妬む気持ちが自分を変えるパワーになる!?【前編】妬みのメカニズム編

人を妬(ねた)む気持ちはネガティブな感情のように思われますが、実は良い面もあるようです。感情心理学がご専門で、子どもの妬みに関する研究をしている宇都宮大学教育学部准教授の澤田匡人先生に伺いました。



「妬み」とはどのような気持ち

「Aちゃんは勉強もスポーツもできてうらやましい」。こうした気持ちは、保護者の皆さんも子ども時代に感じたことがあると思います。大人になってからも仕事や生活のなかで「同期のBさんは出世していてうらやましい」「お隣のCさんは高級マンションを購入してうらやましい」などと、感じたことがあるのではないでしょうか。このように、妬みとは、自分にとって望ましいものを持っている他者を見て「うらやましい」とか「憎らしい」と思うことです。人と接することで感じる社会的感情の一種で、誰もが抱く感情です。わたしが調査した結果、小学2年生ぐらいから「うらやましい」という言葉から妬みを自覚できていることがわかっています。



「妬み」は、子どもが成長するパワーになることもある!

「うらやましい」「憎らしい」気持ちが大きくなると、その相手の悪口を言ってしまうなど、「妬み」はネガティブな言動を引き起こしてしまうケースがあります。これは、妬みのなかでも相手への敵意が強い「悪性妬み」と呼ばれ、相手の足をひっぱる、実際に攻撃するなどの行動をとってしまうのです。
ただ、妬みには「悪性妬み」だけでなく、「良性妬み」と呼ばれる良い妬みもあります。「○○ちゃんのようになりたい」という気持ちが原動力になり、自分を成長させるために努力することができます。たとえば、仲良しのD君が算数のテストで自分より良い点をとったことがうらやましく感じた場合、自分も良い点数をとろうとがんばって勉強しようとするなど、妬んでいた気持ちが前向きな競争心に変わるのです。
「良性妬み」に似ている「憧れ」は、よりポジティブな感情のように思われがちですが、実は「憧れ」は自分には手の届かない存在に対して抱くことが多く、自分を向上させようというモチベーションに繋がらないということが海外の研究者による調査からわかりました。つまり、憧れる気持ちは毒にもならないけれど、薬にもならないのです。「妬み」はネガティブな面もありますが、自己向上につながる力も持っているのです。



妬みを感じやすい子は自己理解できている子

妬みを感じやすい子というのは、相手と自分を比較することが必要なので、自分のことをよく理解できている子どもであると言えます。また、自分に手が届きそうな存在だからこそ、その相手に妬みを感じているはずなので「○○さんのようになれる」と自分の可能性を信じている子どもだとも言えるでしょう。
ですから、子どもが「○○ちゃんがうらやましい」という気持ちを感じているようなら、そうした気持ちを抑制するようなことをしなくて良いとわたしは思っています。押さえ込んでしまうのは不健康なので、保護者がそうした気持ちをしっかりと受け止めてあげることが大切です。
とはいえ、ネガティブな行動を起こしてしまわないか心配な保護者もいると思います。

次回は、子どもが妬みを感じたとき、その気持ちを前向きな競争心に変えられるように、保護者ができることについて考えてみたいと思います。


プロフィール


澤田匡人

宇都宮大学教育学部准教授。専門は感情心理学、教育心理学。著書に『子どもの妬み感情とその対処』(新曜社)、『なぜ人は他者が気になるのか?──人間関係の心理』(金子書房、共著)、『対人関係のダークサイド』(北大路書房、共著)などがある。

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