授業の達人 こだわりは「知識や経験に関係なく誰でもが参加できる授業」
NHK Eテレ「Rの法則」や「社会のトビラ」を担当する、NHK制作局 チーフ・プロデューサーの桑山裕明氏。教育番組を制作するため毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見る中で、「こんな先生に教えてほしい」と思うことがあるという。今回は、宮城県のAJ先生が小学2年生に行った「身近な物を分解しながら、たくさんの発見と疑問を生み出す」授業を紹介する。
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分解するのは、子どもたちが家から持ち寄ったいらなくなった物です。玩具・懐中電灯・ボールペン・ビデオテープ・洗濯ばさみ・鍋・やかん・時計(電池式)などなどいろいろ。これをプラスとマイナスのドライバー、ペンチ、木づちと金づちというAJ先生が選んだ5つの道具で分解します。これらの道具の共通点は、いずれも物の感触が手に伝わりやすいところです。
まず、分解したいものを自分で選び、自由に「分解」=「壊す」作業をさせます。力任せに叩いたり、開く場所を探したり、思い思いに試みます。この時、子どもたちは、本当に楽しそうでした。先生は、「物を壊してほめられる」ことは珍しい経験だからだと言います。つまり、身の回りの物は、たいてい「使用目的」が決まっているので、「分解」=「壊す」は、その当たり前ではない経験だから面白いのです。このような当たり前ではない経験をする機会を作ろうと意識している先生は、少ないような気がします。
この授業でAJ先生が大事にしているのは、子どもが「どうしてもできない!」とギブアップするギリギリの状況まで待って声をかけることです。そして、教える時は、「できた!」という達成感や「なるほど!」の納得感を必ず伴わせるように心がけています。
AJ先生の授業のこだわりは、「知識や経験に関係なく誰でもが参加できる授業」です。これは、「学ぶ気持ち」のスイッチを入れるためには欠かせない条件で、よい授業かどうか? その判断材料になるような気がします。
出典:当たり前ではない経験が学びの意欲に 身近な物を使って「発見」を促す授業 -ベネッセ教育情報サイト