就職してもすぐ離職!? 中学生から考えたいキャリア教育
先日、公立中学校で「経済のしくみ」についての授業と、「お店の新商品を開発しよう」というワークショップを担当させていただく機会がありました。これは就労体験学習の一環で、生徒は仕事現場のドキュメント視聴、体験先の調査、接遇マナーなど様々な準備をしたうえで、5日間の就労体験に臨みます。
まだ働いたことのない中学生にとって、連続した5日間の就労体験は、間違いなく貴重な機会になるはずです。ワークショップ授業の最後に行ったグループ発表では、全員が役割を分担でき、すでに生徒たち一人ひとりに当事者としての自覚が芽生えていました。
中学校での取り組み「就労体験」
文部科学省の中学校職場体験ガイドには、充実した職場体験を実践するためにはある程度の期間が必要、との一文があります。「緊張の1日目、仕事を覚える2日目、慣れる3日目、考える4日目、感動の5日目…人と触れ合う期間の長さが生徒の心に変容を与えます」。
生徒たちの受け入れ先である事業所の理解と配慮に敬意を表しつつ、この取り組みが今後さらに充実していくよう、期待したいところです。
学校から職業への移行と課題
そもそも学校が行う就労体験は、次世代育成の実践的な取り組みの1つです。若者の就労については、これまでにもいくつかの課題が指摘されてきました。
例えば、(1)学校から社会・職業への移行が円滑でないこと(内閣府:子供・若者白書 平成28年版)、(2)新規学卒者の3割が3年までに辞めること(厚生労働省:新規学卒者の離職状況)などです。グラフの通り、平成24年の新規学卒者の3年後(平成27年)の離職率は32.3%でした。
出典:厚生労働省「新規学卒者就職内定率と3年以内の離職率」
(1)の理由としては、学生の専攻や適性と職場で求められる力が乖離(かいり)していること。情報の高速化・経済のグローバル化で社会が目まぐるしく変化しているにもかかわらず、体験の場が少ないこと。キャリア教育の浸透もまだ十分ではなく、長期的プログラムの実施や専門員の配置などには時間がかかることなどがあげられます。
(2)については、最近の特徴であるかのような印象を受けがちですが、そうではありません。ご覧のとおり、データを取り始めたころから、新規学卒者の3年後までの離職率は、おおむね30%程度で推移しています。
大学等でのインターンシップ制度が広がってきたとは言え、限られた経験の中で納得できる企業や職種を見つけるのは、なかなか難しいと言えそうです。
このほかにも、雇用形態の多様化など様々な問題が横たわっています。大事なのは、一部の人がよい条件で就労できる状況ではなく、転職や復職が不利にならない支援とフラットな雇用システムを構築することでしょう。
なぜ働くのかを共に考える
進路について話し合うご家庭は多いかもしれませんが、保護者が子どもに仕事の話をする機会は、意外に少ないのではないでしょうか。子どもが就労体験を控えているなら、励ましやアドバイスができますし、そうでなくても、なぜ働くのかという素朴な疑問や、人の役に立つことの喜びについて、ざっくばらんに考える場になると思います。
保護者が、「家族の生活を守るために働き、あなたの成長が働く原動力」ということを、子どもに伝えるよい機会です。多くの人は働いて衣食住を賄い、家族や社会の一員としての責任を果たしています。ある意味当然のことではありますが、決して楽にできているわけではないという本音を話すことも大事でしょう。
アメリカの心理学者マズローは、「欲求の5段階説」で、人間は「生理的」、「安心安全」、「社会的」欲求が満たされると、より高次の「尊厳」、「自己実現」の欲求が生まれると言いました。なぜ働くのかを子どもと一緒に考えるヒントが、ここにあるのかもしれません。
(筆者:中上直子)