「ディスレクシア(発達性読み書き障害)」とは?
「ディスレクシア」とは、知的発達に遅れはないのに、文字の読み書きなどが苦手な状態のこと。本人は一生懸命取り組んでいるのになかなか結果が伴わないため、周囲から「努力が足りない」といった誤解を受けるケースもあるようです。今回は「ディスレクシア」について、医師として発達障害の研究に取り組むお茶の水女子大学大学院教授の榊原洋一先生にお話を伺いました。
日本人の2~3%に見られる学習障害の一種
ディスレクシア(発達性読み書き障害)とは、学習障害(以下、LD)の一つです。学習障害とは、「読む」「書く」「話す」「聞く」「計算する」などの学習行動の習得に著しい困難があり、努力してもなかなか学習成果が上がらないという特性を持つ障害です(※)。LDのなかでも中核をなすものが、ディスレクシアです。
ディスレクシアは、知的発達に遅れはありませんが、文字の読み書きが苦手で、教科書を読んだり、ノートをとったりするのがうまくできません。日本では、人口の2~3%に見られると報告されています。
ディスレクシアの特徴
ディスレクシアの人は、なぜ文字の読み書きが苦手なのでしょうか。原因として、文字の意味をとらえる脳の部位の活動が低下していることがわかっています。
たとえば、黒板に書かれた「さかな」という文字を見れば、多くの人は「魚」のイメージが瞬時に頭に浮かぶと思います。一方、ディスレクシアの場合は、「さ」「か」「な」というそれぞれの文字は読めても、それが「魚」のイメージに瞬時につながらないのです。反対に文字を書くとき、「『さかな』という字を書いて」と言われると、「魚」のイメージは浮かびますが、それが「さかな」という文字に結びつかない人もいます。機能が低下する部分は人によって異なります。
文字一つひとつは読めても、そこから意味を瞬時にイメージできないため、教科書のように長い文章が書かれたものを読ませると、スラスラ音読できず、通常の何倍も時間がかかってしまうことがあります。この障害の困難さを理解するのはなかなか難しいのですが、「カタカナで書かれた句読点のない文章を読む」感じだと思っていただけばよいでしょう。
最も支障をきたすのが音読や漢字の書き取りなどがある国語の授業ですが、ほかの教科でも教科書や板書の文字を読んだり、ノートに文字を書いたりするのに時間がかかるため、理解が追いつかないことが多いようです。
ディスレクシアの人は、会話で不自由することはないため、障害があることが周囲の人に伝わりにくく、周囲から「努力が足りない」「真剣に取り組んでいない」といった誤解を受けるケースもあるようです。そのため、ますます本人が学習に対してやる気を失ってしまうという悪循環に陥ってしまうケースがあります。
「もしかして」と思ったら、小児神経科に相談を
文字の読み書きを行うようになる年齢になっても教科書をスムーズに音読できないなど、ディスレクシアの特徴が当てはまると感じた場合、小児神経科などの専門医に相談してみるとよいでしょう。ディスレクシアかどうか判定する検査を受けることができます。
ディスレクシアは、生まれつきの脳機能の障害によるものであるため、薬などで治療することができません。ただ、学習方法を工夫して子どもの学びをサポートしてあげることは可能です。たとえば、保護者が教科書を音読したテープを聞かせてあげる、教科書やプリントを拡大し、文字を見やすくしてあげるなどの方法です。アメリカの有名な俳優さんは、せりふを自分で読むことは困難なため、耳から台本を聞いて役づくりを行い、映画界で活躍しています。
また、アメリカでは、ディスレクシアへの理解が進んでいて、診断書があれば、試験のときに文章を音読してくれるなどのサポートが受けられます。日本でもセンター試験において2011(平成23)年度入学者選抜試験より学習障害のある受験生に対して、試験時間の延長(1.3倍)などの特別措置が実施されています。周囲の人たちが個々の子どもに合った支援をしていくよう、日本でもディスレクシアに対する理解を広めていくことが今後の課題だと言えます。
※学習障害とは
学習障害とは、基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものである。
学習障害は、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではない。(文部科学省 1999<平成11>年7月の「学習障害児に対する指導について(報告)」より抜粋)