子どもを「褒める」前に大切なこと

「子どもを叱るより褒めましょう」と言われて久しく、褒めることが子どものやる気を引き出すアプローチと思われがちです。もちろん、褒められてやる気になる子どももいますが、先日、コーチング講座に参加されたSさんのコメントには、あらためて考えさせられるものがありました。本人の許可をいただき、以下にご紹介します。

■褒められるのも叱られるのも好きではない

私は小さいころは何も努力しなくても、勉強などで困ることがありませんでした。おとなしく言うことを聞くので、先生には気に入られました。勉強ができて黙っていれば、大人はやさしいのだと思いました。そして、どうも自分は褒められるのが当たり前のようなので、いつも褒められなければならないと思うようになりました。

思春期になって、世の中には競争があるとみんなが思うようになると、私が褒められることが面白くない人がいて、私を攻撃する人が増えていき、今度は褒められるようなことなどもうしたくないと思うようになりました。褒められることを避けるように優等生でなくなった私に対して、大人も困ったり冷たくなったりしました。

褒められたのに素直に喜べないのかと、思わなくもないですが、私はやっぱり、褒められるのも、叱られるのも好きではないのかもしれません。

■「褒める」ことの弊害

このSさんのコメントを読んで、どう感じられましたか。子どもは一人ひとりみんな違います。Sさんのように、「何も努力しなくてもうまくできる」子どももいます。そんな子どもに対して、「すごいね!」「がんばったね!」と一方的に褒めてしまうと、「いつも褒められなければならない」と思ったり、「褒められることで他の人に攻撃されるのなら、褒められるようなことなどもうしたくない」と思ったりする子どもも中にはいるのだと気付かされます。

もともとできる子どもなのに、褒めることでかえって、その力を健全に伸ばすことができないとしたら、「ただ褒める」ことは危険だなと思います。「勉強ができて黙っていれば、大人はやさしいのだ」と思わせてしまうのもなんだか悲しいです。「それで本当に自発的で生きる力の強い子どもが育つのだろうか?」と思います。ただ勉強ができて、黙っているだけの大人に育ててしまってよいのでしょうか。大人が自分の都合で扱いやすいように褒めることは、大人が子どもの可能性を狭めているようにすら感じられます。

■「褒める」前に子どもの気持ちを聴く

やはり、褒める前に、まず子ども本人の気持ちを聴いてみてはどうかと思います。たとえ、「うまくできたね」とこちらが思ったとしても、「やってみてどうだった?」と問いかけてみるのです。「今、どんな気持ち?」「どう感じた?」などの言葉でもかまいません。本人の気持ちを聴き、受けとってから、その気持ちを尊重する言葉をかけてあげることが大切だと感じます。

たとえば、「やってみてどうだった?」と質問して、「別に。簡単だった」と子どもが答えたとしたら、「そうなんだ。簡単にできたんだ」と受けとめます。これで十分ではないでしょうか。子どもが「別にそれほどでもない」と感じているのなら、大げさな褒め言葉など要らないのです。

反対に、褒めてもらいたいと思っている子どもの場合は、「やってみてどうだった?」「上手にできた! ほら!」「そうだね、上手だね! うれしそうだね!」と気持ちをくんであげたらよいのです。

子どもが今、どんな気持ちなのかは、聴いてみないと、大人には測り知れないものがあります。相手の気持ちに耳を傾け、受けとめることは、相手に対する尊重の姿勢です。自分の気持ちを尊重してもらえると、すくすくと自己肯定感も育まれます。そのように大切にされた子どもは、相手を攻撃したりもしないでしょう。

人からの評価で自分の価値を測るのではなく、自ら価値を感じ、考え、行動できる子どもに育っていくように思います。

(筆者:石川尚子)

プロフィール


石川尚子

国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ。ビジネスコーチとして活躍するほか、高校生や大学生の就職カウンセリング・セミナーや小・中学生への講演なども。著書『子どもを伸ばす共育コーチング』では、高校での就職支援活動にかかわった中でのコーチングを紹介。

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