性教育はいつから必要? 子どもに伝える「おうち性教育」と知っておくべきNGポイント

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自分たちが学校や家庭で詳しい性教育を受けてこなかった保護者世代では、「わが子の性教育をどうすべきか」ということに関し、「いまいちピンと来ない」という人も多いかと思います。ですが、小さい頃からネットを使って動画やSNSに簡単にアクセスできてしまう現代では、間違った性の情報を鵜呑みにしてしまうという危険性もあります。わが子が将来、性犯罪の被害者・加害者にならないためにも、家庭で親が伝える「おうち性教育」が重要となってきます。
そこで、『おうち性教育はじめます 一番やさしい!防犯・SEX・命の伝え方』の共著者である、村瀬幸浩先生にお話を伺いました。気になる子どもへの性教育の正しい伝え方はもちろん、学校での性教育事情についても必見です!

この記事のポイント

日本の性教育は遅れている?

日本の性教育は、世界と比べて遅れていると言われていますし、私もそれは事実だと思います。では何を基準に遅れているというのか。それは「性を人権として考える」という考え方です。具体的には、性に対する思いこみや偏見でなく科学的に正しく理解する、ジェンダー平等や性の多様性、暴力や強制のない関係性を育くむことなどがあげられます。
つまり性について学ぶ目的は、一人ひとりが性的主体者として、ひとと共に幸せに生きていく力を育てること。しかし日本では、どちらかというと「いかに子どもたちを性から遠ざけるか」に関心があるように思います。そこに、日本の性教育が遅れていると考える理由があるのです。

まず学校での学習時間を見てもそれは明らか。世界と比べると、学校での性教育の時間が圧倒的に少ないです。性教育の先進国とまではいかない近隣の韓国でも、中学校で年間10数時間性教育をするのに対し、日本は年間わずか3時間程度(※)。しかも、学習指導要領で使用できない用語があり、性について扱う時間やカリキュラムが確立されていない状態です。

また私たち大人も性教育を学校ではじゅうぶんに受けていないので、「性教育=ポルノ・セックスのこと」という誤解を拭えずにきたのではないでしょうか。
本来の性教育とは、いのちやからだ、健康の学問であり、科学的な知識や学習によって形作られる文化。そして、未来を生きる子どもたちの人格を育てるのに必須な「教養と知性」であり、自己肯定感の高い人間を育てるものなのです。
では、実際にお子さんにどのように性教育を家庭で行っていくべきかを解説していきましょう。

思春期ではもう遅い!? 性教育はいつから始めるのがいい?

前述したように、「性教育は学校でやってくれるだろう、自然とわかるものだろう、うちの子にはまだ早い」は全てNGだということがお分かりいただけたのではないでしょうか。

では、性教育はいつから始めるべきかと聞かれたら、私は幼児期からがベストだと答えています。幼児が大好きな「おしり!うんち!」これも性教育のひとつのきっかけですね。
私はかつて私立高校の保健体育教諭として25年勤務してその間性教育の授業をしてきましたが、中高生になった子どもが親と性の話をすることなんてまずありません。小学校高学年の子だって親には話さないことが増えてきます。今はネットが身近にありますから、興味関心のある性の疑問は、自分で調べてしまいます。またSNSで相談すれば見ず知らずの人が親身になってくれるという、悪い大人の「罠」にも気づかず、恐ろしい事件に巻きこまれてしまうケースも少なくないですよね。
ですから、性教育は親に聞いてくる思春期前の小学校低~中学年のうちにまずすべきなんです。あなたは大切なわが子の性教育をネットまかせにしたいですか? 自分でせいいっぱい話したいですか? 

性について、子どもにまず伝えるべき2つのこと

「ある日突然訪れる、わが子からの性の質問に、親はどう準備しておくべきか」これは本当によく聞かれる質問です。私たち大人自体が性教育を受けていないのですから、「恥ずかしい」、「よく分からない」、「何を教えればいいか分からない」のは当然です。ここではまず教えるべき2つのポイントをご紹介します。

まず第1に、プライベートパーツの話からしてみるといいでしょう。体全体がプライバシーですがとくにプライベートパーツとは、口、胸、性器、おしりの4つ。ここは他人が(親でも)勝手に触ったり触らせたりしてはいけない、自分だけ触ってよい大切なところだと教えます。

2番目に大切なのが、子どもに身の守り方を教えるために「NO(嫌だと言う)、GO(逃げる),TELL(信頼できる大人に相談する)」ができる子になること。これらは、一度で覚えるのは難しいので、普段から繰り返し伝えておきましょう。
日本では同意することよりも不同意が難しいので、NOと言える能力は小さい頃から身につけていく必要があります。これは大人に関しても言えることですが、不同意が「不利益」となる体験を積み重ねるとNOと言えなくなってしまいます。子どもが「NOと言っていいんだ」と不同意を受け入れてもらえる経験を家庭でも重ねていけるといいですね。日頃から頭ごなしに「いいからこうしなさい!」ではなく、「こういうわけだからこうしたらどう?」という伝え方がベストです。

これはNG! 子供への間違った伝え方

「僕はどこから生まれてきたの?」などと突然聞かれて答えに困ったときは、決してごまかさないことです。すぐに答えられないときは、「いい質問だね! 調べておくよ」でいいんです。もちろん、後でちゃんと答えてあげてくださいね。
伝える際に大事なのは、「座って顔を見ながら、淡々と話すこと」。そこに保護者の感情や価値観はいりません。例えば、精子と卵子の合体の話を「恥ずかしい」「下品」なことと思いこんでしまうのが大人の最大の誤解なんです。子どもは事実を知りたいのです。どのようにして受精するのか、例えば魚と哺乳動物のちがいをきちんと話す。その話し方を練習しておくといいですね。

また、「夫婦の性教育についての価値観が合わない」という声もよく聞くのですが、その場合は、子どもから聞かれがちなママが勉強して実践するか、ママ友などの子育て仲間と勉強するのもありです。そして、「こういうことを聞かれたから子どもにこう伝えたよ」と淡々と夫に報告して、徐々に意識を変えていけるといいですね。ただ、注意したいのは、思春期以降は異性の親を「異性」と捉えてしまうので、同性の親が子どもに関わるよう父親の力(親戚でも可)が必要だと言うことをお忘れなく。

さらに、「男の子は生理の話を知らなくていい」、「女の子は射精の話を知らなくていい」なんていうのは昭和の話。今は、どちらの性についても知識を持つことが原則となっています。学校の性教育でも原則は男女一緒です。

性交について、伝え方と話し方の例

正解は一つではありませんが、たとえばこんな風に伝えるといいという例をご紹介しましょう。
「女の人の体にある卵(卵子)と男の人の体にある命のもと(精子)が出会って赤ちゃんのもと(受精卵)ができる。魚なら、メスが生んだ卵にオスが精子をかけて受精卵ができるけど、人間は水の中で生活していないから、卵も精子も体の外では生きていけない。だから、卵がいる場所に届くようにペニス(男性性器)で赤ちゃんが生まれてくるところ(ワギナ)に送りこむ。これを性交(セックス)というの。大人になって好きな人と一緒に赤ちゃんが欲しいと思うようになったらみんなするんだよ」と。

ポイントは、「大人になって」+「好きな人一緒に」+「二人で赤ちゃんが欲しかったら」セックスをすると3つを結び付けて伝えること。あとは動揺せずに当たり前と開きなおること! 役者になったもりで繰り返し練習しているうちに、抵抗感が消えて淡々と話せるようになるはずです。

大人が知っておきたい性の話

まず、親御さんが自分の性に自信をもって生きてほしいです。家庭は時間の長さや人間関係の密度からして学校の比じゃないくらい子どもに影響を与える場所です。子どもたちは、親のふるまいや言葉遣い(愛し合っていたわりあえる夫婦か、憎しみ合ってバカにし合う夫婦か)などからさまざまな価値観・生き方・考え方を、毎日感じ取っている、つまり私たち大人がどう生きているか自体が性教育になっているのです。
そして大人には、性行為には①子どもを作るため、②体の気持ちよさや心の気持ちよさの快楽を分かち合うため、③相手を自分のいいなりにさせようとするため(AVやアダルトサイトに多い支配的性描写もこれに当たる)の3種類があるということも知っていただきたい。
今回お伝えしたのは①の「女性が子どもを産むための性」についてですが、子どもの成長や状況を見つつ残り2つについても、日常の会話の中で伝えていけるといいですね。

性教育の勉強を通して、親自身が親と子はイコールでも分身でもない、別の人間だと気づいて、この子が幸せに生きていくためにどんな手助けができるか考えるのが望ましいことだと思います。

まとめ & 実践 TIPS

・日本は性教育が遅れている
・本来の性教育とは、いのちやからだ、健康の学問である
・性教育は親に聞いてくる思春期前の小学校低~中学年のうちに始めよう
・まずは、プライベートパーツの話とNO、GO,TELLができる子に育てよう
・子どもに伝える際は、座って顔を見ながら、淡々と話すこと

出典:『おうち性教育はじめます 一番やさしい!防犯・SEX・命の伝え方』(KADOKAWA)
著者:フクチマミ 村瀬幸浩
(※)『こんなに違う!世界の性教育』(橋本紀子監修 メディアファクトリー新書)より

〇取材・文 加藤朋美

プロフィール

村瀬幸浩

東京教育大学(現筑波大学)卒業後、私立和光高等学校の保健体育教諭として25年間勤務。退職後、一橋大学や津田塾大学などで25年間セクソロジーを講義。現在は、一般社団法人“人間と性”教育研究協議会会員、同会編集による『季刊セクシュアリティ』誌編集委員、日本思春期学会名誉会員を務める他、性教育に関する執筆講演活動も行っている。

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