興味を持ってもらえないと、「自分の読み方が悪いから?」「うちの子にはまだ早いのかも……」と悩んでしまいます。
「たくさんの絵本を読み聞かせをしたいのに」とプレッシャーを感じる前に、知ってほしいシンプルなコツが3つあります。『子どもの脳と心がぐんぐん育つ 絵本の読み方 選び方』(パイ インターナショナル)の著者、仲宗根敦子さんに伺いました。
絵本の読み方:ゆっくり読まず、集中力が保てるスピードで
・子どもの脳と心を育てる読み聞かせ方
—絵本の読み聞かせにおすすめのコツがあるそうですが。
「絵本未来創造機構」代表理事仲宗根敦子さん(以下仲宗根):読み聞かせのポイントとして、次の3つを紹介しています。
①ゆっくり読まない
②声色を変えない
③読んだ後に子どもをほめる
(『子どもの脳と心がぐんぐん育つ 絵本の読み方 選び方』より)
・子どもの脳は、右脳が優位
—まず、ポイント「①ゆっくり読まない」について教えてください。子どもが内容をちゃんと理解できているかが気になって、ゆっくり読みたくなってしまいますが……。
仲宗根:『絵本の読み方 選び方』では、脳神経外科医の篠浦伸禎先生に監修していただいて子どもの脳の発達についても紹介しています。6才までの子どもは、感覚やイメージなどの機能が集まる右脳が優位。私たちの想像を超えた吸収力を持っていて、シャッターをカシャッと押すように画像をインプットできるんです。
—なるほど。それではあまりゆっくり読むと退屈してしまいそうですね。
仲宗根:自然な会話のスピードがおすすめです。もちろん子どもから質問があったら答えてあげていいのですが、完全に理解しているかどうかより、最後まで読み切ることが大事です。
絵本の読み方:声色は変えない。読んだ後「よく聞いてたね」とほめる
・子どもが感動するところは、子ども自身が決める
—ポイント「②声色を変えない」は、フラットに読んだほうがいいということですか?
仲宗根:読み手が感情移入して少し調子が変わるのは自然なことですし、意識して棒読みにする必要はありません。でも、IQ(知能指数)やEQ(心の知能指数)を伸ばす観点からは、あまり演技しないほうがいいですね。
子どもにとって世界は初めて見るものでいっぱい。素晴らしい五感力を持っています。大人から見ればふつうのトマトに「わぁ!トマトだ!赤いねぇ」と感動することだってあります。どこに興味を持ち、どこで泣くかは子ども本人が決めること。大人が声色を使って「ここが大事だよ」と伝えないことで、子ども自身がアウトプットをはじめられます。
—親が押し付けないことで、子どもが自らどんなことに興味を持つのかがわかりますね。ポイント「③読んだ後に子どもをほめる」ですが、最近「ほめ方に悩んでいる」声をよく聞きます。
・ワンフレーズでOK、心からほめる
仲宗根:「安易なほめ方は良くない」と心配する方も増えていますが、むずかしく考えず、本心からほめてあげてほしいなと思います。読み聞かせで子どもと一緒に笑ったり楽しんだりすることは、かけがえのない時間。その気持ちから生まれた「うれしかったよ」「よく聞いていたね」の言葉をそのまま子どもに伝えてください。子どもは“認められた”と感じて、絵本が好きになります。
—子どもが絵本に集中できなかったり、やぶいてしまったりする場合にもほめたほうがいいですか?
仲宗根:思っていないのに無理にほめるのは良くありません。集中できないようであれば短い絵本を選び直して、最後まで聞けたら「聞いてくれてありがとう」とほめてあげましょう。
もしやぶこうとしたら、その場で「大切にしようね」と言って、やぶかないでくれたら「えらいね」「大切にできたね」とほめる。良い行動に注目することが、次の良い行動につながります。
絵本の読み聞かせの効果:親も子も自己肯定感を高められる
・「一冊読めた」「物語の力」が親子の自己肯定感を高める
—仲宗根さんが絵本の読み聞かせに魅かれたのは、どんなきっかけですか?
仲宗根:子育てをスタートしたとき、フルタイムで働いていて時間がまったくありませんでした。“右脳開発”が気になっていましたが、寝かせるだけでせいいっぱいの毎日。それでもお風呂の前や登園前、5分あれば絵本を読むことで子どもに笑ってもらえたんですね。それが「今日も一冊読めた」「大丈夫」という自分の肯定感につながっていきました。
本格的に読み聞かせに没頭するようになったのは、長男が3才になる前、次男が11カ月の頃。警察官の夫が殉職してしまったんです。夫の分までしっかり子どもたちを育てなくてはいけないと思うと、悲しむことすら自分には許されない気がして。「死にたい」「子どもたちのために生きたい」とバラバラになった感情を救ってくれたのが、絵本です。
絵本のなかの美しい言葉や物語を読むことで、その時間だけはしあわせな世界を感じられ、気持ちの整理ができました。読みながら子どもに笑顔を見せることでも、安心感を持ってもらえたと思います。
—絵本の世界に入って気持ちを切り替え、一冊読めたことで自分を認めることが……。
仲宗根:実は、絵本の読み聞かせがうまくいかないという相談には「子どもの自己肯定感を高めたいけれど、自分の自己肯定感が低い」「自分はほめてもらえなかった」お母さんがとても多いです。その場合、絵本未来創造機構では自分のために絵本の読み聞かせを体験してもらっています。
大人は人と比べて自分を否定したり、無意識に感情を押し殺したりしがちです。それが自分を肯定できない原因に。私も実感しましたが、絵本のストーリーは無意識に入ってきます。自分のために絵本の読み聞かせをすると、「悲しいなぁ」「こういう気持ちをわかってもらいたかった」といったネガティブな感情も認めて、自分を肯定できるようになります。物語の力ですね。
絵本の選び方:対象年齢にこだわらず、子どもが興味を持つ絵本を選ぶ
・読み聞かせは5分でも10分でもOK。毎日続けることが大事
—あわただしい生活で、読み聞かせの間だけでも絵本の世界に集中することは、パパやママ、もちろん子どもにとって素晴らしい時間になりそうです。
仲宗根:本当に、5分でも10分でもいいんです。まだ文字が読めないお子さんは、読み聞かせの環境を自分で用意することはできません。ぜひ毎日読み続けてほしいですね。
—こんな絵本が良いとか、こんな絵本は良くないとかありますか? たとえば絵がきれいで文字がない絵本はどうでしょうか。
仲宗根:絵がきれいな絵本は、美術館に行く気分でいっしょに楽しんでください。本でも紹介していますが、『もこもこもこ』のように言葉のリズム感がある絵本は心に作用すると言われていますし、『100万回生きたねこ』のように絵でストーリー展開がわかる本も良いです。子どもは視覚が優位なので、絵が助けになって物語を理解できるようなクオリティの高い絵本はおすすめです。
良くない絵本はありませんが、対象年齢にはこだわりすぎないほうが。子どもの年齢よりも1~2才上の年齢向けの絵本を選ぶ方もいますが、文字が多くて集中できないこともあります。最後まで楽しんで読み切ることが大事なので、子ども本人が楽しいと思える本を選んであげてください。私たちが小学校へ読み聞かせに行くときは、子どもが5~6年生でも、はじめに読むのは赤ちゃん絵本なんですよ。
—そうなんですか。
仲宗根:赤ちゃん絵本でふっと気持ちがゆるむと、次の絵本に興味を持ってもらえます。階段を小さくつくってあげて、ステップアップしながら「最後まで聞けてたね」「すごいね」とほめます。子どもはあっという間に成長しますよ。
まとめ & 実践 TIPS
①ゆっくり読まない②声色を変えない③読んだ後に子どもをほめるコツは、どれもシンプルですぐに取り入れられそう。
ちょっとしたスキマ時間で絵本を読み聞かせて、ほめてあげることで大人も子どもも自己肯定感アップ。ぜひ、今日からはじめてくださいね。
執筆/樋口かおる
『子どもの脳と心がぐんぐん育つ 絵本の読み方 選び方』(仲宗根敦子:著 、篠浦伸禎:監修、ながしまひろみ:イラスト/パイ インターナショナル刊)
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