情操教育と受験教育[中学受験]

時代とともに変化してきた女子教育は確実に情操教育から受験教育にシフトしてきた。女性が仕事を持ち、経済的に自立することが当たり前になると、男性と同様に学歴を付けることが重視される。女性は社会的に弱者の立場にある分、学歴や資格で勝負しなければならないので、男子以上に学歴を重視するのは当然だ。将来が不確実な世の中では、女の子を持つ保護者は、我が子に生き抜く力を付けてあげたいと願うのだろう。

情操教育と受験教育[中学受験]


「情操教育」と「受験教育」がどれだけ社会に出てからの人生に影響を与えているかというデータはないので、どちらの教育が子どもたちにとってプラスかは判断できない。もちろん個人差があって、一概には言えないとは思うが傾向はあるはずだ。人間性を磨くことを目的とする「情操教育」と大学進学の学力を身に付けることを目的とする「受験教育」はどちらも子どもにとって重要な教育だが、目的が異なることもあり、学校としてはどちらの教育を重視するかを迫られる。

消費者ニーズを追求していくと社会のニーズである場合がある。社会が求めているものが「価値」であることが世の常である。これまでの就職では、四大卒の割合が少なかったこともあり、学歴を重視して採用してきた。しかし、最近の就職は、学歴ではなく、個人の能力を最も重視するようになった。偏見になるという理由で学歴は見ないで採用を行う企業も多くなってきている。
企業が学生たちに求める能力とは、入社してから活躍してもらうための力で、多くの企業で最も求められるのは「コミュニケーション能力」だが、それだけではなく「協調性」「リーダーシップ」がある。そのほかに「行動力」「熱意」「人柄」があるが、これは能力と言うよりも性格と言ったほうが良いかもしれず、どちらかと言えば情操教育で培われるものであろう。

コミュニケーション能力がなければ、いくら学歴が高くとも採用しないと採用担当者は力説する。人事部の若手社員は、大学生の面接を行う時に上司から次の面接に上げるかどうかの判断基準として「もしも迷ったら、自分が机を並べて一緒に仕事をしたい人(人柄)かどうかで決めなさい」と指導されるそうだ。これは「人柄」を重視していることがわかる事例と言えるだろう。

これまで、私立中高一貫校の女子教育は情操教育から受験教育にシフトしてきたが、それは消費者である受験生・保護者の動向である。その動向はそもそも社会の要請によるものだが、最近の企業の採用基準をみると社会の要請が変わってきたように思える。受験教育の「価値」が少なくなり、情操教育の「価値」が増えてきているように思える。近い将来、受験教育を売り物にする学校が情操教育を売り物にする学校に変化する時代が来るかもしれない。


プロフィール


森上展安

森上教育研究所(昭和63年(1988年)に設立した民間の教育研究所)代表。中学受験の保護者向けに著名講師による講演会「わが子が伸びる親の『技』研究会」をほぼ毎週主催。

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