寮制学校 その1[中学受験]

今春3回目の募集であまり耳目を引かなくなったが、海陽学園(海陽中等教育学校)(愛知)のことを先日耳にする機会があった。
海陽学園はご存じのかたも少なくないだろうが、日本を代表する企業であるトヨタ自動車、東海道新幹線という日本の動脈を支えるJR東海、さらに中部地方の電力を供給する中部電力など、いわゆる中京圏屈指の企業が設立した学校だ。
はるかな目標をイギリスの寮制学校であるパブリックスクールのイートン校などにおき、いわゆる従来の進学校イメージと一味違うリーダー養成色を前面に出しての学校づくりである。

初代校長は前の開成中学校・高等学校(東京)の校長をなさった伊豆山先生で、氏はご高齢ながらとてもお元気で相変わらず頭脳の回転が速く、またおそらくこの学園関係者では唯一の旧制中学校・旧制高校のご出身者であろう。

旧制中学校・高校は我が国の成功した教育機関として広く認識されており、その教養主義を体得したリーダーが校長であることは海陽学園のスタートにとって幸せな出会いだったと考えている。
というのも、この教養主義は今日の公立難関校のような進学一辺倒の様子と異なり、いわゆる進学教育とは一線を画した教養による人格形成に重点をおいているからだ。リーダー養成には欠かせない観点だが、たとえば関西では灘中学校・高等学校(兵庫)や東大寺学園 中・高等学校(奈良)、関東では武蔵高等学校 中学校、学習院中等科・高等科、成蹊中学校・高等学校、麻布学園、開成中学校・高等学校(以上東京)など旧制高校あるいは旧制中学校以来の伝統校にそうした傾向が残っている。
ただ、現代はその昔のように特権的エリート階級はないから、子どもたちは進学の勉強もしなくてはならず、また一方で今日のようなグローバルな競争社会をリードしていく人材となることをも期待されている。
しかし、特に後者について保護者の期待の割に学校の現実はなかなかついて行けないことが多い。

そんななかでイートン校日本事務所の話によれば、オックスフォード大学やケンブリッジ大学に進学が決まっているイートン校卒業生がギャップイヤー(※)を利用して海陽学園に少しの期間訪れたところ、中学生たちが実に活発に発言し(もちろん英語で)、その反応のレベルが高かった、ということだった。
我が国の場合、東京大学合格者が2けたくらいに達しないと「有名進学校」として認知されない現状はあるが、本当はこうした学校の教育の中身に由来する生徒文化が優れているかどうかが決め手なのである。
その意味で海陽学園はなかなかの水準だ、と言える。

(※)ギャップイヤー
大学入学が決まっている高校卒業生が、入学を一定期間(おおむね1年程度)先送りにし、見聞を広めることを目的に国内外でさまざまな経験を積むこと。

プロフィール


森上展安

森上教育研究所(昭和63年(1988年)に設立した民間の教育研究所)代表。中学受験の保護者向けに著名講師による講演会「わが子が伸びる親の『技』研究会」をほぼ毎週主催。

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