少年野球から算数を教える?元「体操のお兄さん」佐藤弘道が考える、学ぶ意味

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「学ぶ意味」をお子さまから聞かれた時、どう答えていますか? 役に立つため、将来のため……返答はいくつも浮かぶものの、どれも少ししっくりこない。そんな疑問を、大人になった今も学び続けている方々に投げかけてみました。

今回お話を聞いたのは、NHK『おかあさんといっしょ』で第10代体操のお兄さんを務めた「ひろみちお兄さん」こと佐藤弘道さん。
親子・幼児向け体操教室の運営を行うかたわら、大学院で博士課程を修了し、現在は大学で教壇に立たれています。佐藤さんにとっての「学ぶ意味」、そして学び続けるために大切なことを聞きました。

この記事のポイント

知る喜び、動く解放感。学びは「楽しさ」につながる

——まず率直に、佐藤さんが考える「学ぶ意味」は何ですか?

「知らないことを知る楽しさ」を感じるためです。それは、僕が専門としている運動に限らず、机に向かう勉強も含めて言えることだと思います。

——運動も勉強も、ですか。

はい。運動でいえば、やったことがない・触れたことがないスポーツに挑戦することで、今までとは違う身体の使い方を知ることができる楽しさがあります。一方で机に向かう勉強は、新しい知識が増えることで知的好奇心が刺激される楽しさがありますよね。そうした学びの楽しさを感じるためには、「興味を持つこと」が大切だと考えています。

——佐藤さんが体操に興味を持ったのは、どのようなきっかけがあったのでしょうか。

小学2年生の時に、たまたまテレビで流れていた世界的なスポーツ大会の中継で、男子体操を見たことでした。幼いころ、僕はヒーローアニメが大好きで、ヒーローたちが必殺技を繰り出す前に宙返りや側転するのを見て「かっこいい! 僕もやってみたい!」と思っていたんです。

だから、男子体操を見た時は衝撃を受けました。だって、ヒーローたちがしている宙返りや側転を人間もできることを知ったから(笑)。すぐに「自分もやりたい!」と思い、体操教室に通い始めました。

興味の芽を育てるのは、ちょっとした問いかけ

幼稚園指導の様子(写真:本人提供)

——学ぶためには「興味を持つことが大切」とのことですが、興味を育むにはどうしたらいいのでしょうか?

1つは、興味を失わせないこと。僕はこれまで、両親から「勉強しろ!」と言われたことがないんです。だから、自分の子どもたちにも「勉強しろ!」と言ったことがない。

——「勉強しろ!」と言われると……。

途端に興味を失ってしまいますよね。人から言われてすることは「強制されてやらされるもの」になってしまい、興味をなくしてしまいます。

——ですがそれでは、たとえばゲームやテレビなど自分の興味のあることしかしなくなってしまいませんか?

そこで大切なのが、2つ目の興味付けです。僕が高校生の時、体育の先生から「佐藤は有名なスポーツ大会を見て体操に興味を持ったけど、その大会の歴史を知っているか?」と言われたことがあります。そう言われて初めて知らなかったことに気が付き、歴史に興味を持つようになったという経験があります。

——つまり、既に興味のあることを起点にひも付けていくということですね。

まさにです。僕は、自分の息子たちにも同じようにしていましたね。息子2人は少年野球を習っていたのですが、野球に夢中になり勉強がおろそかになったことがありました。そこで僕は「ファーストからセカンドの距離ってどのくらいあるのかな?」「打率ってどうやって導き出すの?」と聞いたんです。

——距離や打率、確かに算数につながりますね!

他にも、「監督の言っていることをより理解するためにはどうしたらいいかな?」と言うと、国語への興味付けになりますよね。

「できなくてもいい」それでも好きでいてほしい理由

親子体操教室の様子(写真:本人提供)

——佐藤さんは体操教室も運営されていますよね。生徒とのコミュニケーションで、気を付けていることはありますか?

はい、必ず伝えていることがあります。それは「できなくてもいい。だけど好きでいてね」です。

——できないのに、好きでいる……?

そもそも体操教室に通うのも、何かを学ぶのも「できないから」「わからないから」じゃないですか。なので、始めたてが「できない」のは、当たり前なんですね。

——なるほど。ですが、「できないけど好きでいる」のは難しくないでしょうか? できないと嫌いになってしまいそうな……。

そうですよね。そのために僕の体操教室では、《遊び》を創造することを大事にしています。

——《遊び》を創造する?

たとえば、縄跳びは跳ぶものだと思っていたら、跳べないと好きでい続けるのは難しい。でも、僕の場合は子どもたちに跳ばない技を教えるんです。すると子どもたちは、「何それ、マジック!?」と興味を持ってくれます。とにかく縄跳びに触れ、縄跳びで遊ぶ。他にも、跳び箱は積み重なっている枠を分解して、自由に組み立てたり、中に入って遊んでみたり。

「こうしなければいけない」と思っている子どもたちへ、縄跳びも跳び箱も跳べなくてもいいんだよと世界を広げる。まず好きになってもらえれば興味を持ち続けられるし、興味を持っていれば子どもたちは自然と自分で学び始めます。すると、いつの間にかできるようになっているものです。

——そう思うと、最初に「できなくてもいい」と言ってもらえることが安心感にもつながりますね。

はい。やっぱり興味がなかったら好きにもならないですし、学ぶこともない。まずは何より知らないことを知る楽しさを感じてほしいですよね。だって学びというのは、「楽しいもの」だと僕は思うから。

◆佐藤弘道が考える、学ぶ意味

「『知らないことを知る楽しさ』を感じるため」

  • 知らないことを知るためには「興味を持つこと」がポイント
  • 興味のあることを起点として、別の分野とひも付けて興味心を育む
  • はじめは「できなくてもいい」。だけど、「好きでいる」
  • 「好きでいる」ために、既存の枠を超えて《遊び》を創造する

<文・田邉 なつほ>

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