2014/09/17
【英語】「生徒の英語力向上」のために今、必要なものとは② ~中高生に対する聞き取り調査(2013)から考える~
グローバル教育研究室 研究員
福本 優美子
福本 優美子
前回は、中学校の英語の先生を対象に行った調査を振り返りましたが、今回は、2013年度に実施した「中高生に対する聞き取り調査」から見えてきた英語学習の実態についてご紹介します。
この「聞き取り調査」は、大規模調査では捉えきれない個々の学びを「学習者側」から詳細に把握することで、学習者や英語教育の課題を明らかにすることを目的に行いました。中学生8名、高校生8名に対して、それぞれ約30分ずつインタビューを行いました。分析は、一次分析として16人全体から分かった代表的なことをまとめ、二次分析では、Thinking at the Edge(TAE)*1という理論構築法を用いて、4人を詳細に分析しました。
一次分析で見えてきたことを一部ご紹介すると、ノートの左に教科書本文を写し、右に和訳を書くという伝統的な予習や宿題が現在でも学校外での英語学習の主流である現状や、中高生にとって「英語ができる」ということは「長文読解力が高い、文法がわかる」ということであり、「話す」「聞く」は、文法や単語の知識を十分に積み重ねてからやること、という認識が多くの生徒にあるようでした。
日々の学習は、学校の予習や復習、宿題、テスト対策がほとんどで、授業が学校外での学習を規定する割合が大きく、その内容や方法については先生の影響が大きいようです。さらに、将来、英語を使って仕事をしたい、と考えている生徒たちでも、単語練習の際に日本語訳まで書いて覚えたり、教科書本文を写すことに2時間もかけていたりなど、将来、英語を使うことと、現在の学びとの乖離が少なからず見えました。
二次分析では、一部の生徒のインタビューをTAEの14ステップを使って分析を行いました。TAEにより、生徒の英語学習の課題や意識などをより個々の学習者の文脈で捉えることができます。そこから、生徒の学習にはそれまでのさまざまな英語に関する経験、たとえば、ABCの歌を楽しく歌った幼少期の思い出、小学校英語、英語の先生との出会い、ホームステイなどが影響していること、その経験と現在の英語学習が統合されている学習者と分離している学習者がいること、中学校と高校との英語学習の仕方のギャップに苦しんでいる様子など、一人一人の英語学習が見えてきました。
英語教育改革の検討が進められている中、子どもたちの現在の英語学習を本当の意味で捉えることが、英語教育をよりよくしていくためにも、望ましい英語教育を考える上でも必要なことだと考えます。今回実施した聞き取り調査では個々の学習者に向き合い、さらにその本質により近づくための分析を行うことで、子どもたちが悩んでいる面や苦しんでいる面も浮き彫りになりました。ぜひ、分析の詳細*2もご覧いただければと思います。
さらに次回は、これまでの2008年度の大規模調査や今回ご紹介したインタビュー(聞き取り調査)を踏まえ2014年3月に行った大規模調査についてご紹介します。
*1 アメリカの哲学者・臨床心理学者であるGendlinらが開発した理論構築法。得丸(2010)が質的研究に応用。参考文献:得丸さと子.(2010).『ステップ式質的研究法—TAEの理論と応用』 海鳴社.
*2 「中高生に対する聞き取り調査」の分析の詳細は「上智大学・ベネッセ英語教育シンポジウム2013」で報告し、ARCLEサイトに掲載されています。
*2 「中高生に対する聞き取り調査」の分析の詳細は「上智大学・ベネッセ英語教育シンポジウム2013」で報告し、ARCLEサイトに掲載されています。