法律だけでは「なくならない」いじめ-渡辺敦司-

警察庁がまとめた2014(平成26)年上半期(1~6月)の少年非行情勢(外部のPDFにリンク)によると、いじめによる事件は149件で、前年同期より43件減少しました。好転の兆しかと思えますが、「高水準で推移している」というのが同庁の見方です。結果をどう受け止めればよいのでしょうか。

まず、この件数は「事件」化した件数だということです。裏を返せば、事件化しない「事案」もたくさんあるわけです。また事件になったということは警察沙汰になったということで、警察沙汰にならないケースも当然もっとあるわけです。
文部科学省調査でのいじめの件数も同様です。統計の取り方は「認知件数」であり、「発生件数」ではありません。また件数はいじめをどう定義するかにも左右されますし、自殺事件などが社会問題化した直後に認知件数が跳ね上がることも、よく知られています。統計に表れる数値が、必ずしも実態を反映しているとは限らないのです。

今回の調査で使われている定義は、2013(平成25)年6月に成立した「いじめ防止対策推進法」に基づくもので、「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」です<第一章 総則(定義)より>。前年同期調査は同法成立前でしたから、文科省調査の「当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの」で、いじめに当たるか否かの判断はいじめられた児童生徒の立場に立って行い、起こった場所は学校の内外を問わない……という定義が使われていました。
法律上ネットいじめも明らかにいじめに入ると明確にしたわけですから、件数は増えてもよさそうなものです。しかし、実際には逆に減少しました。さっそく「対策」の効果が表れた……と見たいところですが、リアルな場面以上にネットいじめは見えにくいのが実態ですから、「事件」化しないケースはもっとあると見ることもできます。

もう一歩踏み込んで考えれば、149件もあるということは、2012(平成24)年後半から大きな社会問題になり、法律に基づく対策も国・都道府県・市町村・学校の各レベルで行われているのに、いじめは「根絶」されていないということです。というより未熟な子どものことですから、ささいないじめの種は必ず芽生えます。重要なのは、それをどうやって事件になるまでエスカレートする前にとどめるかです。
いじめ問題に関しては、これまでの記事でも「未然防止」が重要であることを指摘してきました。これをやれば大丈夫という特効薬はありませんし、「いじめ対策」だけでいじめがなくせるものでもありません。安心して学校に通える雰囲気づくり、友達との良好な関係、授業の面白さなど、学校全体がうまく働いてこそ、いじめの起きにくい学校になるのです。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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