友人との良い意味での競争はやる気につながる[中学受験]

マネージメントでは、山本五十六の名言にもあるように「やって見せ」「やらせてみて」「ほめてやる」というのが基本的な業務の指導法だ。まず基礎知識を教え、「やって見せ」でやり方を教え、「やらせてみて」で経験させる。自信とやる気を持たせるためには「ほめてやる」が有効な手段となる。上達するまで繰り返し業務をこなすことが続くが、自信とやる気を継続させるためには「ほめてやる」が必要となる、というのが一般的な社員教育の流れと方法だ。

しかし、現実にはこの通りに社員教育は行えない。指導する側と指導を受ける側がお互いに理解できなければ、目的とする業務の上達はかなわない。指導する側が本気で業務を指導しようと思っているか、ということも重要だが、まずは、指導を受ける側の心理を重視すべきである。「やって見せ」のスタート時点では、やる気は起きていないという場合が多いと思うが、指導を受ける側に意欲がなければ何事も始まらない。特に「ゆとり教育」世代の子どもが、大学を卒業して社会人として社会に出始めたのが一昨年からだが、「素直なのだが、言わなければ動かない」「満たされているせいか、貪欲なところがない」など能力はあるが意欲に欠けるということで、多くの企業では再教育の必要があると考えているようだ。

意欲に欠けるということは、物事を達成することに意義を見出さないからであろう。競争の結果得られる評価により栄誉や報酬が与えられなければ、意欲も沸かない。ゆとり教育の弊害は、目標を達成したことで評価されることがなかったことだ。目標を達成する意義を理解し納得する必要があるが、ゆとり教育では学習の量と質が少なくなっただけでなく、競争や競争の結果の評価をしないことで、子どもたちのやる気をそいでしまったのだ。その子どもたちが社会人として業務を行うことになり、言われなければ業務に取り組まないことに上司は驚いているが、考えてみれば当たり前の結果となった。私立中高一貫校の入学ブームは「ゆとり教育」が開始されて、保護者が「ゆとり教育」に危機感を持ったからである。結果として、小学生の時代を「ゆとり教育」で過ごした生徒の中でも、中学受験を経験し、「ゆとり教育」の影響が少ない私立中高一貫校に進学し、厳しい大学受験を経験した生徒は、「ゆとり教育」の弊害を最小限にできたことになったであろう。

競争が悪とされた時代もあったが、今は、「ゆとり教育」から元の教育に戻ったことで、競争が肯定され始めた。企業でもコミュニケーション力や協調性などの能力を持っただけでなく、競争の意識の根源となる「意欲」や「情熱」が採用の条件となってきたようだ。中学受験で「意欲」や「情熱」を体験できれば、人生の大きな財産になる。また、第1志望に合格するという自分との戦いが続いて疲れてしまいがちになるが、友人との良い意味での競争はやる気につながるのではないか。


プロフィール


森上展安

森上教育研究所(昭和63年(1988年)に設立した民間の教育研究所)代表。中学受験の保護者向けに著名講師による講演会「わが子が伸びる親の『技』研究会」をほぼ毎週主催。

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