「お金がないから」という言い方で買い物を我慢させることのデメリット

幼稚園にあがり、そろそろ大人がいうこともなんでもわかる頃。でも、「わかること」と「納得して動くこと」はまた別のお話。出先で子どもが何かを欲しがったとき、つい言ってしまうのが、「お金がないからだめだよ」という言い方。確かに、簡単に子どもを納得させられる言葉かもしれません。ですが、この言葉で我慢を続けさせると、いくつかデメリットがあるかもしれません。どんなデメリットがあるのでしょうか。子どもの心のコーチングについて、著書も数多く出されている菅原裕子さんにうかがいました。

「お金がない」って、実はあいまいな基準

「お金がない」というのは、目に見えるものがないということで、とてもはっきりした基準のように聞こえます。ないものはない、だから買えない。大人は納得です。ですが、それならお金があるときならいいのか…? お金があるときとないときはどんなふうに違うのか…? と、子どもにとっては非常にあいまいな基準。ないものはない、の前に、まずあるのかないのか、というところさえはっきりしていないのです。

子どもは「基準がはっきりしないこと」を基準にされると、自分自身の考えを構築しにくくなります。状況Aのときは行動B、状況Cのときは行動D、というように判断して考えていくということが難しくなってしまうのです。言ってしまえば、それは「親の機嫌を見て行動を決めなさい」と同じくらい大変なこと。その結果、納得できない子どもがいても当然です。スーパーでの大騒ぎは解決することなく、毎回「お金がないからだめ」と言い続けることになります。もうその言葉に何の効き目もなくなっているというのに。

家庭に対する劣等感につながる可能性

さらに、「お金がない」というのは、子どもにとって家庭にマイナスのイメージを植えつけてしまう危険性もあります。家庭の状況はそれぞれ。節約が必要なときもあります。それでも、子どもはそんなことはまだ深く理解できません。他の家庭と比べて必要以上に劣等感を感じてしまうこともありうるのです。将来必要になったときのために今は使わない、お父さん、お母さんが働いた大切なお金だから大切に使いたい、という意味を伝えるには、もっと丁寧な説明が必要です。

物の価値ではなくお金のあるなしで購入を決めるようになる可能性

もう少し子どもが成長した段階のことも考えてみましょう。「お金がないから買えない」と単純に理解することは、「お金があれば買ってよい」という考え方につながりやすくなってしまうというデメリットもあります。お年玉やそのほか特別なお小遣いとしてお金が手に入ったとき、「欲しいものを欲しいだけ買える」と思ってしまうことも。
小さいうちはお金をすぐに預かることもできますが、自分で管理すべき年齢ではそうもいきません。また、こういった金銭感覚は大人になっても根強く残る可能性もあります。

必要でないものを買わない、よい我慢を

金銭感覚は小さな頃から徐々に身につけるもの。「我慢する」のは悪いことではありません。しかし、それがきちんとした理由があっての我慢か、そうでないかによって、子どもにとって適切な我慢なのか、ただのストレスなのかが変わってしまうのです。お金がないからと言うのは簡単。でも、このようなデメリットもあると考えて、毎日繰り返し言ってしまうのは避けましょう。

最終的な目標としては、お金のあるなしで購入を決めるのではなく、「自分に必要か、今買っても無駄にならないものか」ということでの判断ができるようになること。
最初は難しいかもしれませんが、そんなふうに「物の価値」ときちんと向き合う心構えをもって買い物をするくせをつけていきたいですね。
もちろん、小学生になってお小遣い制などにして「自分のお金がないから」という分には問題ありません。それこそ、ないものはない、のです。

プロフィール


菅原裕子

人材開発コンサルタントとして、企業の人材育成の仕事に携わる。1995年、企業の人育てと自分自身の子育てという2つの「能力開発」の現場での体験をもとに、子どもが自分らしく生きることを援助したい大人のためのプログラム-ハートフルコミュニケーション-を開発。2006年にNPO法人ハートフルコミュニケーションを設立。『子どもの心のコーチング』『10代の子どもの心のコーチング』『子どもの「やる気」のコーチング』(以上、PHP文庫)など、著書多数。

NPO法人ハートフルコミュニケーション
https://www.heartful-com.org/

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