子どもが怒りっぽくなる原因とは?教育心理学の専門家が解説

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「うちの子、いつも怒ってばっかり」と嘆いている保護者のかたはいませんか? 子どもはその子自身が怒りっぽい性格だからという理由だけではなく、その成長過程によっても怒りっぽくなることや、生活する環境との関係で怒りっぽくなることがあります。そこで、なぜお子さまが怒りっぽくなるのか、その原因や対処法について教育心理学の専門家松尾直博先生に伺いました。

この記事のポイント

子どもの怒りの背景にある意味やメッセージ

「怒りっぽい」は、いらだちや怒りを経験したり、示したりしやすい傾向と言えます。「怒りっぽい」と本人の苦しさも増すことも多いですし、周囲の人との関係がうまくいかなくなることも多いです。それでは、どうして人には怒る(おこる・いかる)、という感情があるのでしょうか。実は、怒りには人が生きていくために有利に働く役割があるからです。
怒りは、目標を妨げているものを取り除く行動を直ちに引き起こす、という働きがあります。そして、周囲の人にこのままだと(もっと)攻撃するかもしれないよという警告を示すという働きもあります。たとえば、遊びたいおもちゃを友達やきょうだいに取られてしまい、返してくれないとき、子どもは泣きながら怒ったり、つかみかかることがあります。大人からなにか我慢を強いられた時、地団駄を踏んで怒りを示す子どももいます。やりたいことを妨げられているときに起こりやすく、そのことをメッセージとして伝えようとしているのが怒りだと考えると、いろいろなヒントが得られるでしょう。特にことばで気持ちを十分に伝えることが難しい子どもにとっては、怒りは重要な意味があるのです。

幼稚園や小学校に入ると怒りが増えることも

怒りは基本的な感情の一つと考えられていて、どの文化にもあり、子どもが幼い時から現れやすいと考えられています。ごく幼いときから家庭で怒りっぽい子どももいるのですが、幼稚園・保育園や小学校に入ったことを機に怒りっぽくなる子どももいます。
それは、幼稚園・小学校という環境が、子どもの側からするとやりたいことが妨げられやすく、我慢を強いられ、欲求不満が溜まりやすい環境だからだと言えます。親とずっと一緒にいたい子どもからすると、それができないだけでもやりたいことが邪魔されたことになるのです。好きなおもちゃを独占することは許されず、友達と一緒に交代で使うことが求められます。ずっと好きな遊びをすることは許されず、みんなでお話を聞いたり、お遊戯したりすることも求められます。多くの子どもが園でこのような生活に慣れ、むしろ楽しくなっていくことも多いのですが、なかなか慣れない子どももいます。小学校になると、自由に遊んでよい時間の割合が急に減るので、ここで怒りっぽくなる子どももいます。

生まれつきの特徴と環境との関係

このように、子どもの怒りっぽさは生活している環境との関係で起こることが多いのですが、子ども自身が持つ生まれつきの特徴により、怒りっぽさの程度に違いが出ることもあります。たとえば、生まれつき機嫌がよいことが多い子どもと、不機嫌になりやすい子どもとがいると考えられています。2人以上のお子さんを育てられたことがあるかたは、きょうだいで同じ家庭環境で育っているのに、幼い時から機嫌・不機嫌の度合いがどうしてこんなに違うのだろうと感じることもあるのかもしれませんね。
生まれつきの特徴の怒りっぽさは、成長しても長く続く場合もあります。しかし、それはその後の環境の影響も大きいです。乳幼児期に怒りっぽい子どもが、家庭、幼稚園や学校で他の子どもや大人と衝突することを多く経験し、怒りっぽさが増幅して思春期に突入する場合もあります。一方で、乳児期に怒りっぽい子どもが、自然な発達で、あるいは環境に恵まれることによって、驚くほど穏やかな子どもになっていることもあります。

怒りっぽさの受け止めと対応

怒りの背景とメッセージを考える

ここまでの話を参考に考えると、子どもの怒りっぽさの背景に、どんな願い、意欲、意志、我慢、SOSがあるのかを大人が知ろうとすること、受け止めようとすることが関わり方のひとつめのヒントとなります。「あなたはこうしたいのだけど、それができないのが嫌なのね」、というように気持ちをくみ取り、クールダウンさせることで、子どもの怒りがおさまり、その後は徐々に怒る前にその気持ちを話せるようになる子どももいます。

「満足の遅延」を促す

関わりのヒントのふたつめは、「満足の遅延」を促すことです。「満足の遅延」は、心理学の専門用語ですが、今は叶えられないけど、後で叶えられるから我慢しよう(我慢できる)という気持ちのことです。お友達と順番に使えばいいや、お弁当の時間が終わってからまた遊べばいいや、ということができるようになると、怒りっぽさが減っていきます。「後でできるから、今は我慢しようね」という声かけをしたり、実際に我慢した後で満足できたという体験の機会を与えたりするとよいでしょう。

上手な怒り方を育む

また、上手な怒り方を身につけるように促すことが 3つ目のヒントです。やりたいことが妨げられたので怒りが生まれることが多いことを考えると、何もかも我慢させることがよいとは限りません。だからと言って、怒った勢いで暴力をふるうこともよくありません。なので、言葉で不満を示す、抗議する、誰かに助けを求めるなど、いわば上手な怒り方を身につければ、攻撃性の強い怒りの表出は減っていきます。あわせて、怒りそうになったら深呼吸する、心の中で数を数える、その場から離れて大人に話を聞いてもらうなどの方法を身につけることも効果的です。こうした上手な怒り方を大人が教えることも効果的なのですが、実は大人自身が上手な怒り方をしているかが、子どもに大きな影響を与えます。大人が怒りにまかせて攻撃的になっている姿を見ると、子どもはそのような対処法を身につけやすくなりますし、大人が怒りをコントロールしながらよい方法で解決している姿を見ると、そうした上手な怒り方を子どもが身に付けやすくなります。

まとめ & 実践 TIPS

このようなヒントを参考にまとめて考えると、「あなたはそれをしたかったけど、できなかったからイライラしているんだね。じゃあ、先にこれを終わらせて、また後で続きをしようか。イライラしてきたら、私とか先生にお話に来てね」のような声かけが考えられます。こうした声かけは、魔法の言葉のように一度で全て問題解決!とはなかなかなりませんが、粘り強く、一歩ずつ、怒りっぽさを改善するうえで効いてきます。そしてこのような、子どもの怒りに対して怒りで対応せず、穏やかに導いていく大人の姿こそが、子どもの怒りっぽさを改善するうえで効果を発揮するでしょう。

プロフィール


松尾直博

主な著書『絵でよくわかる こころのなぜ』(学研プラス)『ポジティブ心理学を生かした中学校学級経営 フラーリッシュ理論をベースにして』(明治図書出版・共著)『コアカリキュラムで学ぶ教育心理学』(培風館・共著)『新時代のスクールカウンセラー入門』(時事通信社)など


博士(心理学)。公認心理師。臨床心理士。学校心理士。特別支援教育士スーパーバイザー。専門は、臨床心理学や学校心理学。幼稚園、小中学校でのスクールカウンセラーの経験多数。

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