中学生の性 保護者としてどう向き合う?【中学生の心と体】

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中学生になると、家庭で性について表立って話すのは、保護者にとっても子どもにとっても気恥ずかしく感じられてきます。
一方で思春期を迎え、身体や心に大きな変化が訪れた子どもには、性に関する悩みや不安が生じやすくなります。
保護者はこの時期、どのように向き合ったらよいのでしょうか。養護教諭(保健室の先生)やスクールカウンセラーとして子どもの性を見つめてきた、宮城大学の相樂直子先生に伺いました。

この記事のポイント

性への違和感が現れやすい、学校という空間
ー性的マイノリティへの理解ー

学校の保健室に勤務していたとき、子どもからの性に関する相談で最も多かったのは月経についてでした。10代前半はまだ生殖機能の発達過程でホルモンバランスも不安定なので、どうしても生理痛や生理不順といったトラブルが多くなります。

一方、相談数は多くないものの、悩む子どもが一定数は確実にいると感じたのが、性の多様性に関する違和感。今では「LGBTQ+」と表現される、性的マイノリティの子どもからの相談です。「制服に違和感がある」「男女別の体育の授業に参加したくない」「《おかま》とからかわれた」など、自分の性に違和感があるという訴えに何度か出会いました。

成人を対象とした調査では、「LGBTQ+」の当事者の割合は10%程度と示されています。このことから、中学生の場合にも性に違和感をもったり、悩んでいたりする生徒が、クラスに一定数はいると思われます。学校は、制服、校則、体育等の授業、部活動など、男女別のルールや活動が多い場所。それだけ違和感を覚える機会にあふれており、苦しい思いをしている子どもは少なくないでしょう。

一口に性的マイノリティと言っても、性の認識や性愛の対象にはさまざまなパターンがあり、万人に共通の対応はありません。

相当な心理的ハードルを超えて打ち明けてくれているはずですから、保健室ではまず「話してくれてありがとう」と感謝の気持ちを伝えていました。あとはとにかく真摯に話を聴き、本人は何も悪くないこと、自分らしく生きていく権利があることを話します。

保健室(養護教諭)以外に情報を共有する必要がある場合は、必ず本人の同意を得てからにしました。プライバシーの度合いが高い悩みなので、本人の「誰に」「何を」話していいかという希望を尊重すべきだからです。生死に関わることは別として、本人が同意しなければ保護者にも伝えませんでした。

保護者の方々も、社会のどこにでもある身近な事柄として、「LGBTQ+」について知識を得ておくことをおすすめします。そのうえで、子どもがカミングアウトしてくれたときは、心情をしっかり受け止めてあげてください。性にかかわらず、一人の人間として子どもを尊重することが大原則です。

近年は、ジェンダー外来、性同一性障害(GID)外来といった名称の、性の違和感に関する専門外来を設けたり、それらを診療対象として掲げたりする医療機関も珍しくなくなってきました。相談先の一つとして、近隣にあるかどうか調べてみるのもよいでしょう。

殴る、蹴るだけが暴力じゃないことを知って
ーデートDVの問題ー

性の多様性は、学校の性教育でも発展的な内容として扱われるようになりました。そのほか、保護者世代の性教育では扱われていなかったであろう内容として、「性情報への対処」「性犯罪被害の防止」などがあります。
特に保護者の皆さんにも知っていただきたいと思うのは、「性犯罪被害の防止」のうち、パートナーへの暴力についてです。

パートナーへの暴力は、「デートDV」という言葉でも知られます。

暴力というと、殴る、蹴るといった身体的な暴力を想像するかもしれませんが、暴言を投げつける、人前で馬鹿にする、行動を監視、制限する、デートでお金を払わせる、といった行為も暴力です。男性から女性に行われるとも限らず、逆もあります。

もし被害者や加害者だとしても、交際とはそういうものだと思い込み、気付いていない危険があります。いざというとき助けるためには、まずは保護者が、それらを暴力だと認識していなければなりません。

そのうえで、交際相手の存在を子どもが保護者にオープンにしているのなら、交際において「暴力」に当たる部分を示したり、イヤなことをイヤと言える関係が大切であると伝えたりすることが必要です。

子どもの性に対して、保護者にできることは?

ただでさえ保護者を煙たがりがちである中学生の時期に、よりプライベートな話題である性について、真正面から家庭で話し合うのは難しいかもしれません。とはいえ、性に関するトラブルの中には、子どもの身体や心の健康を大きく損なうものがあるのも事実です。
家庭では何ができるでしょうか。

子ども世代が抱える性の課題を知る

先に挙げた性の多様性やデートDVのほか、インターネット等を通じた性情報の氾濫、SNSの普及による交際スタイルの変化、エイズや性感染症の問題など、今の子どもの性の事情には、保護者の世代とは異なる面があります。まずは、現在の性教育や子どもの性の課題を知ることから始めてはいかがでしょうか。

性教育については、学校が発信する情報を注視しましょう。学校で性に関する指導を行なう場合は、保護者や地域の理解を得ることが重要になっており、学年便り等にそうした連絡が載っていることがあります。

また各地の教育委員会が、管轄の小中高に向けて作成した性教育の手引書がウェブ上に公開されており、読むと授業の概要がわかります。たとえば東京都教育委員会には「性教育の手引」がアップされています(https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/school/content/about.html)。

テレビや新聞、書籍等で、子どもの性の話題をキャッチするのもよいでしょう。SDGsに注目が集まっているせいか(SDGsの目標の一つに「ジェンダー平等を実現しよう」があります)、性の多様性や性教育、月経等を扱う記事、番組を最近よく目にします。大人向けの性教育入門書を書店で見かけることも増えました。

不安なそぶりがないか、よく観察する

発達や指向の差が大きいのが性というテーマの特徴ですが、学校の授業は一斉指導が基本なので、一人ひとりに合わせた対応はなかなかできません。子どもの身体や心の変化を察知して、適宜、正しい知識を届けられるのは保護者です。

もし子どもから質問や悩みを投げかけられたら、まずは子どもの話を真剣に聞き、一緒に調べたり、考えたり、相談相手を紹介(後述)したりしてほしいのですが、実際には、子どもの方から性についての話題を持ちかけるケースは少ないでしょう。必要そうな状況があれば声をかけるという姿勢が現実的です。

声をかけるタイミングをつかむには、日頃から子どもの様子を観察しておくこと。ちょっとした変化の裏に、性についての戸惑いや不安が隠れているかもしれません。
特に、思春期に入る「節目」的な変化は見逃さないようにしましょう。手をつないで買い物に行っていたのにつながなくなる、急に態度がよそよそしくなるといった兆候があれば、一人の大人として扱う心の準備を始めるべきときです。

場合によっては、相談相手の大人を紹介する

男性と女性では身体の発達が異なり、経験的に知り得ることにも差が出る以上、同じ性でしかわからない部分はどうしても出てきます。思春期の第二次性徴に関する戸惑いや悩みについては、身体面の性(生物学的な性)が同性の大人が相談相手になると、子どもにとって話しやすいかもしれません。

仮に、わからないことや困りごとを抱えた女子に、男性の保護者が対応する状況であれば、相談相手となる大人の女性を紹介するのがベターでしょう。

自身が信頼でき、かつ子どもが安心して話せる人、たとえば親戚の女性、学校の女性教員、養護教諭などが候補になります。生理不順や性感染症など、身体の不調が関係しそうなら小児科の受診を勧めてください。その場で治療に至らなくても、適切な専門外来を紹介してもらえます。保護者と子どもの性が逆でも、考え方は同じです。

相談先探しは子どもには難しく、保護者の役目です。異性の保護者には聞きにくい話なのに子どもから切り出したとなれば、本人の気持ちは切迫している可能性があります。ぜひ相談相手に結びつけてあげてください。

※コメントすると抽選でプレゼントが当たる「まなびの手帳 コメント投稿キャンペーン」は、2022年10月15日(土)23:59に終了しました。
たくさんのコメントありがとうございました。
記事へのコメントは、引き続きお待ちしています。

まとめ & 実践 TIPS

性に関する相談ごとは、個人の尊厳にかかわるデリケートな領域に触れざるを得ないこともあり、養護教諭やカウンセラーにとっても、決して簡単なテーマではありません。保護者の皆さんも、対応に苦戦する場面が出てくるでしょう。反抗期でもあるため、理不尽に思える行動にも出会うかもしれません。
でも、子どものできることが増えていく、身体や心が成長して大人になっていく、その過程に寄り添えるのは、保護者にとって喜ばしいことでもあるはずです。どうか面倒くさいからとあしらわず、大人の階段を上がる様子を後ろから見守る、温かいまなざしを大事にしていただければと思います。

取材・文 / 児山雄介(オンソノ)

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プロフィール


相樂直子(さがら なおこ)

創価大学教育学部教授。博士(カウンセリング科学)。
学校心理学が専門で、子どもたちのメンタルヘルス、学校における多職種連携などについて研究している。
大学での養護教諭養成教育のほか、小・中学校のスクールカウンセラー、巡回相談心理士としても活動している。
著書に『先生に知ってほしい家庭のサイン』(少年写真新聞社)『教師・保育者のためのカウンセリングの理論と方法 : 先生をめざすあなたへ』(北樹出版)など。

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