保健室の先生に、中学生はどんな悩みを相談している?【心の悩み編(2)】

過去には養護教諭として保健室を訪れる子どもと向き合い、現在はスクールカウンセラーとして子どもの内面のケアにあたる相樂直子先生に、中学生の心の悩みについて2回にわたって伺います。
2回目となる今回は、中学生が抱きがちな劣等感、無力感について。この世代になると、自信を持てず、自分嫌いになる子どもが増えるのは、どういった理由があるのでしょうか。
自ら内面を傷つけてしまうメカニズムと、そうした子どもにとっての家庭が果たす役割を知っておきましょう。

「自分はダメだ」。ため息の裏側にあるのは…

自傷や暴力につながることもある、劣等感や無力感。中学生がそれらを抱える背景には、発達段階や社会状況など、さまざまな要因が絡み合っています。

不登校や暴力は、自分嫌いが背景にあることも

「私はダメな人間なんだ」「がんばっても意味がない」。中学生になると、人より劣っていると感じたり、自分には能力がないと思ったりする子どもが増えてきます。

こうしたネガティブな気持ちが強まり、「登校しぶり」や「不登校」につながるケースも見られます。文部科学省の調査によると、2020年度の不登校者数の割合は、小学生のおよそ100人に1人に対し、中学生はおよそ25人に1人。進学後、割合が大きく上がることがわかります。要因の半数弱が「無気力、不安」です。

強い劣等感は、暴力という形で現れることもあります。
同じく文部科学省の調査で2020年度の暴力行為(人への暴力や器物破壊)に至った人数を学年別に見ると、小学校から高校までの間で最も多いのが中1、次いで中2となっています。

不登校や暴力行為などは、子どもたちが内面に抱える心理的なストレスや葛藤を、周囲に見える形で表現したものと捉えられます。

自らを責める中学生が多いのは、なぜ?

自分に対するネガティブな気持ちはどこから生まれてくるのでしょうか。

中学生ほどの年齢になると、多くの子どもはそれまでより周囲の目に敏感になり、自分が何を求められているかを察するようになります。人間関係を築くうえでは必要なプロセスですが、周囲の期待がプレッシャーとなり、期待に応えられない自分にイライラしたり、自信を失ったりする様子が時に見られます。
保健室やカウンセリングの現場で子どもに接していると、保護者からの学習や進路に対する期待が重荷となる例が特に多いと感じます。少子化の影響や、学歴重視の社会構造により、一人ひとりの子どもに対する保護者の思いが強くなっているのかもしれません。

また前回の記事でも触れたように、中学生は同質のグループをつくる傾向にあります。友達に嫌われたくないあまり、その場の空気に合わせて自分が意図しないリアクションをとってしまい、あとから「本当は〇〇なのにどうして△△と言ってしまったのだろう」などと、自分を責めがちです。

小学校時代との学習面の違いも一因です。学習内容が難しくなるので、テストの点数が高い人・低い人の差が開き、点数が低い人は《落ちこぼれ感》をより強く感じるようになります。
中学卒業後の進学先や将来の仕事を考える機会も増えます。「今の成績では希望の高校に入れない」「進学先について親と意見が合わない」「そもそも自分は何がしたいのかわからない」など、進路の悩みが深刻化する子どもも少なくありません。

加えてこの2年間はコロナ禍によって行動が制限され、子どももストレスが解消しづらくなりました。それだけが原因だと断じるわけにはいきませんが、2021年度は小中学校の不登校者数の割合、小中高校の自殺者数が過去最多を更新しました。
子どものケアを、より一層重視すべき時代であることは間違いありません。

家庭という安全地帯をつくる

子どもが必要以上に自分を責めず、安全・安心に過ごすためには、家庭の役割が非常に大切です。

気持ちに寄り添うことが大切

最も大切なのは、家庭を、「できない自分」をも受容してくれる《安全地帯》にすることです。
子どもにとっての安全地帯とは、自分の気持ちに寄り添ってもらえる場。つらさ、苦しさ、寂しさなども含めて、子どものありのままの気持ちをわかろうとする姿勢や態度で聴くことが大切です。

悩みを解決できる適切なアドバイスができなくても構いません。そばにいて静かに聴くことで、子どもは安心感を得やすくなります。
子どものほうに顔を向け、うなずいたり、あいづちを打ったり、子どもが発した言葉をそのまま返したりします。特に「いやだった」「つらかった」など、気持ちを表す言葉は聞き流さず、「いやだったね」「つらかったね」と、丁寧に返していきます(カウンセリングの基本的な技法です)。

「助けられ上手」な子どもに育てる

《安全地帯》となった家庭は、子どもの“上手に人に頼る力”を育てます。「声を上げたら、助けてくれる人がいる」「SOSを発信してもいいんだ」と認識できるからです。

私の現場レベルの感覚では、周囲の人に助けを求めない子どもが増えているように思います。養護教諭として勤務していた際、ケガで保健室に来た生徒が、保健室の利用記録簿に名前を書かないでほしいと言ってきたことがありました。理由を聞くと、「保健室を利用したことを認めたら、自分が弱いと認めることになる」と話していました。生徒のプライドを大切にしながら、必要な支援を抵抗なく受けられる環境づくりが大切であると学ばせてもらいました。

人に頼ることに否定的にならないよう、子どもの声に耳を傾ける姿勢を示し、安心して話ができる関係を保ちましょう。その後の人生でも上手に周囲の人に頼れる、「助けられ上手」になれるように育てたいですね。

結果が出なくてもプロセスをほめる

子どもの世界に限らず社会には、目に見える成果(成績が上がった、競争に勝った)を認めてくれる場はたくさんありますが、プロセス(努力した、取り組み続けた)を認めてくれる場は多くありません。
家庭ではぜひ、成果が出ていなくても、子どもが取り組んでいる様子に着目し、励ましやねぎらいの声をかけてほしいと思います。

例えば、保護者が子どもの取り組みを意味付けし、子どもに伝える方法があります。子どもが「宿題が終わらない」とあきらめたり、イライラしたりしている時は、「〇〇までやったんだね。自分のペースで進めているのがわかるよ」などと声をかけます。
できなかった部分ではなく、できた部分に着目する姿勢が大切です。

保護者の意向を押し付けない

子どもに対して夢や希望、期待をもつことは、子育てを続けるモチベーションになります。しかし、保護者の夢や希望、期待と、子どもの生き方は、必ずしも一致しません。
志望校、勉強の内容、習い事、趣味、友達付き合い…。保護者の意向を押し付けず、まず、子どもがどうしたいのかを聴くこと、子どもの気持ちを認めることです。子どもが自分の思いを言語化できない時は、言葉を補ったり選択肢を与えたりして、子どもが表現できるように支えましょう。そして、場合によっては保護者の意見や考えを伝え、子どもにとってより良い判断がなされるよう話し合います。
子どもの人権を守る視点から、子どもの意見の尊重が、保護者の義務であり、責任であることに留意していただければと思います。

まとめ & 実践 TIPS

●中学生は、自分を否定的にとらえがちな時期。家庭が、何でも話を聴いてくれる“安全地帯”として機能していると、過度な自己否定を防ぐことができます。助けが必要な時に、人に頼るスキルも育つでしょう。
●子どもに自己肯定感を持たせるには、結果ではなくプロセスをほめること、保護者としての意向を押し付けないこと。頑張っていると認めてくれる、考えを尊重してくれる保護者の存在が、子どもにとって大きな支えになります。

取材・文 / 児山雄介(オンソノ)

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プロフィール

相樂直子(さがら なおこ)

相樂直子(さがら なおこ)

宮城大学看護学群准教授。博士(カウンセリング科学)。
学校心理学が専門で、子どもたちのメンタルヘルス、学校における多職種連携などについて研究している。
大学での養護教諭養成教育のほか、小・中学校のスクールカウンセラー、巡回相談心理士としても活動している。
著書に『教師・保育者のためのカウンセリングの理論と方法 : 先生をめざすあなたへ』(北樹出版)、『保健室・職員室からの学校安全 事例別 病気、けが、緊急事態と危機管理 vol.1、 vol.2』(少年写真新聞社)など。

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