高校は長い目で子どもを育てる格好の時期[入学までの過ごし方 第4回]

「各駅停車」の子育て


私のところには、高校に合格した途端、「4月からはどこの予備校に通わせたらいいでしょう?」という問い合わせがあります。
入学したらすぐに今度は大学受験に向けて準備というわけです。こんなにお子さまを勉強に追い立てていいのでしょうか。
少しでも早く先の範囲を学習、大学受験に即した無駄のない効率的な勉強……そうした「新幹線」のようなわき目もふらず目的地にまっしぐらという勉強は、確かに大学に受かる可能性は高いかもしれません。
ですが、長い目で見た時、決してお子さまのためにはならないと思います。
社会に出て人間関係をつくる時、自分が趣味でやってきたこと、得意なスポーツがあること、人より少しだけでも詳しいことがあること……そうしたものが役立った経験は保護者にもきっとあるはずです。
あるいは、人生の中には孤独を強いられる時期もあります。そうした時、自分を支えてくれるものは続けてきた趣味などではないでしょうか。
お子さまがそのような自分を支えるものを見つける、つくる時間をぜひともつくっていただきたいのです。
部活の厳しい練習、なかなか意見がまとまらない委員会活動、夜までがんばった文化祭の準備、グループで一つのことを成し遂げた経験……そうしたことの一つひとつが自然とお子さまに人間関係の持ち方、社会生活を送るうえでのスキルを身に付けさせるのです。
ゆっくりだからこそ周りの景色が見える「各駅停車」の良さを、子育てにも生かしてください。


親以外の大人と接する機会を持つ

小さいころからひたすらかわいがって育ててきたせいもあり、我が子を厳しくしつけられないご家庭が増えています。高校生にもなると、今さら子どもへの接し方は変えられないものです。
そんな時は、子どもと接点がある世界(塾、習い事の先生でもOK)の人にしつけてもらうというのも、効果のあるやり方です。
親子は、長年ひとつ屋根の下で暮らしてきて、でき上がってしまった関係というものがどうしてもあります。
今になってお互いの口の利き方を変える、習慣を変えるといっても、お互いが同時にそんな心境になるのは実際のところ無理な面があります。そうした時、保護者の弟や妹が案外有効です。保護者より若くて本人に近いだけに、本人も心を開きやすいようです。
事情を話して、お子さまに言いたいことを代わりに言ってもらう。それだけでなく、おじさん・おばさんが気付いたことを遠慮なく本人に言ってもらうようにします。
社会性を養ううえでもとてもいいのではないでしょうか。自分に関心を持ってくれる人がいることを普段からわかっていれば、注意された時なども素直に聞けます。
ところがそうした人間関係を持ったことのない子どもは、見も知らぬ大人から注意されたりすると、途端にパニックに陥って、聞くどころか逆に攻撃的になってしまいます。
普段からいろいろな大人と接することに慣れていれば、大人からさまざまなことを学べます。大人に心を開いている子どもには、大人のほうも力を貸してくれるはずです。
自分勝手で、わがままに育った子どもは、模試などで不本意な結果が出たり、勉強が思うようにはかどらなかったりすると、勉強も投げ出したりしがちです。
そのようなことにならないよう、早いうちに精神的にも大人にさせたいものです。


プロフィール


安田理

大手出版社で雑誌の編集長を務めた後、受験情報誌・教育書籍の企画・編集にあたる。教育情報プロジェクトを主宰、幅広く教育に関する調査・分析を行う。2002年、安田教育研究所を設立。講演・執筆・情報発信、セミナーの開催、コンサルティングなど幅広く活躍中。
安田教育研究所(http://www.yasudaken.com/)

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