東京大学 工学部 建築学科(1) 日本の伝統的木造建築に潜む知恵を探る[大学研究室訪問]
日本が転換期を迎えた今、大学もまた大きく変わりつつあります。そんな時代に、大学や学部をどう選び、そこで何を学べば、お子さまの将来が明るく照らされるのでしょうか。答えを求めて、さまざまな大学の研究室を訪問します。今回は、日本の伝統的木造建築の耐震性などを研究する東京大学の藤田香織准教授の研究室です。東日本大震災を機に地震対策が注目されている中、幾多の自然災害に耐えてきた寺社などの建物に潜んだ知恵を探るため、どんな学びが行われているのでしょうか。
■五重塔が1000年以上地震に耐えてきた理由は?
研究室のある建物の地下には、木材の強さを測る装置などが並ぶ
日本の代表的な木造建築のひとつ「五重塔」。そこには、美しさだけでなく強さも秘められていることをご存じでしょうか。五重塔は日本全国に20以上ありますが、1000年以上前に建てられた法隆寺五重塔を含め、地震で倒れたものが1つもありません。調べると、中心の太い柱は私一人が押しただけで動くのに、周りの壁は動かない。太くて短い柱が各層で積み重なった特殊な構造をしており、それが地震に強い要因のひとつと考えられます。
私たちの研究テーマは、そんな日本の伝統的木造建築の構造の特性を解明することです。何百年も前に建てられたものですから、図面が残っておらず、構造も建築方法も不明なものが少なくありません。しかし、修理の記録を丹念に読むなどしてその謎に迫り、実際に建物に計器を設置して地震の際の影響を調べ、同じような建物の模型を作って振動実験を行うなどして、研究を進めています。
■「推測どおり」と「想定外」 それぞれに研究の醍醐(だいご)味が
鎌倉・建長寺での調査の様子
鎌倉の建長寺にはお堂が2棟あり、1923年の関東大震災の際、そのうち1棟は倒壊しましたが、もう1棟はほとんど被害がありませんでした。理由を調べるためにお堂の構造を調べましたが、資料が少なく、長年の間、木と木の接合部などの見えない部分は推測するしかありませんでした。しかし、先日、エックス線を使って初めて確認したところ、接合のしかたが、1棟のお堂は推測どおりでしたが、1棟はまったく違っていると判明したのです。
2つの結果は正反対ですが、どちらからも研究の醍醐味を感じました。推測どおりだった結果から感じたのは、推測の正しさが証明されたという喜び、推測とはまったく違った結果が得られたことについては、新たな発見ができたことの喜びです。これは、歴史的な建造物の価値を守りながら構造を明らかにし、耐震性などを研究する、私たちの研究ならではの醍醐味だと思います。
■「知りたい!」「おもしろい!」を大切に
私は高校時代から、建築に興味はありましたが、特にお寺が好きだったわけではなく、歴史の勉強は暗記というイメージが強くて苦手でした。転機となったのは、大学生のころにヨーロッパに旅行したことです。教会等の歴史的建築物に圧倒され、とても感銘を受けました。そして、帰国後に日本の寺院などの建築物を改めて見つめ直した時、ヨーロッパとはまた違った魅力に気付き、そこから今の研究テーマに進んだのです。
学生を指導する際には、学生自身の興味を大切にしています。興味の方向が私と違っても、修正はしません。研究室ですでに取り組んでいるテーマを選んだほうが確実に成果は出るでしょうが、リスクはあっても、自分が「知りたい」「おもしろい」と思うことを研究してほしいのです。実際に、そんな選択をして、私にはかなわないと感じるほどバイタリティーあふれる研究をする学生もいます。それは、私にとって刺激になり、喜びでもあります。
卒業生に聞きました! |
浦西 幸子さん(2013年大学院修了、住友林業株式会社勤務) |