第13回 読書の好きな子どもは適性検査に有利なのか

今回から、公立中高一貫校合格に向けてより実践的な話題を展開していきましょう。
まず最初に「読み取る力」についてお話しします。
よく言われる話に、「読書の習慣がついている子どものほうが適性検査に有利である」ということがあります。本当でしょうか。

確かに読書経験の多い子どもは、日本語にふれる機会が多いわけですから、語彙(ごい)が豊かになります。文章を読むスピードも速くなります。テレビやゲームに夢中になって時を過ごしている子どもよりも文章の理解力も高くなるでしょう。さらに適性検査受検に関してプラスに働く面としては、間接経験が豊かになることが挙げられます。これらのメリットは当然あるわけですから、読書量が多いに越したことはありません。
ひと月に10冊から20冊以上を読破するような子どもは、すばらしい子どもたちです。国語の読解問題をテストしても、難なくすらすら解いてしまいます。得点も高いことが多いですね。ところがよく分析してみると、物語文や比較的わかりやすい随筆文はよくできるのに、論説文や難解な用語が出てくる説明文になると相対的に得点が下がる子どもがいます。また読書量が多いにもかかわらず、私立中学入試の難関校レベルの国語読解問題になると、急に得点が伸び悩む子どももいます。受験の読解問題はある程度まで受験テクニックによってカバーできる面がありますが、適性検査問題に関しては、一筋縄ではいかないのが実情です。


コラム第1回で「公立受検」と「私立受験」の共通点として、次のようなことを書きました。


【問題文や設問は、子ども向けに易しく書かれた設問ではなく「大人の書いた」問題文であることです。小学校で行われる「カラーテスト」などの問題文を超えた「問いの文」で出題されているのです。】

※カラーテスト
教科書の単元終了後または学期末に、各組内で行う指導要領準拠の確認テストで、市販されていないものです。


例えば、平成21年2月に実施された神奈川県共通適性検査 I に以下の問題文があります。


問2(1)たけしさんの考えた説明の内容について、〔資料1〕を使い、具体的な数などを示して書きましょう。


たけしさんの説明は、問いの文のすぐ上の囲みの中にあり、その後段は以下になります。


「(省略)次に、1年間に増えた人口が最大と最小であった年を示して、それぞれ増えた人口が何人であるかを説明します。」


比較的簡単な問題文ですが、実は次のように「細切れ読み」をして書くべき内容をおさえる必要があります。


▼まず、何を答える問題なのか?
⇒たけしさんの考えた説明の内容を書く。
▼条件は2つ。
⇒条件1 〔資料1〕を使うこと
⇒条件2 具体的な数などを示すこと
▼次にたけしさんの説明の内容を読み取るのですが、前段は省略して後段だけ書くと、説明の内容は
⇒【1年間に増えた人口が最大であった年を示して、増えた人口が何人であるか】
⇒【1年間に増えた人口が最小であった年を示して、増えた人口が何人であるか】
の2つになります。
つまり、「それぞれ」の示す内容を一つひとつ読みきっておさえる必要があるわけです。


そもそも「読書の好きな子ども」というのは、読書のジャンルが小説や物語に偏っていることが多いものです。そこでは、登場人物に自己を投影して想像力を働かせ、場面や情景、気持ちの変化などを読み取っていきます。誰にテストされることもなく自由に一人読みができる世界なのです。ここにひとつ落とし穴があります。こういう場合の「読書」は、あくまでも主観的な読みなのです。

適性検査問題は、客観的で分析的な「読み取る力」を要求しています。ですから、読書の好きな子どもが必ずしも適性検査で有利とは言いきれないのです。


プロフィール



学習塾「スクールETC」代表。思考力を問う公立中高一貫校の適性検査対策に、若泉式の読解力・記述表現力の指導法が注目を浴びる。適性検査問題分析研究の第一人者としても活躍。著書に『公立中高一貫校 合格への最短ルール 』(WAVE出版)などがある。

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