【回答:若泉 敏】適性検査・受検対策<その3>

「中学受検は親子の受検」とも言われ、保護者のかたの役割はとても大きいもの。受検準備が進むにつれて、心配事や気がかりもいろいろ出てくるでしょう。よくある相談事例について、専門家の先生がたや、合格家庭の先輩保護者のアドバイスを集めました。

公立中高一貫校志望。通っている小学校について塾の先生が「内申が不利」と言う

公立中高一貫校の合格ポイントは?

転校は公立中高一貫校受検に不利にならないか? 転校先は受検する子どもが多いほうがいいのか?

公立中高一貫校志望。通っている小学校について塾の先生が「内申が不利」という

都内の小学校に通っています。生徒数がとても多く、そのうえ受験に熱心な人が多く半数以上は受験するといわれています。公立の中高一貫校をめざしていますが、同じ学校に通わせている友人から「塾の先生に、通っている学校は内申が取りにくく不利と言われた」と聞きました。その意味がよく理解できません。

小規模の学校のほうが受験をする子どもに多少有利な内申でも書いてもらえるという意味なのでしょうか? それとも成績優秀な子が多く、良い成績をとりにくいから内申がとれないという意味なのでしょうか?
今は絶対評価になっているので、学校によって有利不利ということはない。うわさに惑わされず、お子さんの学力向上を図って

「内申」という言葉を使っていますが、公立中高一貫校が選抜資料とするものは、小学校が作成する(厳封された)「報告書」です。
「報告書」の中に、「各教科の学習の記録」の欄があり、評定が「3、2、1」のいずれかで書かれています。この評定は、相対評価ではなく、絶対評価でつけられています。
2001年度までは、相対評価が行われていましたから、例えば算数で80点をとったとしても、同じ学年のほとんどの児童が81点以上をとれば、相対評価では「1」がついてしまいます。逆にほとんどの児童が79点以下であれば「3」がつくといったように、所属する集団によって評定は決まることになっていました。

絶対評価(個人の到達度基準を評価すること)が行われている今日においては、指導要領に基づく観点別評価なので、学習到達度が高いと判断されれば「3」がつきます。人数割合による制限はありませんから、優秀な児童の多い学校でもそうでない学校でも、到達度が高いと判断される児童は、「3」の評定がつきます。主観的な判断がされると懸念を言う人がありますが、指導要領に基づいてかなりきめ細かく基準が設定されていますから学校を信頼してもいいのではないでしょうか。
したがって「小規模の学校のほうが受験をする子どもに多少有利な内申でも書いてもらえる」や「成績優秀な子が多く、良い成績がとりにくいから内申がとれない」ということは全くありません。どうか、うわさや伝聞に惑わされることなく、ご自身で確かめた上、お子さまの学力向上を図ってください。

公立中高一貫校の合格ポイントは?

東京都立の中高一貫校の受検を検討しています。どの学校も倍率が高く、私立受験のような勉強のやり方では合格できないことも伺いましたが、合否を分ける最大のポイントはどんなところなのでしょうか?
合否を分ける最大のポイントは、論理的思考ができるか否かと、どうしても受かりたいという強い意志。最後まで自分を信じて努力をしよう

合否を分ける最大のポイントは、論理的思考ができるか否かにあります。そして本試験(適性検査)の際に、所見の問題に対してあきらめたり投げ出したりしないで、「鳥の目と虫の目」を駆使して追究していく精神や合格への強い意志を含めた人間力にあるといえるでしょう。
ここで小学生に問われる論理的思考力とは、「同じものや違いに着目して物事を区別し、あれとこれの関係やつながりがわかるように考えて判断し、さらに判断した根拠を明らかにしたうえで相手にわかりやすく説明する力」です(論理的思考力については、こちらに書いておりますのでご参照ください)。
都立中高一貫校の適性検査は全国の適性検査の中でも高いレベルにあります。そこでは学校の教科書の知識そのものを問われることはまずありません。むしろ学習や経験で獲得した知識・技能を、日常生活のいろいろな課題に対して活用する力が問われています。設問の問題文はかなり複雑で難解なものになっていますから、小説や物語を読むような国語読解力とは異なる論理的・分析的な文の読み取り方が必要です(これについては、拙著『公立中高一貫校合格への最短ルール 適性検査で問われる「これからの学力」』をご覧ください。)

さて、都立(区立を含む)中高一貫校は、来年度開校の4校を含めると11校になります。どの学校も5倍以上の倍率ですから、模擬試検等で高い評価が出たとしても必ずしも合格するわけではありません。しかし適性検査は、受検生の中で相対的に上位の力を出した子どもが合格するものですから、倍率などにとらわれず本人の力を高めることに努めましょう。親子が一緒になって最善を尽くし、努力してきたそのプロセスは、お子様のみならず、家族にとってもその後の生きる力となるでしょう。
これまでの受検生を見ていますと、最後に合否を分けたものは、どうしても受かりたいという強い思いや、培ってきた力をあきらめないで出しきった強い意志であったように思います。

※2009年4月現在の情報に基づいた回答です。

転校は公立中高一貫校受検に不利にならないか? 転校先は受検する子どもが多いほうがいいのか?

4年前に転勤で東京から大阪に引っ越し、市立小学校に通わせています。現在2年生ですが、5年または6年生の頃に東京に戻り、公立中高一貫校の受検を考えた場合、小学校の先生に作成してもらう必要書類が他の転校生でない子どもたちと比べ不利にならないか気になります。
また、転校先の公立小学校選びも中高一貫校受検をする子どもが多数いる小学校のほうが、メリットがあるのか教えてください。
転校はいっさい不利にはならない。受検生が多い学校かどうかも関係ない

結論から言えば
(1) 転校はいっさい不利になりません。
(2) 転校先に受検者が多数いるか否かは、公立中高一貫校合格に全く影響を与えません。

詳しく話しましょう。
(1)について、報告書が気になるのでしょうね。親が高校受験の頃は相対評価でしたが今は絶対評価です。学習指導要領の基準にしたがった到達度が一人ひとりについて絶対的に評価されるのです。学習指導要領は全国統一の基準をもっていますから、大阪が低く東京が高いわけではありません。したがって転校が不利に働くことはありません。
次に(2)について、「メリット」とは、いかなることを想定しているのでしょう。私立中学受験とは違いますよ。適性検査は、個々人の能力や態度が志望する公立中高一貫校の教育目標や方針にかなうかを測るものであって、競争を前提とした相対的な学力を求めるものでもないし「みんなで渡れば怖くない」というような、他の人の考えに影響される子どもも拒絶する検査です。
1つの公立中高一貫校に入学する児童は、各小学校に1人か2人、多くても5人いるかいないかです。志望者が多くても結局は、一人ひとりの家庭の取り組み次第です。むしろお母さまが「不利になるかならないか気になる」とか「メリットがあるのかないのか」という次元で心を痛めていることのほうを心配します。
そんなことを思い悩んでいるよりは、どの学校へ転入しても、すぐに高い評価が得られるような本質や傾向をもつ子どもに育てていくことが大事ではないでしょうか。
どのような場面でも意欲をもって活発に活動し、他の子どもたちと協力して仲良くやり遂げられるお子さまに育ててください。また、先生や友達の話をよく聞き、自らよく考え、的確かつスピーディーに対処することができれば、学習面でも高い評価が得られるはずです。

プロフィール



学習塾「スクールETC」代表。思考力を問う公立中高一貫校の適性検査対策に、若泉式の読解力・記述表現力の指導法が注目を浴びる。適性検査問題分析研究の第一人者としても活躍。著書に『公立中高一貫校 合格への最短ルール 』(WAVE出版)などがある。

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