若者の自己肯定感が低い理由は……「他者の評価」!? ‐斎藤剛史‐

以前、内閣府の2014(平成26)年版「子ども・若者白書」の特集内容を当コーナーで取り上げ、国際比較調査の結果、日本の若者は他国の若者に比べて自己肯定感が極端に低く、将来に対して明るい希望を持てないでいることを紹介しました。しかし、内閣府が続いて公表した、特集のもととなった国際比較調査の報告書には、日本の若者は自己肯定感が単純に低いという見解とは、やや異なる別の見方が示されていました。日本の若者の自己肯定感は、国際的に見て本当に低いのでしょうか。

7か国の13~29歳の男女を対象に実施した調査の主な内容は、前にお伝えしたとおりです。「自分自身に満足している」という者は、アメリカ86.0%、イギリス83.1%、フランス82.7%、ドイツ80.9%、スウェーデン74.4%、韓国71.5%に対して、日本は45.8%と極端に低くなっており、同白書は日本の若者の自己肯定感の低さを大きな課題として強調しています。確かにデータはそれを裏付けており、最近の教育改革の議論でも日本の若者の自己肯定感の低さは、現在の学校教育の大きな問題点として挙げられています。
これに対して調査報告書は、「自分自身に満足している」(自己肯定感)に対して、「自分には長所がある」(長所)、「自分の考えをはっきり相手に伝えることができる」(主張性)、「うまくいくかわからないことにも意欲的に取り組む」(挑戦心)、「自分は役に立たないと強く感じる」(負の自己有用感)などの関連を統計的に分析しています。
それによると、各国の若者とも自己肯定感の高さに最も強く関連しているのは「長所」で共通しています。ところが次いで影響しているのは、他国の若者の場合、「主張性」と「挑戦心」だったのに対して、日本の若者は自分が社会や他者の役に立っているという「自己有用感」でした。逆に、日本以外の国の若者の自己肯定感の高さと「自己有用感」の間には、ほとんど関連性が見られませんでした。この結果について報告書は、他国の若者の自己肯定感は「自分はどうであるか?」という「対自的な自己認識」に基づいているのに対して、日本の若者の自己肯定感は「自分は他者にとってどうであるか?」という「対他的な自己認識」に基づいていると推論しています。つまり、他国の若者は自分自身に対する自己評価で自己肯定感を得ているのに対して、日本の若者は自分以外の他者評価で自己肯定感を得ているというわけです。

データ的には、諸外国と比べて日本の若者の自己肯定感が極端に低いことは間違いありません。それは大きな問題であり、教育改革の中で改善していく必要があります。しかし、日本と他国の若者では自己肯定感を判断する基準が異なり、単純に数値の高低だけで問題を語れないとするならば、教育改革として取るべき施策もまた変わってくる可能性があるかもしれません。国際的に見た日本の若者の自己肯定感の低さを論じる場合、若者が自己肯定感を得る要因や背景は国によって異なるという視点を見落としてはならないでしょう。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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