病気や体調がわかる重要なサイン 止まらない子どもの咳

咳は、喉の奥にある気道に異物が侵入しようとしたとき、これを排除しようとする人間の反射機能です。ウイルスなどの病原菌などから体を守ろうとして起きる防御反応も咳であり、それぞれの症状に対し素直に反応してくれます。つまり咳は病気や体の状態を知るための重要なサインであり、手がかりなのです。
特に体の状態を言葉で伝えられる年齢に達していない乳幼児の場合、咳は熱や嘔吐などと並んで、子どもが発する病気を伝えるための大切なメッセージであると言えます。では、それぞれの病気や病態によってどんな咳が出るのか、また子どもに咳が続くときどのように対処していけばよいのか、詳しく見ていきましょう。


どうして咳が出るの? 原因となる病気を知ろう

 まずは、子どもがよくかかる咳を伴った病気とその具体的な症状をご紹介します。お子さまの咳がひどい場合は、いずれかに当てはまるかもしれません。

 

◆小児気管支喘息

子どもの咳で最も注意すべき疾患です。初めのうちは風邪による咳が長引いたり、呼吸の際に、喘鳴(ぜんめい)と呼ばれる「ヒューヒュー」、「ゼイゼイ」という音が聞こえたりします。喘鳴は、気管支の炎症により管が極端に狭くなったことが理由です。炎症を起こす原因は人によって異なりますが、ハウスダストやウイルスなどが考えられます。
喘息にかかると、風邪をひいていなくても喘鳴が聞こえるようになります。喘鳴は発作に伴って起きるのですが、冷たい空気を吸い込んだときや激しい運動をしたとき、あるいは大笑いや大泣きしたときなどにもよく起こります。

 

◆風邪症候群

一般に「風邪」と呼ばれる疾患は気道のウイルス性急性炎症の総称で、主に急性上気道炎を指します。大雑把な分け方をすると、上気道炎は「喉の風邪」で、気管支炎は「肺に近い方の風邪」です。
上気道炎と気管支炎では咳に違いがありますので、分けて説明することにします。いずれも咳を伴いますが、基本的な治療は安静です。咳がひどくてきつそうな場合、咳止めの薬を処方することもあります。

 

・急性上気道炎

上気道部、つまり喉に起きる風邪のことです。いくつかのウイルスが原因で発症し、上気道部に炎症を起こします。主症状は、鼻水や喉の腫れ・痛みです。熱も伴いますが、それほどの高熱ではありません。「コンコン」というような、比較的渇いた咳が出ます。咳は通常、1週間〜10日で落ち着くことが多いでしょう。

 

・急性気管支炎

気管から気管支にまで及ぶ風邪で、痰(たん)を伴う咳が出ます。上気道炎と異なるのは、咳の音。痰を伴う咳ですので「ゴホゴホ」、「ゼロゼロ」という湿った感じで重めの咳が出ます。肺に近い分、重症化すると肺炎に至る場合も。また、気管支の炎症が重症化すると、気管支が狭くなり、呼吸をするごとに「ヒューヒュー」という音が聞こえることがあります。

 

◆インフルエンザ

主症状は高熱と関節痛、筋肉痛で、咳も伴います。ウイルスの感染力は強く、インフルエンザは咳より熱と言えるでしょう。

 

◆クループ症候群

動物の犬やオットセイの泣き声に似た「ケン・ケン」という、特徴的な咳を発する疾患群の総称です。原因はウイルス感染で、その多くは風邪から進行するケースが多いと言えます。また、肩の鎖骨が交わって落ち込むあたり(喉の下あたり)が、息を吸い込むときに「ペコン・ペコン」とへこむのも特徴です。
夜間に症状が悪化したり、重い呼吸困難を伴う場合がありますので、入院して治療することもあります。重症化して意識障害を起こすような場合もあるので、特徴的な咳をしていておかしいなと感じたら、すぐに受診してください。

 

◆肺炎

一般に風邪をこじらせて肺炎になることが多いですが、肺炎の直接的な原因はウイルスや細菌です。肺炎を引き起こす原因は意外と多くあります。肺炎はその名の通り肺に炎症が起きる病気で、多くの場合、症状に咳を伴います。
子どもは風邪をひいたとき、3〜4日で症状がおさまり始めることがほとんどです。もし4日を過ぎても治ってきているように感じられない場合、肺炎が疑われますので速やかに受診してください。以下に子どもがかかる主な肺炎をご紹介しておきます。

 

・細菌性肺炎

細菌が原因で発症し、最も重症化する肺炎です。高熱を発し、咳も長引きます。子どもの場合、入院する必要があることが多いですが、他の肺炎に比べると発症する頻度は少ないと言われています。

 

・マイコプラズマ肺炎

症状の特徴は咳ですが、痰を伴わない乾性咳嗽(かんせいがいそう)で熱も出ます。マイコプラズマ感染症にかかり激しい咳が続いても、肺炎の診断が出ない場合も。症状が進行しレントゲンに肺炎像が表れても一般の細菌性肺炎と区別がつきにくく抗生物質も限定されるため、一般の細菌性肺炎と思って治療にあたったところ改善が見られず、処置が遅れるという場合があります。

 

・百日咳

細菌による感染症です。ワクチン接種で予防できます。昔は死に至る可能性の高い病気でしたが、ワクチンによる予防が可能になったうえ、マクロライド系の抗生物質で治療が可能な疾患です。症例数は少ないものの、定点観測で毎年発症報告が上がっています。症状の特徴は、名前の通り咳です。しかもその音や音の発し方に特徴があり、「コンコン」、「エホエホ」、「ヒューヒュー」といった渇いた感じの咳が短い間隔で連続して出ます。ただし、このような咳がすぐに出るというわけではありません。また、菌の特定が難しいので、百日咳と診断が確定するまで相応の時間を要します。ワクチンの効果は年齢とともに薄れていくため、大人がかかる場合も多いです。

 

 

止まらない咳を止めるために自宅でできる対処法4つ

 子どもが苦しそうに咳き込む姿を見ているのは、親として大変つらいものです。一刻も早く鎮めてあげたいと思いますが、咳中枢に直接作用する薬は副作用もありますので慎重に使用すべきと思われます。以下に家庭でできる子どもの咳対策をいくつか挙げてみましたので、参考にしてください。

 

1.十分に加湿する

乾燥は大敵です。喉によくないばかりか、ウイルスの増殖につながります。加湿器を使うなどして、適度な湿度を保つようにしてあげてください。目安は60%程度です。

 

2.保温と保湿で呼吸が楽に

部屋を温かくしてあげましょう。また、電子レンジで加熱した蒸しタオルを鼻の周囲にあて、気道を温めて呼吸を楽にしてあげることもできます。

 

3.タバコとほこりは厳禁!

屋内での喫煙は厳禁です。また、布団の清潔を保つためにも天日に干す、ダニやほこりを掃除機で吸い取るなどしましょう。犬や猫またインコなどの鳥を飼っている場合、子どもが全快するまでの間は同室に入れない方が望ましいと言えます。

 

4.上体を起こす

横になった状態だと呼吸が苦しくなりがちです。布団の中で起きている状態であれば、腰や背中にクッションなどを当て、呼吸が楽になるような角度まで上体を起こしてあげましょう。また、寝る際には首の下にタオルを敷くなどして、寝ている間、顎がやや上向きになり気道を確保しやすいよう工夫してあげてください。枕は低めの方がよいでしょう。

 

 

プロフィール



医療法人社団悠翔会 悠翔会在宅クリニック川崎 院長

宮原裕美
芝パーククリニック 内科医員

子育て・教育Q&A