速報! 2016年度 首都圏中学入試の傾向と分析【第4回】理科
2016(平成28)年度の首都圏中学入試にはどんな傾向が見られ、どんな力が問われたのでしょうか。
森上教育研究所主催のセミナー「平成28年度首都圏中学入試の結果と分析」での、小川理科研究所の小川眞士先生による「理科」の分析をお届けします。
- ※以下は同セミナーでの小川眞士先生による分析を抄録したものです。
■全体的な傾向 大学入試の新テストに向けての変化が見られる年に
理科では全体的に問題の雰囲気が変わってきており、大学入試の新テストを意識したターニングポイントといえる年だったかもしれません。
分野別には4分野からまんべんなく出題されました。問題の出発点としては(1)教科書を意識する(2)身近なものへの意識(3)時事問題……の3つが出発点になっているようです。そのうえでデータを読み取らせて、計算させ、最後にまとめさせることで、理科的な力を見ようとしています。これはかなり大学入試の新テストを意識しているといえます。
■基本的な事項を確認する問題がカギに
武蔵中では星座早見盤が配られ、観察結果を書かせる問題が出ました(※早見盤は机上に置いて使用するよう指示されています)。星座早見盤に関する問題は、そのほかにも頌栄女子学院中や開成中、筑波大学附属駒場中等多くの学校で扱われました。地平盤の方位はもちろんですが、緯度による地平線の移動や、使い方の問題などが出題されています。このうち「夏(又は冬)の大三角を示しなさい」といったようなことは、教科書にも出ている基本的な事項です。
また、駒場東邦中・桜蔭中では、どの理科教科書にも出ている「巻雲」「積乱雲」などの雲の名前を問う問題が出ました。気象の問題では、「前線の断面図」「前線に伴う雲」「フェーン現象の計算」など発展問題も出題されました。
また、横浜雙葉中ではヘチマの育ち方について出題されましたが、これも、教科書に載っている実験の内容をもとに問題を展開していくものです。
■身の回りの物を題材に掘り下げる問題が目立つ
普連土学園中ではモヤシを導入に使い、発芽の条件に関しての確認、実験と考察が出題されました。また、今年度は、ほかにもトマト、ジャガイモ(攻玉社中)、ヘチマなど、身近なところでよく栽培されている食べられる植物を使った問題が多く出題されました。またその野菜は「植物のどの部分を食べるのか」ということは、例年どこかしらの学校で出題されています。
プラスチック等に関しては、渋谷教育学園幕張中では、プラスチック製品のリサイクルについて出題され、光塩女子学院中では、問題の前半でレンズの像を作る実験を行い、その時使用した像を映すプラスチック板についての問題が出されました。中央大学附属中の問題文は、とても長いものですが、内容はとても身近なノック式ボールペンの仕組みに関してでした。問題前半はノコギリ状の歯の上のボールの動きを考えさせ、後半でノックすると出る仕組みに関して考えさせるものでした。このような問題は、データを与え、それをどう活用するかという力が試されています。そのほか、成蹊中では、いしいひさいちさんのマンガを題材に地震について考えさせました。
■各分野での特徴的な問題
次に、各分野で目を引いた問題を具体的に見ていきましょう。
●植物
基本的な知識の確認と、データの読み取りが中心でした。基本的な知識はほとんど教科書にある事項です。光合成のグラフに関する問題は吉祥女子中や城北埼玉中等で出題されています。発芽や光合成などに関するグラフ問題は増加傾向にあります。
●動物
昆虫・メダカ・人体を中心に、データの読み取り問題が増加しています。
光塩女子学院中では、メダカに関して基本的な問題が出され、武蔵中はクモの巣作りをテーマにした問題の導入部で基本事項の確認について問われました。また、学習院中では、いろいろな動物の脚の骨のつくりから足跡に関して、文章を精読し思考する出題がありました。また、人体では、芝中で視神経について、成蹊中で人間の歯について問われました。目や歯について問われる場合には、自分のこれまでの経験も役に立ちます。
これらを通じていえることは、これまで出題頻度が高かった知識を問う問題ではなく、資料を読み取って判断する力や、新しいものをデータとしてフォローできる力があるかを見られるように変わってきているということです。
●天体
太陽・地球・月・星の動きの総合的かつ統一的な把握が求められています。また、前述したように、星座早見盤に関する問題が目立った年でした。早見盤を使って、方位や日付、星座を導けるか、また、早見盤の仕組みをしっかり理解しているかが問われています。
浦和明の星女子中では、「地球の公転、月の満ち欠けの基本を確認して、月の見かけ上の動きを考えさせる」という典型的な問題が出ました。
●気象
増加傾向にある分野です。天気図・湿度・前線等の問題が増えています。前述したように、露点を含めた雲のでき方や、フェーン現象の計算問題も多くなってきています。
城北埼玉中では、温暖前線や寒冷前線の記号記入も含めた雲のでき方や、雨の降り方、風向などについて、巣鴨中では気象用語の確認を導入に飽和水蒸気量のグラフについて出題されました。「温暖前線」「寒冷前線」等の用語は、近年テレビでの天気予報の解説が詳しくなっていることから、いかに普段アンテナを高く張って生活しているかが重要になってくるともいえます。
気象分野ではほかにも、サレジオ学院中や専修大学松戸中等で「露点」について、出題されました。
●地学
地層の読み取りに関する問題は、確実に毎年出題されます。流水の働きのグラフに関する読み取りも出題されています。早稲田中と吉祥女子中では流水の働きについて問われました。プレートや火山に関する問題は、時事問題との関係で増えており、慶応義塾湘南藤沢中、西武学園文理中等で出題されました。
●力学
単純な計算ではなくデータに基づく計算が出題されました。特に目立ったのは、浮力に関する問題の増加です。開智中、鴎友学園女子中等で見られました。ふりこや斜面を使った「物の運動」の問題も渋谷教育学園幕張中や、早稲田中等で出題されましたが、今後も増える傾向がうかがえます。
●電気
LED・コンデンサー・光電池・手回し発電に関する問題が増加しており、開成中では光電池のつなぎ方に関しての問題が出題されました。
●光・熱・音
光に関する問題が目立ちました。熱に関しては状態変化をからめた問題が目立ち、状態変化を分子運動として考え、熱量の単位をジュールで計算する出題も見られました(白百合学園中・海城中・聖光学院中等)。
●水溶液
水溶液・物質・気体などの性質の基本事項は、毎年必ず出題されており、今年度は早稲田中・学習院中・桐朋中等で見られました。気体の発生や中和に関してはグラフや表の解釈が中心です。
●実験器具の使い方
ろ過装置の組み立て・メスシリンダーの読み取り・顕微鏡の使い方・上皿てんびんの使い方等、例年取り上げられているテーマに関しては、横浜共立学園中・白百合学園中・桜蔭中・豊島岡女子学園中等で出題されました。早稲田大学高等学院中では「豆電球」、鴎友学園女子中では「接眼ミクロメータ-」、芝中は「ビュレット・キップの装置」が取り上げられています。
■時事問題の増加
全体の問題に対する、時事問題の比率は増加しています。特に、時事問題を切り口にしたり、時事問題を意識して展開したりする問題が増えています。その中でも、今年度は、地震・火山・プレート(豊島岡女子学園中・女子学院中等)、台風・豪雨(海城中・桜蔭中等)、惑星(聖光学院中・桐朋中等)に関する問題が目立ちました。また、理科という教科の枠にとどまらず、社会・理科等、他教科との横断型の問題が増加傾向にあります。
時事問題についての一行問題は、東邦大学付属東邦中・立教女学院中・学習院中・専修大学松戸中等で出題されました。
■今年度、特徴的だったテーマ
最後に、今年目についたテーマについてお話しします。
●水の惑星地球
早稲田実業学校中・横浜共立学園中等で出題されました。早稲田実業学校中の問題では、地球温暖化を軸に、海水から真水を作る方法や、燃料電池にも触れています。横浜共立学園中では、水から雪・雨・虹のことについて問われました。これらは、身近な物を理科的に見る観点が問われる出題だといえます。
●食物連鎖
雙葉中、国学院大学久我山中等で出題されました。雙葉中は、オオカミの絶滅から、生物濃縮の計算をする問題でした。食物連鎖関係の問題は、ここ数年増加傾向にあるようです。
●大陸移動説
大陸移動説発表から2015(平成27)年で100周年だったため、取り上げられた可能性もあります。学習院中は、ウェゲナーの大陸移動説の文章説明をもとにし、記述式の解答もある問題でした。麻布中は、大陸移動説に関してのデータの読み取りと、計算が求められました。
なお、2016年から100年前の1916(大正5)年は、一般相対性理論が完成した年です。このことは、周年問題として、意識しておいたほうがよいかもしれません。
●大量の実験結果をパソコンで処理し考える問題
駒場東邦中では、約1,800字もある問題文が出されました。これは、凸レンズを使って像を作る実験を行い、データから最終的にレンズの式を考えさせる問題です。大量のデータをパソコンで処理し、グラフにするプロセスでの思考を問うものです。問題文とそれぞれのグラフを対応させ思考することを通じて、最終的には、度数分布表のグラフから誤差について考えさせます。このような、データを分析し、考える力を問う問題は、今後増加すると思われます。
■これからの学習法は
今後、理科の学習の方法は従来とは変わってくるでしょう。教科書で学習したことや、身近なものをしっかりと見つめ、実験や観察から得られたデータを読み取り理科的に思考する力が、今以上に必要となります。
ただ知識として記憶するだけではなく、いかに理科的に考えられるか。そうした力が求められるようになるのではないでしょうか。
(筆者:小川眞士)