学校の健康診断はなぜあるの?【前編】~最近の傾向~
新年度が始まりました。春になると必ず学校で行われるのが健康診断です。今回は、元養護教諭で、帝京短期大学教授の宍戸洲美先生に、学校で行われる健康診断の歴史や最近の傾向についてお伺いしました。
学校で健康診断を行うメリットは?
日本の学校で健康診断が行われるようになったのは、明治時代からです。強い国づくりを目指していた当時の日本において、子どもたちの健康管理は重要な国策の一つでした。そこで、学校による身体検査が始まりました。時代と共にその位置づけは変わり、現在では学校の健康診断は「子どもたちの健康管理の柱」となっています。最近の子どもたちの傾向は下記のとおりです。
【最近の子どもたちの傾向】
・むし歯のある子どもは減ってきている
・裸眼視力が1.0未満の子どもが、年々増加傾向にある
・肥満傾向の子どもは減りつつあるが、ダイエットによるやせの女子の増加がみられる
諸外国からみれば、日本のように学校で健康診断を実施するのは、とても珍しく、欧米では一般的に子どもの健康は各家庭で管理するようです。ただ、わたしは学校が健康診断を実施することは良い面もたくさんあると思います。毎年、視力・聴力・尿・歯などの検査をすべての生徒が受けることができますし、健康面が理由で学校生活に配慮が必要なことがあれば、すぐに対応することができるからです。
健康診断の目的
学校における健康診断は、保健管理の中核であると同時に教育活動でもあるという二つの面を持っています。しかし、学校では病院のように一人ひとりを丁寧に見ていくことができないところも多く、病気や異常がないかを見るスクリーニングとしての位置づけになっています。したがって、気になる箇所があれば病院で再検査を行うという方法をとっています。たとえば、視力検査では、視力はわかりますが、それが近視によるものか、遠視によるものか、乱視によるものかという判断まではできません。どの程度見えるかABCDの4段階で評価され、A以外の人には再検査のお知らせが届くしくみです。
健康診断で行う検査の項目は、学校保健安全法施行規則によって規定されていますが、その内容は時代と共に変わってきているのをご存じでしょうか? たとえば、尿検査はわたしが子どものころは実施されていませんでしたが、慢性の腎臓病には早期発見・早期治療が効果的であることがわかり、1973(昭和48)年から義務化されています。一方、廃止された検査項目もあるのです。回虫卵などの検査のために実施していた検便は、日本で回虫が見られなくなったため必須項目ではなくなり、現在では実施しない学校が多いのではないでしょうか。今後も子どもたちの健康に合わせて変化していくと考えられます。
健康診断を「子どもが健康について学べる機会」に!
学校の健康診断は、子どもにとっては「やらされるもの」になりがちですよね。しかし、子ども自身にその目的や役割を話すことで、子どもの健康診断への向き合い方や健康への意識が変わるのではないかと考えています。
わたしが渋谷区の小学校で養護教諭をしていたころ、健康診断と健康教育をつなげられないかと考えました。たとえば、歯科健診の前には、自分の口の中を観察した結果と校医さんに聞いてみたいことをカードに書かせるようにして、健診時に見せるようにしたのです。子ども自身に自分の健康への関心を持たせることによって、子どもたちは診察の順番を心待ちにするようになったり、今まで以上に自分の体に興味を持つようになったりしてくれました。
ぜひ、家庭でも健康診断の前後にお子さまの健康について話し合う機会を設けてほしいですね。たとえば、思春期の女の子の場合、昨年より体重が増えてしまっていることを気にしているかもしれませんが、体重が増えているのは健康な体が育っている証拠です。保護者が「成長していると良いね」と言ってあげることで、きっと子どもも体重が増えたことを前向きに考えられるはずです。また、視力が低下している場合はゲーム時間が増えていないか、姿勢が悪くなっていないかなど、生活を見直してみてはいかがでしょうか。
健康診断を単なる健康管理としての行事に終わらせるのではなく、子ども自身が健康について学ぶ機会とし、保護者の皆さまにも、子どもの成長を感じ、必要があればお子さまの生活習慣、家庭全体の生活習慣を見直す機会として、ぜひ活用してほしいですね。