「ごほうび」は悪?子どもの自主性を伸ばす、干渉しすぎない保護者の関わり方

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我が子の成長を見守る中で、保護者として「どの程度関与すべきか」と悩んだことはありませんか? たとえば、お子さまが勉強しない時、どう声をかけるべきか。または、何らかのごほうびを与えてやる気を引き出すべきかなど、関わり方に迷う場面もあるかもしれません。

こうした悩みへのヒントをくれたのは、20年近く小学校教員を務め、「先生の先生」として教育委員会や学校向けの研修などを行ってきたベネッセ教育総合研究所の庄子寛之主任研究員です。発売中の著書『子ども教育のプロが教える 自分で考えて学ぶ子に育つ声かけの正解』(ダイヤモンド社)の内容を踏まえながら、詳しく解説していただきました。

保護者の過干渉がもたらす影響とは?

──保護者の「過干渉」というのは、やはり望ましくないのでしょうか?

もちろんすべての干渉がいけないというわけではないのですが、それが過剰になると子どもの自主性を妨げるリスクがあります。このことは、子どもの将来を考えると危惧すべき点だと思います。

たとえば、保護者が子どもの一挙手一投足に介入し、すべてを手助けするような関わり方をしてしまうと、子どもは自分で考えたり行動したりする力を育む機会を失い、指示待ちの姿勢になってしまいます。最近はあれこれと関わりすぎてしまう保護者のかたが増えている印象もあります。

──子どもの勉強への関与についてはいかがでしょうか。

ベネッセ教育総合研究所の最新の調査では、親に「『勉強しなさい』と言われる」小学4~6年生は72・4%。約4人に3人で、この割合は年々増えつつあります。この他にも「学校の宿題を手伝ってくれる」「勉強の内容を教えてくれる」といった関わり方も増加傾向です。(※1)

勉強における保護者の適切な関与は、大切です。しかし、何かあればすぐ保護者に聞いて解決するような状態では、子どもの自主性や好奇心が失われかねません。

──どのような関わり方が適切なのでしょうか。

保護者の役割は、子どもが自分の力で成長していくための手助けをすることです。まずは「口出しをせず、よく観察すること」が大切ではないでしょうか。そして、子どもが困った時には「呼ばれたら行くが、呼ばれない時は見守る」というスタンスを徹底するのがよいと思います。

そもそも「勉強しなさい」といった言葉だけでは、子どもは動きません。でも、心の底から我が子を思って発した言葉は、必ず伝わります。

学校から帰ってきてすぐに「宿題やりなさい」ではなく、まず「今日は何があった?」と興味を持って聞いてみてください。その会話の中で、たとえば「算数の授業が難しかったんだ~」と話し始めたら、その時は「そうだったんだね。宿題を一緒に手伝おうか?」と声をかけてみましょう。そこで「いい」と言われれば、ぐっとがまんして、取り組むまで見守る。もし子どものほうから「手伝ってほしい」と言ってきたら、全力でサポートしてあげましょう。このような関わり方をすると、子どもは「自分を見てくれている」と感じ、安心感を覚えます。

「ごほうび」は悪?

『子ども教育のプロが教える 自分で考えて学ぶ子に育つ声かけの正解』(ダイヤモンド社)

──勉強に取り組んだり、テストでいい結果をとったりした時に「ごほうび」をあげて勉強のモチベーションを高めるのは、よくないことなのでしょうか?

保護者としては、悩むシーンもありますよね。私は、この問いの答えとして「内発的動機付けを大切にしながら、外発的動機付けを上手に活用する」ことが重要だと考えています。

外発的動機付けとは、外部からの報酬や評価などによって行動を促すこと。しかることも外発的動機付けの一つですね。一方、内発的動機付けは、好奇心や成長意欲といった、自分の内側からわき出るものを指します。

保護者としては、何かを与えなくても自ら進んでやれる子に育てたいと思いつつ、それができなくてごほうびやしっ責によって解決を試みるケースも少なくないと思います。

しかし、そうはいっても、保護者としては「じゃあどうすればいいの?」というのが本音ではないでしょうか。

──確かに……。

そこでポイントになるのが、外発的動機付けを上手に取り入れることです。

たとえば「ごほうび」も、自分一人がゲームをできるとか、お菓子を買ってもらえるというものではなくて、きょうだいが喜べるものや、家族全員が喜べるものにする。「みんなで遊べるおもちゃ」や「家族でご飯に行く」などですね。

一人だけが幸せになるごほうびによるがんばりは、長続きしません。みんなが喜べるごほうびを与えることで、人のためにがんばれる子に育っていきます。

このように、いきなり内発的動機による行動を目指さずとも、少しずつ適切な外発的動機付けを取り入れながら、環境を整えたり、適切な距離感で関わったりすることで、焦らずに好奇心を育てていけばよいと思います。

──ほかに、内発的動機付けにつながるサポートはありますか?

子どもが何かできたという「結果」だけではなく「過程」を、保護者がよく観察することです。子どももまた、保護者のことをよく見ています。自分の行動が肯定的に受け入れられていると感じることで、自己効力感が高まり、内発的動機付けが促進されていきます。

「我が子はそのままで素晴らしい」。保護者がそう思いながら接し、適切な距離感を保ちながら関与していくことで、子どもの可能性は広がっていきます。

(※1)東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所「子どもの生活と学びに関する親子調査2023」より

*本記事の関連情報は、ベネッセ教育総合研究所のFacebook・Xでもご紹介しています。
https://www.facebook.com/berd.benesse.jp/
https://x.com/berd_info

プロフィール


庄子寛之

元公立小学校指導教諭。大学院にて臨床心理学について学び、道徳教育や人を動かす心理を専門とする。「先生の先生」として、ベネッセの最新データを使いながら教育委員会や学校向けに研修を行ったり、保護者や一般向けに子育て講演を行ったりしている。研修・講演は500回以上。講師として直接指導した教育関係者は1万5000人に及ぶ。全国の学校が休校していた2020年のコロナ禍に、これからの教育について考えるオンラインイベントを企画し、世界中の教育関係者を2000名以上集め、話題を呼ぶ。子ども教育のプロとして、NHK「おはよう日本」や朝日新聞、毎日新聞などのメディアなどにも取り上げられ、一躍有名になる。また、ラクロスの指導者としての顔も持ち、東京学芸大学女子ラクロス部監督、U-21女子日本代表監督、U-19女子日本代表監督を歴任。「教師」×「指導者」として、一貫して「自分で行動できる子ども・選手」の育成を実践している。著書に『自分で考えて学ぶ子に育つ声かけの正解』(ダイヤモンド社)など多数。

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