2023.11.22
【専門家・体験談】学習障害(LD)とは? 保護者はどうサポートする?
教科書を音読する、文字を正しく書く、計算をする……。
勉強がまったくできないわけではないのに、同い年の子どもたちができることが、なぜか極端に苦手、という子どもたちがいます。
保護者のかたからするとつい「この教科は嫌いなんだな」「正確に読み書きできないのは、大ざっぱな性格のせいだろう」などと思ってしまいがちですが、もしかしたら特定の分野に学びにくさを抱えたLD(Learning Disabilities)が、その背景にあるかもしれません。
ここでは、LDのお子さまによく見られる特性や、自宅や学校でのサポート方法についてお伝えします。
またLDのお子さまがいるご家庭での学習上での工夫もお伝えしますので、ぜひご活用ください。
目次
監修者
榊原 洋一さかきはら よういち
CRN所長/お茶の水女子大学名誉教授/ベネッセ教育総合研究所常任顧問
監修者
山﨑衛やまざきまもる
マインメンタルヘルス研究所(株式会社マイン)代表取締役社長。マインEラボ・スペース代表。公認心理師。臨床発達心理士。特別支援教育士。
「LD」とは何か?
学習障害(LD)とは、知的発達に遅れはないのに、言葉の読み書きや計算など、特定の分野で困難を示す障害です。
さまざまなパターンがありますが、たとえば「話はよく理解しているのにノートが書けない」「漢字のへんとつくりを逆に書いてしまう」など、得意と苦手に著しくかたよりがあるのが特徴です。
LDのお子さまは、勉強がまったくできないわけではなくできることも多いため、「怠けている」と誤解を受けやすい面があります。
LDの原因は脳の情報処理機能の障害であり、本人の努力とはまったく関係ありません。
しかし保護者や先生から誤解され、「努力が足りない」「やる気がない」などと叱られることで、本当に学習への意欲を失ってしまうケースもあります。
またお子さま自身も「みんなはできることが、なぜ自分は頑張ってもできないんだろう」と劣等感を抱えてしまう場合も少なくありません。
しかしその子の困りごとを緩和しつつ、学習効果を上げることは十分に可能です。
そのためには、専門家や学校の先生の力を借りながら、その子に合った適切なサポート方法を早めに見つけていきましょう。
LDの特徴と診断までの流れ
LDには以下のような特徴があります。
【LDに見られる特徴】
・文字や行の読み飛ばしが多い
・文章を不自然なところで区切って読む
・文字を正しく書けない
・文法的に正しい文章が書けない
・かんたんな計算ができない、または遅い
・作業が極端に遅く、授業についていけない
このような特徴が見られ、学年が上がってもなかなか改善されない場合、まずは学校の担任の先生やスクールカウンセラー、地域の教育相談窓口などに相談してみて、お子さまの状態を第三者も含めて理解していきましょう。
LDのお子さまの場合、自治体あるいは医療機関等で読み書き能力の検査を行います。
必要があれば知能検査の一種である「WISC」を行うこともあります。まずはこの検査で特性をつかんで、主に学校での学習上での配慮や特性に合わせた教材使用などによる支援をしていきます。
受診をする場合には、LDの診断を受けられる小児神経科、児童精神科などになることが多いでしょう。
いずれにしても保護者のかたが一人で判断して抱え込まず、必ず第三者による専門的な観点から見てもらうことが大切です。
LDのあらわれ方とは? 知っておきたい3つのタイプ
LDの代表的なタイプとして次の3つが挙げられます。
ディスレクシア(読み書き障害)
ディスレクシアとは、文字を「読む」ことに困難をきたす障害。
しばしば「書く」ことにも困難が生じるため「読み書き障害」と呼ばれます。
LDの約8割がディスレクシアを抱えているといわれ、LDの中核をなす障害です。
ディスレクシアの原因は、文字の意味をとらえる脳機能の低下にあると考えられています。
たとえば「さかな」という文字を見ると、多くの人は、頭の中に瞬時に「魚」のイメージを浮かべます。
「あおいうみを、さかながおよいでいました。」という文であれば、「青い」「海」「魚」……等のイメージがぱっと浮かぶので、どこからどこまでが単語か瞬時に判断でき、適切な区切りを入れながらすらすらと読むことができるのです。
このとき脳は、目から入ってきた一つひとつの文字を見分ける、音と結びつける、文字から意味のある単語のまとまりを見つける、単語の意味を理解する、文全体の意味をつかむなど、様々な作業を連動させつつ、一瞬でこなしています。
ところが、ディスレクシアの場合は、「さ」「か」「な」という文字一つひとつは読めても、それが「魚」のイメージと、瞬時につながりません。
ですから、読むのにとても時間がかかります。
また、文章を目で追いながら理解することが苦手なため、今どこを読んでいるかわからなくなったり、似た文字を見分けられなかったりするケースもしばしば見られます。
【専門家・体験談】読み書きがニガテなディスレクシア(発達性読み書き障害)とは おすすめの学習サポート・学校での対応
ディスグラフィア(書字障害)
特に「文字を書くこと」を苦手とする特性で、ディスレクシアと深いかかわりがあります。
これは視覚認知力が関係あるとされ、視覚から入ってきた情報を処理する機能が弱い場合は、文字の形や位置を認識することが難しくなります。
たとえばディスグラフィアのお子さまは文章を読み、意味を理解することはできても、それを文字に書き起こすことが難しく、鏡文字(上下はそのままで左右を反転させた文字)になったり、自分でも読めない形になったりしてしまいがちです。
しかし「正しく書くようにしなくては」と、字を書く練習ばかり繰り返しても効果はあまり見込めないことが多く、特徴に合った支援を行うことが大切です。
【専門家・体験談】「文字を書くのがニガテ」書字障害(ディスグラフィア)とは? 家庭や学校でどうサポートする?
算数障害
数や量の概念の理解が難しい特性を指します。
数字の指すものが理解しづらいため簡単な計算ができない、暗算は得意でもくり上がりのある筆算ができないといったケースも見られます。
いずれにせよ、学校の先生やカウンセラーに相談、そして明確な判断は小児神経科や児童精神科の医師などから意見を聞くことが必要です。
LDのお子さまに合った勉強法は?
LDの表れ方には個人差が大きいため、お子さま一人ひとりに個別のサポートやアプローチが必要です。
無理にほかのお子さまと同じやり方に取り組ませるのではなく、お子さまの特徴をふまえ、苦手を補い、学習効果のある方法を探していくことが大切なのです。
【ケース別おすすめ勉強法】
読むのが苦手な場合
・パソコンの拡大機能や拡大コピーを利用する
・読んでいる行に定規を当てたり、他の行を下敷きで隠したりして、目で追いやすくする
・えんぴつで文字を追いながらゆっくり読む
・写真やイラストの多い教材を使う
・朗読されたものなど音声教材を利用する
・教科書の文節の区切り目に「/」を入れて読みやすくする
・プリントの文字をお子さまが読みやすいフォント(ユニバーサルデザインフォントなど)にする
書くのが苦手な場合
・漢字の覚え歌を作り、覚えるようにする
・一つの漢字をパーツに分け、その組み合わせ方など構造をつかませる
・お子さまにとって書きやすい大きさのマス目のノートを使う
・板書を写す代わりにパソコンで打ち込む
・学校と協力し、板書を写真にとる、話を録音するなど、できる範囲で授業内容を記録する
計算が苦手な場合
・ブロックやおはじきで、実際の数や量をつかみながら計算させる
・大きなスペースを使って、落ち着いて計算させる
これらの方法を試したり組み合わせたりしながら、お子さまがより学びやすい方法を見つけていきましょう。
LDのお子さまをお持ちの保護者のかたの工夫
LDのお子さまをお持ちの保護者のかたが、お子さまの得意・不得意に応じて行った工夫をご紹介します。
作文が書けないときは「ひながた」を活用
保護者のかたが自力でなんとかしようとしなくても、インターネットにあるものを活用するのもよいでしょう。
山口県
小1 みらい
作文や読書感想文など文章を考えるのが苦手なので、インターネット上にあるひながたをダウンロードして親がインタビューして子の考えを引き出し、メモをして作っています。
勉強に自信がないときは、終わったらすぐ丸つけをして達成感を
学習が終わったらすぐその場で丸つけをして、「勉強は楽しい」という気持ちになってもらい、達成感を持たせるのもよい手段です。
秋田県
小1 りんむー
ゲーム感覚で勉強できるようにしています。終わったらすぐ丸つけをしてあげて、達成感を持たせています。
集中できないときには、集中できるような学習環境を作る
得意なものはよいのですが、不得意なものは集中力が切れてしまうこともよくあります。そのようなときには学習の環境を整えてあげるようにするとよいでしょう。
福岡県
小2 うらるん
我が家はリビング学習で、周りにおもちゃや気になるものがあると集中力が下がるので、机には余計なものを置かないようにしています。
机で勉強をしたがらないときには、生活の中で自然に学習できるようにする
勉強机以外でも気軽に学習ができるようにしてみましょう。お風呂だとリラックスしながら学ぶことができます。
大阪府
小6 みやこのひら
お風呂に世界地図や算数のポスターを貼っています。湯船に浸かりながら国名を覚えています。
書けないことで落ち込むときには、書きやすい大きさのマス目のノートで
文字を書くのが苦手なお子さまは、きちんと書くことができないことで落ち込んでしまうことも。
そのお子さまが書きやすい大きさのマス目なら、安心して学習に取り組めます。
埼玉県
中2 アルト
ノートのマス目に文字が収まらないときは、大きなマス目のものを使わせてもらいました。
必要なサポートについて学校の先生にはどう伝える?
LDのお子さまは1クラスに複数人いると言われており、学校現場でもLDへの理解と対応への努力が進んできています。
しかしLDの表れ方は個人差があり、多岐にわたるため、学校内でできる支援については、専門家の意見も聞きながら無理のない範囲で取り入れてもらうことが大切です。
お子さまにLDがあるとわかった場合、必要と思われるサポート等について、このようなことをやってみるとよいでしょう。
・小児神経科や児童精神科などの医師の意見などをもとに、学校と相談して、クラスで対応可能な支援について協力してもらえるかどうか具体的な相談をしましょう。
その際、これまでの育児メモや医師・専門家のアドバイス、お子さまの書いた文字など、お子さまの抱えた困難を示す資料を持っていくと、状況を理解してもらいやすくなります。
・小児神経科や児童精神科などの医師の判断をあおぎつつ、必要に応じてタブレットやデジタルカメラといった、学習をサポートする電子機器やツールなどの学校での使用許可を得られないか相談してみましょう。
・学習の遅れなどでお子さまが自分を否定的に捉えている場合は、お子さまができる係の仕事につけてもらうなど、成功体験を増やすような配慮をお願いしてみましょう。
・読み書きが苦手なお子さま向けの教室(特別支援教室等)を利用できないか、相談してみましょう。
保護者のかたが、どうしたらよいかわからないことも多いと思いますが、現状の困りごとも含めて先生と共有し、LDへの理解と協力を求めつつ、ベストなサポート体制を模索していけると理想的です。
まとめ & 実践 TIPS
LDを持つ子どもやその保護者のかたは「なぜみんなと同じようにできないのだろう」と悩みを抱えがちです。また子ども自身も「自分はなんてダメなんだろう」と、落ち込んでしまうことも。
だからこそ、学校の先生や医師、カウンセラーなど周囲の人の力や知恵を借りることが大事です。
周りの方の力を借りつつ、お子さまが「自分なりの学び方」に近づき、自信を持つための第一歩を踏み出せるよう、この記事が少しでも力になれますと幸いです。
監修者
榊原 洋一さかきはら よういち
CRN所長/お茶の水女子大学名誉教授/ベネッセ教育総合研究所常任顧問
著書:「オムツをしたサル」(講談社)、「集中できない子どもたち」(小学館)、「多動性障害児」(講談社+α新書)など。
監修者
山﨑衛やまざきまもる
マインメンタルヘルス研究所(株式会社マイン)代表取締役社長。マインEラボ・スペース代表。公認心理師。臨床発達心理士。特別支援教育士。