「行動できる子」にする育て方【前編】
グローバル化が進み、多様化する社会の中で、これから大人になる子どもには、自分で考え、行動する力を身に付けることが必要とされてきています。
では、具体的に子どもに「行動する力」を身に付けさせるには、どうしたらよいのでしょうか。現在、子どもたちの行動する力を養う学習方法として、「アクティブ・ラーニング」が注目を集めています。著書の『「動ける子」にする育て方』で、アクティブ・ラーニングをはじめとするさまざまな教育方法を紹介している、京北幼稚園園長の川合正先生に教えていただきました。
常に緊張状態で学校生活を送る子どもたち
ある日、総合の授業のなかで、生徒が短歌をつくり、自分がよいと思ったものに投票するというものがありました。そのなかで、特に生徒たちの支持を集めたのは、平凡な毎日や毎日疲れている様子がわかるものだったことに、私は驚かされました。いったい、なぜこのような状況に子どもたちを追い詰めることになってしまったのでしょうか。
私は1970年代から教師をしていますが、1970年代というのは、非常にエネルギッシュな時代だった印象があります。たとえば、隣の学校の生徒とケンカをしたとしても、あまり問題にはならず、元気な子どもがよいとされていた時代です。ところが、80年代、90年代と時代が進んでいくにつれて、大人たちは、ケンカをする子どもや、授業中に授業とは関係のない発言をする子どもは、よくない子どもだというレッテルを貼るようになりました。結果として、彼らはとてもまじめで、優しい子どもに育つことになりましたが、言われたとおりに学びはしますが、自分で考えて行動するという力が、奪われてしまったように感じるのです。
今、なぜ「行動できる子」なのか
東日本大震災を経験し、私たちの価値観は大きく変わりました。10年後や20年後に、社会がどうなっているのか、今までの価値観や、現在信じていることが必ずしも正しいとは、誰にも断言できません。だからこそ、子どもたちが大人になった時、どのような社会になっていても、そこで生き抜いていける力を身に付けてほしいと、私は考えています。具体的には、人に指図されなくても自分で考えて工夫や判断をし、それをアウトプットしていけるような力を養ってほしいのです。
次期の学習指導要領の改訂では、課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習の一つとして、アクティブ・ラーニングを取り入れる方向性が示されました。さらに、大学入学試験を改革し、到達度テストを実施することも検討されています。こういった改革が実施される今だからこそ、「行動できる子」を育てるチャンスです。保護者のかたも、このチャンスを前向きに生かしてみてはいかがでしょうか。
大切なのは、日本の実情に合った「自我」を養うこと
精神分析学者のフロイトは、エネルギーの源泉となる本能的な欲求(アクセル)と、その欲求にブレーキをかける「超自我」をハンドリングすることこそが、自我の芽生えだとしました。たとえば、「うそを言ってはいけない」というのは、当たり前の規範意識ですが、すべてにおいてこのルールを守るのは、実際には無理でしょう。大人というのは、超自我が身に付いているものです。やってはいけないこと、やってもよいことの区別がつき、そのうえで状況に応じて自分で判断できる自我の力が養われているのです。アクセルをふかしすぎるのは危険ですが、ブレーキが効きすぎても、前に進めません。その二つを、ハンドルで操作していくことが、自我だという風に私は考えています。
「自我」というものは、欧米ではかなり重要視されています。自我を出すことが素晴らしいこととされ、自分の意見をストレートに主張するディベートが流行しました。しかし、相手を否定し、自分の意見を主張するという欧米的な「自我」は、日本ではあまり受け入れられないのではないでしょうか。それは、日本はあくまで、相手のことを気遣いつつ、自分の意見を発するという自我が、圧倒的に受け入れられてきたからです。
そういった意味で、ハンドルとブレーキをうまく日本人の実情にフィットするように、バランス感覚を養っていくことが、これからの日本に必要になってくると、私は考えているのです。
こうしたハンドルとブレーキを使いこなし、「行動できる子」を育てる学び方として注目を集めているのが、「アクティブ・ラーニング」です。
次回は、ご家庭でできるアクティブ・ラーニングについて教えていただきます。
『「動ける子」にする育て方』 <晶文社/川合正/1620円=税込> |