夏期講習に何を求めるか[中学受験]

 夏休みをどう過ごすか、これは実に定番の話題であるけれども、これくらい楽しみな、しかし難しいテーマもない。

 そもそも考えていただきたい。普段の日中の勉強は学校という公共的空間・時間にいて、とても受験に向けた勉強はままならない。でも塾であれだけやっているではないか、と言われてもこれが果たして志望校の合否にどこまでつながるのか展望がもてない。夏休みこそはその辺りをしっかりやりたい。否やらせたい。−そう思っておられる保護者は多いのではなかろうか。

 しかし、それがなかなか実行できる方が少ない。なぜかというと一つには塾がやはり夏も忙しいからだ。むしろ普段よりボリュームがある分、家でやるべき勉強が多く、楽ではない。以前某塾の夏休み日程をのぞいたところ、毎夜就寝は午前様で、睡眠時間はわずか4−5時間というすごい内容が珍しくないのにびっくりした記憶がある。塾がそれを強いているのではないけれども、それをみた受験生がそれくらいやらないといけないのか、と思うとすれば同じことだ。特に偏差値40台の受験生にとって長時間の学習は余り意味はない。それはムダな学習だ、というのではないが学習意欲や学習方法に問題があるから偏差値40台なのに、同じ状況で長い時間机に向かわせても効果は上がりにくい。

 では偏差値60以上の受験生にとってはどうか。彼らは既に基礎基本はしっかり出来ているのだから、あとは志望校入試問題に向けた絞り込みが必要なのであって、メリハリをつけた学習メニューを用意すべき時だ。オールラウンドに問題をこなすような夏期講習ではムダが多くなる。残る偏差値50台が、恐らく塾の夏期講習はピッタリくるはずである。ただ欲を言えば、このレベルの受験生は何か、あるいは何かと何かが不得意科目として足を引っ張っているケースがほとんどだ。

 つまり必要なことは、この不足している学力をどこまで伸ばせばよいか、あるいは足りている学力をどこまで補えるか、についてしっかりとフォローすることだ。こういう視点でみると、夏期講習のメニューにこうした対応のできる個別カリキュラムは通常は用意されていないので、効果的な時間の使い方ができないことが多い。もちろん、復習中心のカリキュラムや、分野融合問題への対応法など夏期講習ならではの内容もあるので、これらを上手にこなせば力がつくことはつくだろう。ただ何度も言えば、よく学ぶには事前に学習方策をよく知り得て事に臨むとよく完遂できる。ただ、受験でメニューをこなすだけでは、折角の学びも十分な成果は挙げにくい。かくして夏期講習明けの9月の成績は下降していく、という妙なことが起きる原因をつくることになりかねない。

 これでは全くの無駄骨というものだ。

プロフィール


森上展安

森上教育研究所(昭和63年(1988年)に設立した民間の教育研究所)代表。中学受験の保護者向けに著名講師による講演会「わが子が伸びる親の『技』研究会」をほぼ毎週主催。

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