「10歳の壁」子どもを飛躍させるための保護者のサポートとは【後編】
10歳前後の内面に起こる変化や成長は理解していただけましたでしょうか。続いて10歳前後のお子さまを「飛躍」させるための保護者のフォローについて考えていきましょう。引き続き、法政大学文学部心理学科の渡辺弥生教授が解説します。
理詰めで教えるよりも、気持ちに寄り添おう
お子さまが高学年になると、「ようやく手がかからなくなった」と、仕事に復帰されたりする保護者は少なくありません。確かに1人でできることは増えますが、一方では大人に近づいて複雑な悩みや葛藤を抱えやすくなる時期です。これまでのようにべったりと世話をする必要はないかもしれませんが、お子さまから目を離していいわけではないのです。逆にお子さまの内面をしっかりとフォローし成長を支えることが、中学校にかけて問題を生じにくくさせます。
お子さまが自信を失ったり劣等感をもったりしているようなら、まずは気持ちに寄り添うことが大事です。「何があったの? こうするべきよ」などと理詰めで教えても、お子さまが感じているつらさはなかなか取り除けません。お子さまに寄り添い、「今日は疲れているみたいね。ゆっくりしなさい」などと温かい言葉をかけてあげると、いくらか楽な気持ちになるでしょう。
保護者が自分のことを考えているかを見抜く力もつく
この時期は、一つのつまずきから「自分はだめだ」とすべてを否定してしまいやすいため、しっかりと気持ちに寄り添ってから、お子さまが自尊心を保てるようにフォローします。小学生にとって大きな問題は、「運動」「勉強」「友だち」の三つです。例えば、勉強が苦手と感じていたら、運動や友だち関係から良いところを見つけて認めてあげましょう。また、勉強といってもたくさんの教科がありますし、例えば国語の中でも「小説を読むのは好きだけど、説明文が苦手」など領域は細かく分けられます。その中から好きなことや得意なことを一緒に見つけて良い面を伸ばすように促し、自信をもたせることです。自信がもてれば、弱点に向き合う気持ちも出てきます。
最もいけないのは「それ見たことか」といった態度で、お子さまの劣等感を利用して何かをさせようとすることです。普段なかなか勉強しないお子さまなら、「だから勉強しなさいって言ったでしょう」などと言いたくなる場合もあるかもしれませんが、保護者に自分の気持ちが理解されていないと感じると、お子さまはますますつらくなります。
10歳前後になると自分を客観的に見つめられるようになり、保護者が自分のことを正確にとらわれているかを見抜けるようになります。そのため、保護者が「ほめてやらせよう」といった態度を取ると、「自分のことがわかっていない」と、逆にやる気を失いかねません。親への不信感もつのるでしょう。これまで以上にお子さまの気持ちを理解するように心がけてください。お子さまはそうした保護者の姿勢を敏感に感じ取り、信頼感を強めます。
友だちとのいざこざも貴重な経験。成長のきっかけと考えよう
友だち関係のいざこざも増える時期ですが、これは人間的な成長に欠かせない体験でもあります。友だちからいやなことを言われたり、逆に自分の言葉が相手を傷つけたりすることは、大人の世界でもよくあることです。いじめなどの深刻な場合を除いて、できるだけ「自分」で解決する経験をさせましょう。例えば、いざこざの理由を聞いて「あなたが悪い。謝ったほうがいい」と一方的に言うのではなく、話し合ったり謝ったりすれば修復できることを教えます。まだ一人では解決できない場合も多いため、「お母さんだったら、こうするかもしれないな」と、具体的な方法を示してもよいでしょう。
お子さまが幼い頃は保護者が何でも教えてあげられますが、この時期以降は、大人でも一生懸命に考えなくてはならないような問題が多くなります。また、思春期に入ると、これまでのように何でもストレートに話してくれなくなり、子どもとしっかりと向き合って関係を構築する必要が生じます。それだけに難しさはありますが、見方を変えると、お子さまとより真剣に向き合えるすばらしい時期と言えるでしょう。今、お子さまが10歳とすると、成人まであと10年。その頃に1人で社会を生きていける力を育むために、お子さまとスクラムを組んで支援を続けていただきたいと思います。保護者の勝手な高い目標から叱咤(しった)激励するのではなく、目の前の子どもをよく理解して、子どもの伸びしろが増えるよう支援を心がけてください。