小学校英語の最前線 第2回【前編】ストーリーをとおして、英語力を育む授業(東京都品川区立小山台小学校)

東京都品川区は2003(平成15)年に小中一貫教育で国の構造改革特区の認定を受け、小学校での英語を「教科」とし開始学年を早めています。中でも小山台小学校は、青山学院大学教授のアレン玉井光江先生の指導による独自のカリキュラムを導入。子どもたちがよく知っている昔話などを用いて、文脈があるお話をとおし、英語の力を育てる(ともに、発音や文字などの学習にも注力した)英語学習に取り組んでいます。6年生の授業を見学させていただきました。



ストーリーをとおして言葉の土台をつくる

この日の題材は『ももたろう』。子どもたちは英語版の物語に動きをつけ、まるで歌うように語っていきます。
この手法は、「Joint Storytelling(ジョイント・ストーリーテリング)」と呼ばれる指導法です。教師が読む英語のストーリーを聴き、子どもたちは動作をつけながら物語を語っていきます。自分で声に出させることで、フレーズが体に染み込み、英語を聴く力、話す力が蓄えられるといいます。場面ごとのイラストの描かれた物語のプリントが手渡されますが、教師がその意味を日本語で説明することはありません。
ストーリーの中には、6年生で身に付けさせたいフレーズがちりばめられていて、意味ある文脈の中で子どもたちは英語を習得していくのです。


ストーリーに関連する動作をつけながら物語を声に出す


たとえば、『ももたろう』で、おばあさんが大きな桃を見つけるシーン。


Grandma: Grandpa, grandpa, where are you?
Grandpa: I’m here, grandma. What’s the matter?
Grandma: Come here quickly and look at this peach.
Grandpa: Oh, my! Oh, my! What a big peach!


ここで使うフレーズは、1年生の時に学んだ『おおきなかぶ』でおじいさんがかぶを見つけて、おばあさんを呼ぶシーンでも使われていたものです。アレン先生が『おおきなかぶ』の絵本を見せて、子どもたちにそのことを英語で問いかけると、主人公をおじいさんからおばあさん、かぶを桃にするなど単語を入れ替えて、文脈にあった会話を成り立たせていました。


『ももたろう』で習ったフレーズを『大きなかぶ』で応用させる


小山台小学校が、「ジョイント・ストーリーテリング」とともに時間をかけているもう一つのことが、英語のリタラシー※(読み書き)の能力を育てることです。小山台小では1年生からアルファベットを習い始めます。そして、英語の音が「音素」という小さい単位でできていることを理解し、それぞれの言葉がどのような音で作られているのか知る力(音素認識能力)を身に付けます。この力を育むことで、音声をより正確に聞き分けたり、文字の組み合わせを正しく発音したりすることにつながるそうです。6年生の授業では、聞き分けるのが難しい2字子音(ch、sh、thなど)の学習やフォニックス(英語の文字と音の関係を学習すること)も行っていました。
このように小学校のうちに英語をたくさん聴いてつけた「英語の力」を、中学校以降にもつなげるという意味があるのです。


担任教員も発音を確認


※一般的に「リテラシー」と言われる場合が多いが、英語の音に近い「リタラシー」という表記を使っているアレン玉井光江先生にならい、「リタラシー」という表現を使っています。


校長の齋藤早苗先生に聞きました!

小山台小学校 齋藤早苗校長

1年生から英語学習を行う品川区にあって、楽しいだけの授業では意味がないと思い、2009(平成21)年から全学年で年間35時間の英語学習に取り組んでいます。当初から目標に掲げているのが、学級担任が主体となった英語の授業です。各地の研究会に足を運んで実践例を見学するなどして、小山台小の英語授業はどうあるべきか模索してきました。ターニングポイントになったのは、アレン玉井光江先生に出会ったことです。「意味ある文脈のなかでことばを育てる」という先生の指導法に共感し、2010(平成22)年4月から担任とともに5年生の指導に1年間入ってもらいました。
夏過ぎまでは、子どもたちは、大量のストーリーを英語で与えられ、憂うつそうで、うんざりした表情も見られました。それが、秋から子どもたちの表情が一変し、授業に意欲的に取り組んでいたのです。子どもたちに「英語がわかった!」という自信が生まれていたのです。2011(平成23)年から全校でアレン教授のメソッドを取り入れた授業をスタートさせました。


保護者や地域のかたに支えられて

アレン先生はもちろん、授業を進める教員たちも大変だったと思います。ただ、子どもたちが英語を楽しく学ぶ姿を見ていて、教員たちも月1回の校内研究だけでなく、自主研修会を実施するなど英語の指導力アップに力を入れています。また、授業はボランティアとして保護者も参加してくださっています。アレン先生・教員・保護者が一体となってこそ、小山台小の英語教育が育てられたのだと思います。
アレン先生の指導を受け、中学校に進学した子どもたちの話を聞くと、英語を読むことに不安を感じる子は少ないようです。今後の課題は、小中連携を進めていくこと、そして教職員の異動があっても小山台小の英語を継続していくことです。外部の先生方、AET、保護者や地域の方々の力をお借りしながら、これからも本校ならではの英語教育を一歩ずつ積み重ねていきたいと思います。


保護者ボランティアによる『ももたろう』の英語ポスター


次回は、アレン玉井光江先生に伺った「Joint Storytelling(ジョイント・ストーリーテリング)」の土台となる考え方、小山台小の変化についてご紹介します。


東京都品川区立小山台小学校


2019年11月1日、文部科学省より2020年度(令和2年度)の大学入試における英語民間試験活用のための「大学入試英語成績提供システム」の導入を見送ることが発表されました。


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