黒板ジャック! 今注目の美大生の活動を大学教授が解説
「旅するムサビ」として全国の小学校などへ行き、黒板に絵を描く学生たちを指導している、武蔵野美術大学教授の三澤一実氏。その絵を見た小学生は何を感じ、また活動を通じて学生たちはどのように成長しているのだろうか。ベネッセ教育情報サイトでは、三澤氏にプロジェクトについて伺った。
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「旅するムサビ」のプロジェクトでは、子どもたちが下校した放課後、学生たちが一心不乱に黒板に絵を描き始めます。翌朝、子どもたちは何も知らずにいつもどおり学校に来ます。パラパラと登校した子どもたちが目にするのは黒板に描かれた圧倒されるような絵。「わあ!」と感激の声を上げて、黒板の前に子どもたちの輪ができあがります。「黒板ジャック」は朝の時間だけ見ることができる時間限定の芸術。授業が始まる前には、子どもたちみんなで絵を消すのです。「もったいない」という声ももちろん聞かれますが、消えるからこそ強く心に残ると思っています。また、朝ぼんやりしていた頭がすっかり目覚め、学びのスイッチが入っている状態で授業を迎えられるのです。
「旅するムサビ」では、学生が主体で動きます。その中で学生たちは、「企画力と実行力」「協調性やコミュニケーション能力」「自分の作品を磨き高める力」という、3つの能力を培っていきます。絵画にしろ、彫刻にしろ、表現には自分が学んできたことや体験が投影されます。多様な経験がなければ、人を魅了するような芸術は生み出せませんし、作品の深みも増しません。また、現代的な価値観や時代背景もおさえていないと、社会に求められている芸術とは何かをつかむこともできません。自分の価値観の幅を広げ、作品に投影できるようにするためには、専門的な学びとともに、幅広い知識や、人と触れ合う経験も重要なのです。
学生たちは大学で美術を通して多くの人たちと関わり、社会に通用する力を身に付けています。実際に企業側からのラブコールも多い状況です。しかし、残念ながら、こうした美術教育の力は、まだ世の中にはあまり知られていないのが現状です。
出典:武蔵野美術大学 造形学部 教職課程研究室「黒板ジャック」で子どもの感動を生み、将来の夢を実現していく学生たち[大学研究室訪問 学びの先にあるもの]