勉強がはかどらないのは「受験うつ」かも?【治療・予防編】

近年増えているといわれる受験生のうつ症状。その治療法と予防について、前回に引き続き、受験生のうつ病治療に数多く携わってきた、本郷赤門前クリニックの吉田たかよし院長にお話を伺いました。



勉強がはかどらないのは「受験うつ」かも?【治療・予防編】

【治療法】薬に頼らない治療法が広がっている

日本ではこれまで、うつ病の治療は主に、抗うつ薬で進められていました。抗うつ薬として広く使われているSSRIやSNRIは、従来の三環系抗うつ薬などに比べると、副作用はかなり軽減されています。ただし、脳が未発達な未成年が服用すると、かえって自殺のリスクを高める場合もあるという研究が発表されており、使用には十分な注意が必要です。下記のように投薬以外の方法での治療もありますので、医師に治療法を相談しましょう。症状にもよりますが、半年ほどで通常の受験勉強ができるレベルに回復するケースが主流です。


●運動療法
散歩やウオーキング、ジョギング、水泳などの有酸素運動は、うつ病の治療や予防に大きな効果を持っていることがわかっています。有酸素運動によって脳内で精神の安定に関わるセロトニンという神経伝達物質が豊富に作られ、不安が減り、気持ちの落ち込みも緩和されるのではないかと指摘されています。

●認知行動療法
うつ病になると、ものの受け取り方や考え方(認知)が悲観的になり、これが症状をさらに増悪させるという悪循環を起こします。これに気付いたうえで、考え方を柔軟にすることで心を楽にし、症状を緩和させる心理療法です。

●うつ磁気刺激療法
うつ病になると、脳の左側の背外側前頭前野(DLPFC)の活動が低下し、逆に不安感を生み出す扁桃(へんとう)体は過剰に活動するというアンバランスな状態に陥ります。それに対し、頭の外から脳の背外側前頭前野に磁気で刺激を与えて本来の活発な状態に戻すというのが、うつ磁気刺激治療です。これによって、扁桃体も二次的にもとの安定した状態に回復するため、不安感もおさまります。副作用が少なく安全性が高いのが特長です。また、早期に効果が表れる治療法としても注目されています。わずか2週間で効果が表れ、志望校に合格した受験生もいます。


受験を予定されているお子さまにうつ症状がある場合は、まずは勉強よりもしっかりと治療することが基本になります。うつ病の専門医にかかれば、学校に通う頻度や勉強のペースなどのアドバイスを受けられる場合も多いですので、相談してみましょう。



【予防法】お子さまに十分な愛情を

お子さまがメンタル面で問題をかかえている場合、大なり小なり家庭でのコミュニケーションがうまくいっていないことが多いです。私もよくアドバイスするのですが、8対2ぐらいの割合で、お子さまの話をたくさん聞いてあげることが大切です。「子どもをとても愛しています」という保護者のかたほど、本当の意味での愛情が足りないことが多々あります。たとえば、お子さまのことを思い、「よい学校に入学させたい」という気持ちばかりが強くなってしまうあまり、顔を合わせるたびにテストの点や偏差値の話ばかりしているといった具合です。
お子さまは「よい学校に合格しなければ自分は愛されないのでは」という不安を抱いてしまいます。どんな進路に進もうとも、自分は子どもをしっかり愛しているということを伝えてあげてください。
また、受験をするのであれば、お子さま自身に受験の目的意識があることが大切です。小学校受験では、幼児であっても、面接などでは本人のやる気を非常に見ています。日常の会話からお子さまの興味を引き出して、進路選択のサポートをしてあげてほしいですね。



受験はメンタルを鍛えるよい機会

このように書くと受験は悪いもののように思われるかもしれません。しかし、受験はお子さまのメンタルを鍛えるよい機会でもあります。「受験」という壁を親子で乗り越えることで、得られるものは多いと言えます。お子さまの目指す進路を、ぜひ前向きに応援してあげてほしいですね。
たとえ、うつ症状が出てしまっても、それでご自身やお子さまを責めないでください。むしろ、学生時代にうつ病が出てよかったと思っていただきたいのです。学生のうちならば、主治医が学校に「主治医意見書」を出し、授業の受け方や通学頻度などについて学校と病院が連携をとりながら治療を進められます。こうしてうつを乗り越えてから就職したほうが、社会人になってからうつを発症するより、結果として予後がよい傾向があります。
もし、お子さまがうつ症状かもと思われることがあれば、早めに相談してほしいですね。早ければ早いほど、ご本人の立ち直るまでの期間が短くて済むはずです。

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<こう書房/吉田たかよし (著)/1,512円=税込>

プロフィール


吉田たかよし

1964年生まれ。医学博士。本郷赤門前クリニック院長(受験生専門の心療内科)、新宿メンタルクリニック顧問(受験うつ)。『子どもの「学習脳」を育てる法則』(こう書房)、『勝てる子供の脳』(角川書店)、『脳を活かす! 必勝の時間攻略法』(講談社)など、著書多数。

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