中学生のネットいじめ対策は小学生から‐渡辺敦司‐

ネットいじめ(インターネットによるいじめ)の問題は、これまでにも当サイトでも紹介してきました。ネットいじめはリアルないじめと連動しており、かつ、スマートフォン(多機能携帯電話、スマホ)が普及する中学生から深刻化すると見られます。しかも、中学校でのネットいじめは小学校時代と無関係ではないこと、また、小学校時代と進学先の中学校のネットいじめには複雑な関係があることがわかってきました。

佛教大学の原清治教授らのグループは、日本教育学会の大会で、ネットいじめに関する実証的な研究発表を毎回行ってきました。8月に東京で開催された今年の大会(外部のPDFにリンク)では、関西のある自治体と協力して、ネットいじめの啓発活動を行うとともに、ネットいじめの実態調査を行った結果を報告しました。

たとえば、一つの中学校区に小学校が2校あり、2校ともネットいじめが皆無だった時、中学校に進んでからのネットいじめは、起こる心配がないようにも思えます。しかし実際には、中学校から深刻化ないじめが始まったケースがありました。逆に、小学校2校ともネットいじめが多くても、中学校ではそれほど深刻にならないこともあります。
研究グループによると、これは、複数の小学校が集まる時の「学校文化の衝突」が影響しているというのです。学校文化とは、先生の指示に子どもが素直に従って行動する、みんなで協力することが学級目標として共有されている、といったような、子どもの規範意識や振る舞いに関わるものです。ネットいじめがない小学校同士でも、学校文化が違った場合、出身校によって子どもたちに意識の差があることで文化衝突が起こり、それがネットいじめの下地になる、というわけです。

調査を行った自治体の全校を対象にした調査でも、小学校の文化のギャップが大きいことから集団間の摩擦熱が強まり、中学校がひどく荒れるケースが確認されました。一方、「文化葛藤」の生まれにくい中学校では、生徒の多くが「勉強が好き」と答えただけでなく、友人や家族、近隣住民との関係も良好だとする傾向にあったといいます。

こうした考え方は、学校での効果的な啓発活動にも役立ちます。学校文化の衝突がネットいじめの大きな要因になっているような中学校で、「ネットいじめはいけません」などと一般的な啓発をしても、あまり効果は期待できません。学校の状況に応じて「カスタマイズ」することが重要だといいます。実際、研究グループでは、アンケートなどをもとに、学級などでの人間関係の改善を働きかけるような啓発活動を続けることで、友人関係や親子関係が良好になり、それがネットいじめの減少につながったり、たとえネットいじめがあっても、軽度の段階にとどまったりする効果が表れているということです。

ネットいじめは、リアルないじめとも連動するものです。いじめが起こってから事後対応するのではなく、人間関係の改善も含めた啓発活動など未然防止の取り組みが、いじめの深刻化を防ぎます。そして、それは一見問題のない、小学校の段階から着手する必要があるのです。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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