「小中一貫教育学校」制度化でどうなる?‐渡辺敦司‐

政府の教育再生実行会議が、正式に第5次提言(外部のPDFにリンク)をまとめました。その目玉として9年間一貫の教育を行う「小中一貫教育学校」(仮称)の制度化が盛り込まれたことは、既に紹介したとおりです。下村博文文部科学相は、中央教育審議会の審議を経たうえで、来年の通常国会に関係法案を提出したい考えを表明しています。小中一貫教育学校が制度化され、数が広がっていくと、どうなるのでしょう。

現在でも自治体の判断で、小学校6年・中学校3年の区切りを4・3・2などに変えている学校があることや、それには教育課程の特例措置が受けられるよう国に届け出る必要があることは、先の記事でも紹介しました。小中一貫教育学校が制度化されれば、教育課程の編成に関しても自治体の裁量が認められることになるものと見られます。
参考になるのが、中等教育学校です。6年一貫の中等教育学校には、中学校に当たる前期課程と、高校に当たる後期課程が置かれ、基本的にはそれぞれの学習指導要領に基づいた教育を行うことになっていますが、高校の内容を前期課程に前倒ししたり、中学校の内容を後期課程に先送りしたりすることも認められています(併設型中高一貫教育校でも同様)。

現在の制度化されていない「小中一貫教育校」では、指導のまとまりとして4・3・2などの区切りが行われているものの、制度上はあくまで別々の小学校と中学校であり、基本的には各学校・各学年で学習指導要領に基づいた教育内容が教えられていますから、中学校から別の学校に行くことになっても、それほど大きな支障はありませんでした。今後、小中一貫教育学校にも中等教育学校などと同様の教育課程の特例が認められれば、学年間で教育内容を入れ替えたりできるわけですから、途中で転校した場合、小中一貫教育学校で先送りされた内容を転校先の中学校で学べないといった事態も起こる可能性があります。義務教育にふさわしい教育課程の特例をどう設定するか、転校先での指導をどうするかなど、実態を想定した丁寧な審議が中教審には求められそうです。
第5次提言では、教職員配置や施設などの条件整備、私立学校に対する支援を行うことも提言されています。どれくらいの教職員加配(増員)や設置基準の弾力化が行われるかが、自治体など学校設置者の意向を大きく左右します。この点も中教審などの課題となりそうです。

現在の小中一貫教育校は数としては都市部が圧倒的に多いようですが、少子化で学校統廃合が進む中、文科省は郡部でも「縦の統合」として小中一貫教育を行うようすすめてきました。小学校・中学校別々では存続が難しい場合でも、小中一貫教育学校の制度化と条件整備の充実によって、過疎地においても地域に学校を残せる可能性が広がるかもしれません。地域創生が政権の課題にもなりつつある中、広い視野からの総合的な検討が望まれます。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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