速報! 2016年度 首都圏中学入試の傾向と分析【第2回】国語

2016(平成28)年度の首都圏中学入試にはどんな傾向が見られ、どんな力が問われたのでしょうか。
森上教育研究所主催のセミナー「平成28年度首都圏中学入試の結果と分析」での、平山入試研究所の小泉浩明さんによる「国語」の分析をお届けします。

  • ※以下は同セミナーでの小泉浩明先生による分析を抄録したものです。

■「新テスト」の影響はあったか

問題の分析にあたっては、大学入試の新テストの影響があるかということでと、「論理的思考力」「総合型の問題」「主体性」「知識量と活用力」「意欲や物事を成し遂げる力」を意識した問題を各校が出題しているかどうかを視点に置きました。

■「自我・自己」を見つめる文章が増加

出題された文章の種類で見ると、物語文(45.7%)、説明的文章(44.4%)、韻文(韻文+解説含む、4.6%)、随筆(5.3%)と、ほとんど昨年と変わりはありません。

テーマは、説明文では従来の自然関係や動植物に加えて、言語コミュニケーションや文芸論などが最近は増えています。物語文では、祖父母との関係が増えているのが特色です。また、論説文にしても、物語文にしても、論理的・哲学的に突き詰めていくと、最終的に突き当たるものである「自我」や「自己」に関する話が、かなりの割合で出ています。これは、本郷中や、横浜共立学園中などの学校で出題されており、特に横浜共立では2題出題されています。しかし、「自我・自己」は、中学入試を受験する小学生には、かなり難しいテーマだといえます。

問題文は、特に物語文において、年々長くなってきています。長くする意図の裏には、新テストへの意識があり、受験生の意欲や、物事を成し遂げる力が見られているのではないでしょうか。今年度、特に長かった学校としては、普連土学園中(10Pの物語文)、中央大学附属中(14Pの物語文、5Pの説明文)、明治大学附属中野中(8Pの説明文)が挙げられます。
これに対して、昨年度10P強の説明文を出題した明治大学附属明治中では、今年は7Pと短くなりました。

頻出作家は毎年減っています。今年は最頻出作家は、「14歳の水平線」(浅野中、筑波大附属中)、「十二歳」(開智中)の椰月美智子氏と、「〈自分らしさ〉って何だろう?」(横浜共立学園中・品川女子学院中・立教新座中)の榎本博明氏の2名しかいませんでした。そのほか、頻出作家は10名いました。なお、昨年度は最頻出作家が森絵都氏ら3名、頻出作家が11名でした。実に多様化が進んでいるといえるでしょう。

今年、印象的だったのは、夏目漱石「こころ」(渋谷教育学園幕張中)、O・ヘンリー「自動車を待つ間」(青山学院中)、山本有三「路傍の石」(吉祥女子中)など、古い作品が多かったことです。また、鴎友学園女子中では、茂木ちあき「清政 絵師になりたかった少年」という時代物が出題されました。これら昔の作品や時代物は、子どもには多少読みにくい文章だといえます。しかし、今後も出題される可能性がありますので、普段から読ませる練習をしておいたほうがよいといえます。

■設問は記述がますます増加傾向に

●記述式が増える

今年は、知識問題がさらに減り、知識偏重をただす傾向が顕著になりました。また、超上位・中堅校においては選択肢問題が急増し、中堅校~上位校においては、記述問題が増加しました。記述問題の増加には、新テストに向けて、主体性を重んじるという背景が見られます。
特に記述問題を増やしたのは東京女学館中で、2問→11問に増加(選択肢は8問→4問に減少)、城北埼玉中で 記述0問→1問(30字の記述)などです。なお、昨年より読解問題の設問をすべて記述式とした芝中では、今年も変わらず、記述問題8問が出題されました。

●制限字数も増加

昨年取り上げた記述の最大制限字数80字以上の学校14校中、字数が昨年より増加した学校は、慶応義塾湘南藤沢中(小論文)150字→180字、吉祥女子中80字→90字、白百合学園中80字→100字、雙葉中45字→60字の4校でした。増減なしは駒場東邦中・成蹊中・桜蔭中・フェリス女学院中(小論文)・品川女子学院中・湘南白百合学園中の6校です。一方、字数が減少した学校も、聖光学院中120字→60字、市川中80字→40字、豊島岡女子学園中90字→70字、鴎友学園女子中120字→100字の4校ありました。
なお、最大字数制限の増加が60字→120字だった海城中の問いは「一文で説明しなさい」というものでした。一文で書くとなると、「てにをは」などの処理が大変です。こうした場合には、きめ細かく文章を書いていかねばなりません。

●小論文は「考えさせる」傾向が顕著に

学習院中の設問は、オーソドックスなものですが、考えて物語の内容を一文でまとめさせるようになっています。
小論文などを書かせる場合には、「どう思いますか」「どう考えますか」と問うことが顕著になってきました。「新テスト風」に問題が明確に現れてきたといえるでしょう。芝浦工業大学柏中では「価値」について取り上げられ、「日本とアメリカでのウニの価値の違い」について考えて書かせる問題が出ました。フェリス女学院中では、エビについて書かれた問題文を読ませたあと、ウナギについて書かせる出題が見られました。慶応湘南藤沢中では、自分の住んでいる地域について書かせる問題が出ました。こうした問題には、知識とともにそれを活用する力を持っていなければ対応できません。

一昨年の早稲田実業学校中の問題では、「自己依存枠」と「参照点固有枠」の問題……すなわち見方がふたつあることを図示し、考えて書かせる問題がありました。このように、知識を与えて発展させたり、まったく新しい知識から考え方を問うたりする問題は、今後増えていくと思われます。

聖光学院中では俳句を選んで「その俳句から読み取れる『こと』」を説明させる問題が出されました。たとえば、「もの」をレモンだとすれば、「こと」とは「(レモンは)すっぱい」という事象を表します。しかし、俳句で「こと」を説明するのはなかなか難しいことで、ある程度の知識が必要だといえるでしょう。
渋谷教育学園渋谷中では、「他責的な人」についての具体例を問題文で与えて、「他責的とは何か」を考えさせました。

こうした考えさせる問題は、今後も増えてくると思われます。

■教科横断的な問題が目立ってきた

国語にとどまらず、他の教科の知識も必要とする問題も、散見されました。
たとえば、富士見中では、宮沢賢治の出身地(岩手県)が問われました。鎌倉女学院中では、「一年中あおあおとしている木」(常緑樹)を答えさせる出題がありました。
これに類するものとして、光塩女子学院中では、「総合問題」が導入されています。「総合問題」は公立中高一貫の適性検査の問題に似ているといえます。

その他の傾向としては、今年を含めてここ数年の長文選択肢の増加が挙げられます。これは、意欲・気力など、成し遂げる力を見ているものと思われます。しかし、あまりにも長すぎる選択肢は、子どもには厳しいため、昨年120字ほどの選択肢を出した学校では、文字数に変化はなかったか、あるいは減少しています。今後は80字か100字で落ち着くのではないでしょうか。

また、物語を論理的に評価するような出題も聖光学院中などで見られました。

■今後の展望

今後の中学入試の国語の問題では、やはり大学の新テストを意識したものがさらに増加すると考えられます。この傾向は、特に中堅~上位校で顕著ですが、さらに広がっていくと考えられます。考える力、書く力を身に付け、教科横断的な学習をすることが望まれます。

(筆者:小泉浩明)

プロフィール


小泉浩明

桐朋中学・高校、慶応大学卒。米国にてMBA取得後、予備校や塾を開校。現在は平山入試研究所を設立、教材開発など教務研究に専念。著作に「まとめ これだけ!国語(森上教育研究所スキル研究会)」などがある。

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