【回答:吉本笑子】家庭学習・家庭内コミュニケーション<その3>

「中学受験は親子の受験」とも言われ、保護者のかたの役割はとても大きいもの。受験準備が進むにつれて、心配事や気がかりもいろいろ出てくるでしょう。よくある相談事例について、専門家の先生がたや、合格家庭の先輩保護者のアドバイスを集めました。

やる気を育てるために、日常の中でできることは?

成績が安定しない状況を、うまく乗りきる秘策は?

挫折は必要? 必要じゃない?

やる気を育てるために、日常の中でできることは?

本人のやる気のスイッチを入れるには、普段どのようなことをしていけばいいでしょうか?
やる気のスイッチを育てる具体例のうち、ここでは3つをご紹介します。

(1)できるだけ「体験」から知識や語彙(ごい)を得られるように工夫する
花マル笑子塾では、これを「先行体験」と呼んでいますが、先行体験からイメージと語彙を同時に獲得しておきます。後日、子どもたちが机上でその語彙に出合ったとき、「あっ! 知ってる」とやる気になれます。また、体験から得た語彙とイメージは考える力を育ててくれます。

(2)「できない」「ダメ」という側面から子どもを見ないようにする
どの子にも必ず優れたところはあるので、その子の可能性を信じることですね。
そうすれば、「この子はまだまだ幼いんだ。できないことがあって当たり前だ」と考えられるようになり、親の心にゆとりが生まれます。親が子どもの可能性を信じ、ゆとりをもって子どもと接していると、子どもの心は不思議と前向きになるものです。
これは大人でもいえることですよね。

(3)子どもの言葉を取り上げない
子どもはもっている少ない語彙で、自分の考えを伝えようとします。お母さんは、お子さんのことばが多少未完成でも、途中で注意をせずに、最後までじっくりと聞いてあげましょう。
「ママは私の話を一生懸命聞いてくれる」、そう思える体験が積み重なれば、子どもは親を信頼し、どんどん話をし始めます。また、自分の思いを語彙にするには? と新しい語彙の獲得に意欲的になるものです。
また、信頼関係があれば親の話を聞く姿勢も生まれるので、親が何を言いたいかも理解しようとしますから、聞く力も育っていくことでしょう。

成績が安定しない状況を、うまく乗りきる秘策は?

子どもの成績がなかなか安定しません。どうしても親は数値的な結果や、時間がないなどのプレッシャーをかけてしまいがちです。
このような状況をうまく乗りきる工夫を教えてください。
進学塾に通う目的は私立中学に合格させるためですが、そこにだけ焦点を合わせると、親も子も「不安」「焦り」を引き寄せてしまい、心が不安定になってしまいます。
また、順位や偏差値を基準とした学習にならないように注意が必要です。
その対策として、また、子どもの成長を促す方法として、受験も成長への経験ととらえ、「自分と対峙(たいじ)させる機会」と考えるようにします。

例えば、テストの結果(点数、順位、偏差値)と対峙するとき、親は、「テストは『レントゲン』と同じ、悪いところが大切なのだから、できなかったところができるようになるにはどうしたらいいか、今までの学習方法を振り返って考えてみよう」と提案し、子ども自身が自分の問題点を省みる機会にします。そこから、いろいろな問題点をさぐり、自分に合った学習、学びを追究していくようにします。この方法は、子どもに「自分」を考える機会を与え、また、問題に出合ったときの対処法を体験、訓練することもできます。

挫折は必要? 必要じゃない?

人生において大人になるまでに挫折(ざせつ)は必要だと思っています。挫折を何度も乗り越えて成長すると思うからです。
「挫折はさせないように」とおっしゃっていますが、それでいいのでしょうか?
おっしゃるとおり、私も人生において挫折は必要だと考えます。が、小学生時代には「挫折」を体験させたくないと思っています。

この考えは、長年の受験指導で得たものです。
まだまだ未熟な子どもたちですから、日々失敗をくり返します。この失敗を大人が責めたり、点数などで優劣をつけたりし続けると、ある日、子どもの心は「もう疲れた!  算数は嫌い」「どうせ僕は勉強ができないんだから」と「挫折」してしまうことがあります。経験の少ない子どもたちは、挫折をバネにする心が育っていないことが多く、そのまま、「僕は勉強が苦手」というまちがった判断をしてしまうのです。

こんな経験から、私は子どもたちが日々くり返す失敗を挫折に変えない大人のサポートが必要だと考えています。

例えば、子どもが自分で良いと判断してやってみたことに失敗したとき、ここが「成長へのチャンス」! 「失敗」とどう向き合い、自分らしくどう改善するか。そんな考え方を子どもに伝えてあげることが必要だと思うのです。
その経験が、子どもにいろいろな考え方と出合うチャンスを与え、自分を信じる力を少しずつ形にしていくのだと思っています。

私の教え子たちが、皆口をそろえて、「テストはレントゲン!  できないところがわかるんだよね」と言い、まちがいを大切にする姿勢が身についているのは、幼少の頃からご両親が「子どもなのだから、できないことがあって当たり前」「結果が悪いときは、この結果を招いた原因と、どうすれば改善できるかを考えればいい」とサポートしてくださったからだと思っています。

プロフィール



私立中学受験指導のカリスマ教育カウンセラー。講座「お母さんの勉強室」は予約が殺到。『泣かない中学受験』をはじめ多くの著書では、子どものやる気を引き出し、できる子をつくる方法と心温まる合格へのプロセスが語られている。

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