2010年度入試で何が問われたか<社会>

■出題内容

(1)時事問題の出題が増加

全般的な出題傾向としては、「時事問題が如実に反映された入試問題」だったといえると思います。120校中99校、すなわち約83%の学校が時事問題を出題しています。時事問題ではなくても、時事問題を念頭においた出題が多く見られました。時事問題は女子校に多く、90%の学校が出題しています。学校側の出題の意図は明確です。国内外の出来事(時事問題)に興味・関心を持っている子を望んでいるわけです。時事問題を単なる知識を問う問題として出題するだけでなく、これまで学んできたこととリンクさせて、現代社会の抱えている問題について考えたり、理解を深めたりすることができる受験生を受け入れたいのです。

分析校120校で、2010年度の時事問題に取り上げられたテーマのトップ10は以下の通りです。

1位衆議院解散・総選挙・政権交代35校
※マニフェスト:7校/期日前投票:5校/国民審査:3校
2位裁判員制度19校
3位オバマ大統領演説・ノーベル平和賞その他16校
4位温室効果ガス8校
5位消費者庁の設置7校
5位岡山市・政令指定都市7校
7位足利事件6校
7位IAEA・天野之弥6校
7位定額給付金6校
10位八ツ場ダム/平成の大合併/ウイグル暴動/新型インフルエンザ/2016年のオリンピックの開催地/平城遷都1300年各5校


選挙の出題が非常に多かったですが、国政選挙がある年はよく出題されます。今年も参議院選挙がありますので要注意です。

<選挙に関する問題の例> 早稲田実業学校中等部 大問1 問1~4

2009年の衆議院議員総選挙に関する文章をもとに、首相名などの穴うめ問題、衆議院の任期から考える問題、「総選挙」と呼ばれる理由を説明する問題。

(2)身近な生活に関するテーマが多い

理科でも見られる傾向なのですが、普段の生活に密着した身近なテーマが、多くの学校で出題されています。

<身近なテーマの出題例1> 光塩女子学院 問16・問18

物々交換の時代からの「お金」の歴史の文章をもとに、古代ローマで兵士への給料として使われていた「塩」の価値を問う問題、現在の日本の紙幣にほどこされている「にせ札」を防ぐ工夫を答える問題。

<身近なテーマの出題例2> 桜蔭 大問1 問2~5

おせち料理と食料の自給・輸入に関する文章をもとに、おせち料理に砂糖がよく使われる目的を答える問題、砂糖の輸入先を統計資料から選ぶ問題、砂糖の国際価格上昇の危惧(きぐ)を環境問題から説明する問題、おせち料理の「田作り」の名前の理由を答える問題。

光塩女子学院では塩について、桜蔭では砂糖やおせち料理などについて出題されています。その他の学校では、水、茶、祝日、暦、服装などについても出題されました。

(3)資料の読み取り問題が多い

表、グラフ、史料、絵画資料、写真、地形図など、資料を読み取って考える問題もたくさん出題されています。これも理科と同様の傾向です。

<資料を読み取って考える問題の例> 鴎友学園女子2次 大問3 問7・問8

国際社会・経済・個人や国家間の争いを例に、戦争・貿易・裁判を説明した文章からの出題。問7は、鳩山内閣の閣僚と出身政党の資料をもとに「連立内閣」を説明させる問題。問8は、憲法第99条の条文と、「公権力」と書かれた大きなライオンが国民を脅かしているイラストを見ながら、憲法の担う役割を説明する問題。

ここで注意したいのは、出題者は資料の分析力と併せて文章の表現力も求めているということです。自分の言葉で、言いたいことをまとめる練習をしておきましょう。

■分野別の頻出内容

次に分野別の内容分析をします。

(1)地理

  • 農林水産業
    農産物の生産量の都道府県別順位や、食料自給率に関する出題が目立ちました。自給率低下の原因を問う問題や、仮想水(バーチャルウォーター)、フードマイレージなど環境問題に関係する出題も見られました。
  • 都道府県
    都道府県に関する文章、さまざまなデータ(面積、人口、人口密度、農業や工業の生産額・生産量など)を記載した表などから都道府県を判別する問題が多く見られました。
  • 政令指定都市
    2009年に政令指定都市となった岡山県岡山市をはじめ、2010年4月から政令指定都市となった神奈川県相模原市を問う問題、政令指定都市となった場合のメリットを問う問題など、政令指定都市に関する問題が多かったです。
  • 資源、エネルギー
    各国の一次エネルギー供給割合や発電量の割合、エネルギー資源の輸入先、バイオエタノールなどの環境に関連したエネルギーの問題が多く見られました。原子力発電などのニュースに関心を持つようにしておくとよいでしょう。
  • 地形図
    分析校120校のうち32校で地形図や地図の見方が出題されました。特に女子校の出題割合が40%と高いです。埼玉県の学校での出題が多く見られました。

(2)歴史

  • 周年問題
    2009年は横浜開港150年、2010年は韓国併合から100年、平城遷都1300年ということで、周年を意識した問題が例年になく多かったです。来年度の入試でも狙われるでしょう。
  • テーマ史
    「茶」「お金(貨幣)」「鉄・金属」「服装」「教育」「道」など身近なものに関するテーマ史の出題が、昨年度同様多く見られました。
  • 戦後史
    政権交代が実現して、55年体制に終止符が打たれたこともあってか、戦後史の問題が高度経済成長とあわせて多く出題されました。特に歴代の主な総理大臣に関する出題が例年より目立ちました。池田勇人首相が数校で出題されていました。
  • 並べ替えの問題
    同時代の出来事を古い順に並び替える問題が多く見られました。歴史の流れを因果関係を中心にしておさえておく必要があります。この出題形式を苦手とする受験生は多いです。

(3)公民

  • 総選挙・国会・内閣
    衆議院と参議院の相違、選挙方法とその問題点など選挙関連の問題が多く見られました。鳩山由紀夫首相に関する問題や、民主党が過半数を占めたのに連立を組んだ理由、国連総会での鳩山首相の演説、八ツ場ダムなど公共事業の見直しや事業仕分けなども問われました。2010年は通常選挙(参議院議員選挙)がありますので、政治の動向を見守る必要があります。総選挙を切り口にして国会と内閣の関係を問う出題も多くありました。
  • 司法
    2009年にスタートした裁判員制度や、足利事件を切り口にして、司法に関する出題も多く見られました。「冤罪(えんざい)」や「再審」といった用語も問われました。
  • 日本国憲法
    日本国憲法の三大原則、とりわけ基本的人権の尊重と平和主義についての出題が多く見られました。前文や9条、25条などの重要な条文についてはしっかり学習しておく必要があります。
  • 核兵器
    アメリカのオバマ大統領のプラハでの「核なき世界」を目指す演説や、IAEA(国際原子力機関)の事務局長に日本人が選出されたこと、佐藤栄作首相の沖縄返還に関する密約などに関係してか、核兵器に関する出題が極めて多く見られました。なかでも非核三原則を取り上げた学校は9校もありました。
  • 欧文略語
    NGO(非政府組織)、WHO(世界保健機関)、IAEA(国際原子力機関)、CTBT(包括的核実験禁止条約)など、新聞紙上をにぎわす略語もよく出題されていました。用語の意味をしっかり理解しておきましょう。

プロフィール


早川明夫

社会科入試問題研究の第一人者。大学付属中高の教頭を経て、文教大学で社会科の教員養成にあたった。現在、文教大学地域連携センター講師。主な著書に『応用自在』『考える社会科地図』『総合資料日本史』『地図っておもしろい!』(監修・執筆)ほか多数。『ジュニアエラ』の総監修者。

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