法政大学 法学部 法律学科(2) 社会で必要なリーガルマインドを身に付ける[大学研究室訪問]

日本が転換期を迎えた今、大学や学部でどう選び、そこで何を学べば、お子さまの将来が明るく照らされるのでしょうか。法政大学法学部法律学科教授の須藤純正先生の研究室をご紹介します。前回は、須藤先生のゼミでの学びについて伺いましたが、後編は法学部での学びの魅力、また先生がゼミの指導で心がけていることなどをお聞きしました。



■さまざまな進路で役立つ「リーガルマインド」

法律というと、法律の条文などを覚えることが多く難しい学問、あるいは音楽や文学のように芸術的な香りがしないのでつまらない学問というイメージを持たれることが多いと思います。もちろん法律の知識を増やすために法律の条文や判例の学習は不可欠ですが、いちばん大切なのは、法的なものの考え方、いわゆる「リーガルマインド」を身に付けることです。

法律とは、紛争解決のための平和的な手段であり、私たちの社会の基礎を構成する重要なルールです。私たちが今、平和に暮らせているのは社会に法律があるからとだといえます。ただ、その法律を運用するにはテクニックが必要です。なぜなら、現実の事件では、一方が全面的に正しく、他方が完全に悪いと簡単に判断できることは少ないからです。たとえば、ある雑誌が政治家を批判する記事を書いたとしましょう。出版社側は報道の自由を主張するかもしれませんが、政治家側は名誉毀損(きそん)を主張しています。こうした場合に必要なのがリーガルマインドです。両者の主張を聞いたうえで、公平で合理的で納得できる解決策を見いだすのが、法学という学問なのです。

ですから、法を学ぶには、社会で起きているさまざまな事象に目を配り、独りよがりではなく、幅広い視点から考えることが欠かせません。このリーガルマインドは法律家だけでなく、広く社会人に求められるとても重要なスキルです。なぜなら、どの業界の企業においても、解決しなければならない課題があり、それを達成するにはどうしたらよいか、自分と考えの異なる考えを持つ人とも折り合いをつけながら、目標達成を目指していかなければならないからです。

実際にゼミ生たちは、法律家をめざして法科大学院に進む学生の他、公務員、金融や保険など幅広い業種の企業に就職しています。



■学生の自主性を重視した授業

模擬裁判では、弁護人、被告人など各役割にゼミ生がなりきる

大学での学びは高校までの学びと異なり、自らの関心や目標に沿って自主的に学習することを求めています。実際に、多くの学生を見ていて自ら学びに向かう意欲を持ったとき、ぐんと力が付くと感じます。ですから、授業を一方的に進めるのではなく、学生たちの興味がわくような問いかけをするように心がけています。先日、授業で新聞やテレビで話題になっている問題と法律との関わりがあることを話すと、出席カードの裏に「自分なりに調べてみようと思います」と書いてくれた学生がいました。こうした姿勢を持つ学生が伸びていきます。
ゼミでも、学生の自主性を重視しているので、彼らの意見をできるだけ取り入れるようにしています。ディベートや模擬裁判を行うようになったのも、学生からの発案が発端でした。

夏休みのゼミ合宿で行うグループ討論のテーマもゼミ生の希望を入れて決定します。今年のテーマは、「集団的自衛権」「裁判員裁判」「危険ドラッグ」などの予定です。昨年までのゼミ合宿では、授業と同じようなディベート形式の討論だったのですが、今年は少しアレンジを加え、新聞社やテレビ局の論説委員になったつもりで、グループごとにテーマについて発表してもらう予定です。審査員がその発表内容を評価するという内容を予定しています。仲間と楽しみながら、力を付けてもらえるのではないかと期待しています。



■高校時代までに身に付けてほしいこと--「基礎学力」と「自ら学ぶ姿勢」

法学部に限らず、どの学部に進学するにも重要なのは、基礎学力です。高校までの学びは専門的な学問の土台になるものですので、きっちりと身に付けておいてほしいと思います。
また、大学では、1から10までを教員が丁寧に指導してくれるわけではなく、知識を深めるためには、自ら学ぶ姿勢がとても重要です。ゼミだけでなく、授業においても、履修した授業内容を自分のものにするために、予習・復習を習慣付けることが必要です。そのうえで、興味のあるテーマを深めてみましょう。きっと学問のおもしろさに出合ったり、将来を考えるうえでのヒントを得たりすることができると思います。


プロフィール


須藤純正

21年間検事を務めたのち、弁護士に。2006年度から法政大学法学部教授に。専門領域は刑事法、経済刑法。共著書に『捜査実務全書5‐証券・金融犯罪』(東京法令出版)、『民商事と交錯する経済犯罪Ⅲ<その他の刑法犯編>』(立花書房)など多数。

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