年の初めに考える「子育て」 第1回 「消費者」でいいのだろうか?[高校合格言コラム]

「消費者」でいいのだろうか?

 ここのところ実用的な記事が続いたので、今月は1月ということもあり、長い目で見た「子育て」についてお話ししたいと思います。

 ある日の帰宅時に、駅からバスに乗っていたところ、中学1年生と思われる男子生徒(小柄で、真新しく大きめの制服を着ていました)がソフトクリームを手に持ちながら乗り込んできました。持っていたバッグから、私にはある私立中学の生徒であることがわかりました。彼は、空いていたシルバーシートに腰を下ろしました。ソフトクリームが食べかけなので食べ終わるまで座っているのだろうと見ていましたが、食べ終わったあともそのまま座り続けています。そして、スマホを取り出し、いじり出しました。前に大人が立っても、気にかけるそぶりはまったくありません。

 そんなことがあった翌々日、メガバンクの人が訪ねてきました。私はここ2年ほど日本経済新聞にコラムを連載しているのですが、それを読んだことがきっかけでいらしたのです。銀行の仕事とは別に、個人的に大学生を集めた勉強会をやっているということでした。大学時代、給付型の奨学金をもらっていて、返す必要がない代わりに、社会への恩返しとして勉強会を行っているそうです。そこで接している大学生に、学力以前の問題点をいろいろ感じていて、中高生はどうなのかと、聞きにいらしたのです。

 その場で話題に出たことを、いくつか挙げてみましょう。夏に合宿をしたところ、大学生が入ったあとの風呂場は、おけや椅子が散乱していました。「自分が使ったものはきちんと片付けるのがマナーである」という話をしたところ、「片付けは旅館の人の仕事ではないのですか」「それ(片付け)も宿泊料金のうちに入っているのではないですか」……という言葉が返ってきて、あぜんとして、虚脱感に襲われたと言います。

 都内で開いている勉強会では、時々経済界の著名な方を呼んで講演してもらうそうです。そんな時にも、話を聞きながらペットボトルの飲料水を飲むので、ハラハラのしどおしだと言います。設営準備で荷物を運んだりしていても、言われなければ手伝おうとしない。頭が働かないというか、「気配り」という言葉が一切存在しないというのです。

 私は、「以前と比べると、学校教育における『しつけ』の比重は大きく低下しています。それどころか、『しつけ』を打ち出すと、今の保護者には敬遠されてしまいますから、学校教育では難しくなっていますね」「昔の保護者が子どもに公共心とかマナーとかを身に付けさせることを、子育ての中心に置いていたのに対し、今の親は勉強が最大の関心事ですから、その違いも大きいと思いますよ」といった話をしました。

 少々勉強ができるより、社会常識がある、礼儀作法が身に付いている、気配りができる……そういったことのほうが社会生活ではよほど有用であるということで、お互いの意見が一致しました。
勉強も大事ですが、頭が働く、体が動く、気配りができるといったお子さまに育てていただきたいと願います。

 ちなみに、私が子どものころは、中学の先生から「きみたちは単なる消費者で、社会の役に立っていないのだから、電車でもバスでも立っていなさい」と、言われたものです。

 次回は、こうした時代において、お子さまにぜひ読んでほしい本についてお話しします。


プロフィール


安田理

大手出版社で雑誌の編集長を務めた後、受験情報誌・教育書籍の企画・編集にあたる。教育情報プロジェクトを主宰、幅広く教育に関する調査・分析を行う。2002年、安田教育研究所を設立。講演・執筆・情報発信、セミナーの開催、コンサルティングなど幅広く活躍中。
安田教育研究所(http://www.yasudaken.com/)

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