先生にコミュニケーション能力、ある? ない?

家庭訪問や授業参観など、学期当初の行事もひととおり終わり、保護者と担任の先生との関係も、次第に固まりつつある時期です。教員にとっては保護者の評価が、保護者にとっては担任教員の指導力や人柄が、それぞれ気になるところですが、両者の間には、教員のコミュニケーション能力などの実態に関して、認識のずれがあることが、文部科学省の委託調査でわかりました。もしかしたら、この認識のずれが、教員と保護者の行き違いの原因の一つかもしれません。

調査は2010(平成22)年4月から8月にかけて、「教員の資質能力向上」を検討するための資料として、教員と保護者などを対象に実施しました。教員に必要とされる資質能力の充足度を聞いたところ、「充足している」(「とても充足している」と「やや充足している」の合計)という割合が最も高かったのは、「子どもに対する愛情や責任感」(教員96.7%、保護者91.3%)、2番目は「教師の仕事に対する使命感や誇り」(教員94.9%、保護者91.0%)で、保護者の割合が教員よりもやや低いものの、両者とも9割以上が充足していると回答しています。子どもへの愛情や仕事への使命感などについて、教員は強い自覚を持っており、保護者も教員に厚い信頼を寄せている、と言ってよいでしょう。
授業などの能力について見ると、充足しているという割合は、「児童・生徒指導力」(教員81.6%、保護者84.9%)、「集団指導の力」(教員76.8%、保護者84.1%)、「学級づくりの力」(教員78.5%、86.1%)、「学習指導・授業づくりの力」(教員80.4%、保護者86.3%)などで、当事者である教員よりも、保護者の充足感のほうが高くなっています。専門家である教員は、自分たちの指導力などについて、より厳しく評価しているとも言えます。それでも、保護者の8割以上が、授業や学級づくりなどに関する教員の指導力を評価しているというのは注目されます。

一方、充足しているという割合が、保護者よりも教員のほうが上回っていた項目を見ると、「子ども理解力」(教員86.9%、保護者82.3%)、「対人能力、コミュニケーション能力」(教員84.3%、保護者78.1%)、「教職員全体と同僚として協力していくこと」(教員89.7%、保護者82.5%)などです。どうやら、子ども理解力、コミュニケーション能力、協調性などについては、教員が思っているほど、保護者は評価していないようです。
特に、コミュニケーション能力については、他の項目に比べて、教員と保護者の開きが大きくなっています。教員は、自分たちにコミュニケーション能力があると思っているのに、保護者はあまりそう思っていないことがうかがえます。

全体として、仕事への使命感や子どもへの愛情については、教員と保護者は共に高い評価をしており、指導力については、教員が思っている以上に保護者は信頼しているのに対して、対人関係能力については、教員が思っているほど保護者は評価していない、と言えます。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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