「再登校」へのこだわりに潜む《普通へのあこがれ》。不登校になったとき、本当に必要な保護者のアプローチとは

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子どもが不登校になった時「なんとか再登校させなければ」と考えるかたも少なくないでしょう。しかし、子どもの現状や気持ちを置き去りにしたまま、ただ再登校だけを目指すと、場合によっては事態を深刻にさせることもあります。

不登校や若者の生きづらさに向き合い、産官学での研究やプロジェクトを推進する横浜市立大学の宮﨑智之教授は「大人の意識をアップデートし、再登校だけを前提としないアプローチが必要」と指摘します。子どもの心を回復させるために必要なことをお聞きしました。

──不登校において、再登校だけを前提に対応することには、どのような問題があるのでしょうか。

子どもが不登校になる背景はさまざまです。友人関係や教師との相性といった人間関係、いじめ、勉強の遅れ、過度のプレッシャーなど、その原因は一つではありません。また小学生の場合は本人の発達特性が影響するケースも多く、小学校、中学校と原因は異なっています。そうした不登校の要因への対処がないままに再登校だけを目指しても、改善が見込めないことは明らかです。

たとえ再登校したとしても、子どもが抱えるプレッシャーやトラウマは当初以上に大きいはずです。自分の状態や気持ちをうまく言葉にして保護者や学校に助けを求めることは子どもには難しいもの。気付かぬうちに身体症状が悪化し、精神疾患に移行するリスクもあります。

要因回避のための転校などが難しい事情もあると思いますが、それでも、不登校の原因を特定し、それが解決されない限りは、再登校だけを前提にすることは避けたほうがよいと考えます。

──なぜ、子ども・保護者ともに、再登校を主眼に置きがちなのでしょうか。

周りに合わせようとしすぎる「過剰適応」という状態が考えられます。子どもも大人も「普通であること」「周りと同じであること」に安心を求めてしまうのです。

特に子どもたちは、自我が十分に芽生えていないからこそ「自分がどうしたいか」よりも、「みんながどうしているか」を優先しがちです。
この背景には、学校において個性を出すことがなかなか評価されづらい事情もあるでしょう。「みんなと同じなら非難されない」と学習した結果、普通であることに過度にこだわるのです。

一方で、保護者のかたは、進学やキャリアについての知識をアップデートしていく必要があります。たとえば、いま増えている通信制高校やフリースクールなどの教育機関は、親世代では一般的ではなかった選択肢かもしれません。仕事についても、昔は存在しなかった職業が多様にあります。

それらの選択肢を知らないと「学校に行けないと進学もできず、将来の道が閉ざされた」と感じてしまうかもしれません。これも、過剰適応に拍車をかけてしまう一因です。

──保護者は不登校の子どもの心の回復のために、どのようなサポートができますか?

大きく、三点考えられます。

一点目は「学校が合わないことは誰にでも起こりうる」ととらえ、寄り添うことです。特に、不登校の初期こそこの姿勢が非常に重要です。不安や焦りで混乱するとは思うのですが、どうか「大丈夫だよ」とどっしり構えてください。子どもの追い詰められた気持ちを、少しでも落ち着かせられるはずです。

二点目は、子どもが孤独にならない居場所を見つけることです。心の回復のためには、自己肯定感を取り戻すことが大切です。

内閣府の調査によると、自己肯定感や幸福感は「居場所の数」と強い相関が見られます(※)。家族や親戚、習い事などに加え、ゲームやアニメ、推し活といった好きなことも居場所になりえます。「学校に行っていないんだから」とそれらを制限することは、むしろ避けるべきかもしれません。

ただし、できれば他者とのコミュニケーションが生まれる居場所が望ましいでしょう。オンラインゲームのつながりで救われている子どもも少なくありません。自分の好きなことを共有しあえるスモールコミュニティー(習い事など)で、安心して自己解放することは疲れた心を癒すはずです。

三点目は、子どもに自分で決めさせることです。生きづらさは、主体的に何かをしようとするときに妨げがあることで感じるケースが多いです。

親がとやかく意見していなかったとしても、子どもが自分の純粋な意思で決められていることは意外と多くないもの。敏感に空気を読んで自己決定できないこともあるでしょう。

他人に決められたことだと不満も募り、自分の置かれている状況を責任転嫁してしまいます。自分で決めたことなら納得感が生まれ、たとえ失敗しても、それを学びに変えることで心の回復につながっていきます。本人の「好き」に向き合ってみてください。

──最近では、バーチャル空間を活用した支援も注目されています。

私が取り組むプロジェクトでも、不登校の子どもの支援として、メタバースを活用した居場所を提供しています。子どもは、自宅のパソコンなどからアバターでメタバースの学校に登校して、オンライン授業や部活、友達とのおしゃべりなどをして過ごします。気分が乗らないときは、ただいるだけでも構わないという自由度の高い過ごし方で、希望があれば、支援員に悩みを相談することもできます。

「友達と話してみた」「委員会で頼られた」といった成功体験が積み重なることで、学びへの動機が刺激されたり、いい意味での承認欲求も出てきたりします。チャットやアバターでの会話はコミュニケーションのハードルも下がりますし、積み重ねていくと、リアルで関わりたい欲求が生まれてくる子もいます。

このようなバーチャル空間も居場所の一例ですが、いずれにしても前に進むエネルギーを取り戻すには、まずは傷付いた心の状態を回復させることが重要です。再登校だけを目指すのではなく、子どもの状況や心理状態に合った選択肢を、ぜひ検討してほしいです。

プロフィール



JST共創の場形成支援プログラムのプロジェクトリーダーとして、産官学連携で若者の生きづらさを解消する取り組みを進めている。また、世界に先駆けてAMPA受容体認識PET薬剤の開発に成功し、精神・神経疾患のメカニズム解明等に資する研究を展開している。

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