「飛び入学」「早期卒業」の意外に大きい意識の壁‐斎藤剛史‐

女子スキージャンプの第一人者である高梨沙羅選手(17)が、日本体育大学に「飛び入学」で合格したことや、京都大学が2016(平成28)年度入試から初めて医学部に飛び入学を導入することが、マスコミで大きな話題となりました。ほとんどの子どもたちが修業年限どおりに卒業する日本ではあまり知られていませんが、飛び入学や「早期卒業(外部のPDFにリンク)」といった制度も実はあるのです。

高校3年生を飛び越して、高校2年生(または17歳)から直接大学に入学する飛び入学制度は、物理と数学の2分野に限って1998(平成10)年度大学入試から導入されました。その後、2001(平成13)年には、すべての分野で飛び入学が可能になりましたが、飛び入学制度を実際に設けている大学は、千葉大学・会津大学・名城大学・成城大学・エリザベト音楽大学・昭和女子大学(2013<平成25>年度で中止)・日本体育大学(14<同26>年度から導入)しかありません。また、1998(平成10)年度から2013(同25)年度までの飛び入学者数は合計106人ですが、このうち72人が千葉大学、26人が名城大学で占められています。一方、大学でも3年生から大学院修士課程への飛び入学が1989(平成元)年に制度化されていますが、文部科学省によると2011(同23)年度に実際に実施したのは50大学、計219人でした。
大学では3年間で卒業できる「早期卒業制度」が1999(平成11)年から制度化されており、2011(同23)年度には54大学で計305人が早期卒業しています。また大学院の修士・博士課程にも「早期修了制度」があります。

このように飛び入学などは、ごく少数の「例外」にとどまっているのが実情です。欧米では飛び入学は社会的に認知されていますが、なぜ日本では広がらないのでしょうか。理由の一つとして「エリート教育」批判があります。しかし、最近では公立中高一貫教育校の人気の高まりに見られるように、「エリート教育」への反発は以前よりも薄らいでいます。もう一つは、学歴の問題です。大学への飛び入学後に中退すると、学歴的には「中卒」となってしまいます。
ただ、学歴問題を解決しても大学への飛び入学の拡大は、難しいでしょう。なぜなら、スポーツや芸術などの分野を除けば、保護者や子どもの間には、皆と違う道を歩むリスクに対する不安、突出した者や特異な者に対するいじめや反発など同調性を重視する社会への懸念があると思われるからです。さらに教育関係者の間には、子どもの人格形成という面から飛び入学を批判する意見も根強くあります。

政府の教育再生実行会議、文科省の中央教育審議会などで、高校の「早期卒業制度」の創設が検討課題に挙がっているのも、グローバル社会の国際競争に勝つ人材を育成するためです。飛び入学を拡大させるには、特別な才能や能力を伸ばすためにリスクを取ることを恐れない個人の覚悟、そしてそんな生き方を許容する社会の意識が必要です。飛び入学の拡大は単なる制度の問題ではなく、無意識のうちに皆と同じように行動することを是とするような、日本の社会の在り方そのものが問われているのかもしれません。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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