【第3回 最先端の教育実践者が語る座談会】「今」を楽しむ親の姿が子どもにとって大きな学びに

  • 教育動向

小・中学生の学びに最も身近で強い影響力を持つのが親です。思春期にある子どもとの距離感を掴むのが難しい中で、親はどのようなこころもちで子どもと接すればよいのでしょうか。
第1回第2回に続き今回は、小・中学生の学びを支える保護者のかかわりをテーマに、いまもっとも先進的な実践で注目を集める3名の先生方にお話しいただきました。

お話しいただいた先生(お名前50音順)

  • ・東京・私立 かえつ有明中・高等学校 副校長 佐野和之先生
  • ・東京・公立小学校 指導教諭 庄子寛之先生
  • ・東京・私立 武蔵野大学中学校・高等学校 校長 中村好孝先生

聞き手

  • ・ベネッセ教育総合研究所 主席研究員 小村俊平

この記事のポイント

親の頑張りを認めて、自信をもって子育てできる社会に

小村: 小・中学生の保護者の様子や子どもとの関係性について、最近どのようなことを感じていますか。

中村先生: 相談や要望など、保護者から学校に寄せられる声はさまざまなのですが、それらの根底にある、保護者のとても不安な気持ちを感じています。

例えば、定期テストの点数に一喜一憂してしまうのは親の気持ちとしてわかりますが、それが過度な不安だったり、子どもや学校への風当たりが強すぎたりする場合は心配です。私が説明会や講演会などで「成績に一喜一憂することはありません。大丈夫です」と伝えても、その時は理解いただけるのですが…。
それだけ、保護者には子どものことだけでなく普段の生活の中で不安なことがたくさんあり、それをうまく消化できていない辛さがあるのだと思います。

悩みを相談できる相手も限られているため、子育てや子どもの教育についても自信がなく不安が大きいのだと思います。もっと日本の社会全体が保護者一人ひとりの頑張りを認めて、「いいね!」ボタンをたくさん押すような気運にならないといけない。心の安定に自己肯定感が大切なのは、子どもだけでなく大人も同じです。

武蔵野大学中学校・高等学校 中村好孝先生

増加傾向にある子どもの「なんとなく不登校」

庄子先生: コロナ禍によって、公立小学校に通う子どもに変化のきざしがみられます。「そもそもなぜ学校に行かないといけないの?」と疑問を持つ子どもが増えました。

かつては友だち関係や勉強ができないなど明確な理由があって不登校になる児童がほとんどでしたが、今では、明確な理由はないが学校に行きたくない「なんとなく不登校」が増えています。子ども自身が登校したくない理由をうまく説明できないため、別の理由をこじつけたり親も不安になって問題になったりする状況が起きています。

以前から学校、地域、保護者の関係が薄まってきているなか、コロナ禍によってさらに関係が弱まったために、親は学校で何が起きているか分からないケースも多いでしょう。一方で、残念ながら学校も親の疑問や不安に応えきれる余裕がありません。そうした現状を非常に危惧しています。

小村: お二人のお話から、子ども以外のことも含めた保護者の不安な気持ちが、学校や子どもとの関係に影響を及ぼしている様子がうかがえます。保護者と学校が互いに心地よく適切に向き合える方法を改めて考えていく必要がありますね。

親自身が学ぶことを楽しみ、その姿を子どもに見せる

佐野先生: 保護者向けのワークショップで講演することなどがあるのですが、本校の保護者の中には、ワークショップに参加して学んだことを保護者会などでシェアしてくれる方がいて、「学び好き」な保護者の存在が、会の雰囲気をよいものにしてくれています。

保護者が「学び好き」になることのメリットはもう一つあって、それは子どもにも良い影響を及ぼすということです。能力開発の理論に関するワークショップに参加した保護者がいたのですが、その子どもが、熱心かつ楽しそうに学ぶ母親の様子から興味を持ち、親以上に熱心に学ぶようになりました。
親が本気で面白がったり興味を持って学んだりする様子を見せることが、子どもの学ぶ意欲を高めるきっかけになるのだと思いました。

かえつ有明中・高等学校 佐野和之先生

中村先生: 子どもは、四六時中自分に視線が注がれ「勉強しなさい」と連呼されるよりも、親が自分の興味関心のあることに時間を使って楽しむ様子を見る方が、リラックスできるし成長するものです。親が家庭外の世界の新しい話題を持つことで、親子の会話の質も高まります。

特にお母さんには、できるなら「もっと自分のために時間を使って楽しんで」と伝えたいです。それだけ子どものために頑張ってらっしゃるとも言えるのですが。

これからの価値観は周囲との比較ではなく自分が決める

庄子先生: 保護者が不安な気持ちになるもう一つの背景として、SNS上にたくさんの情報があふれている現状があると思います。他人の子育てがキラキラして見えて「自分ももっとこうすべきなのにうまくいかない」と思ってしまうのはとてももったいないです。

確かに、目指したい親子関係や子どもに期待することがあると思います。しかし、親自身や子どもが今やりたいことを過度に我慢しても、その先に報われる結果が待っているとは限りません。変化の大きなこれからの時代であればなおさらです。

まずは今が幸せであることが大切で、人生はその積み重ねの結果なのではないかと思います。だとすると、不確かな未来のために「〇〇しないといけない」という過度なプレッシャーから一度離れて、今の状態を楽しむことに意識を向けてもよいのではないでしょうか。

東京都 公立小学校 庄子寛之先生

佐野先生: 「〇〇しないといけない」と自分を狭めていたものを手放したときにこそ新しいエネルギーが生まれます。自分自身で「こうしよう」と決めた方向性が見えると、それまでは言うことをまったく聞かなかった子どもが、急に親の話に耳を傾けるようになるものです。

本校でも、かつての指導方針とは異なり、生徒に手をかけすぎずに一歩離れた位置から見守って自立を促すようにしていますが、教師と生徒との関係は良好で、保護者からも多くの共感の声を頂いています。

中村先生: 比較する対象は周囲ではなく、今の自分と未来の自分ということですね。そもそも、ある一時点の成績を周囲と比較することで価値が決まるという日本古来の考え方は、これからは通用しないでしょう。

保護者の方には、周囲の目を気にしないように頑張れたら、その勇気を自分で褒めてほしいと伝えたいです。結果として、そういう考え方は子どもにも伝わり、世界で通用する力を育む土台になっていきます。

座談会を振り返って

ベネッセ教育総合研究所 小村俊平

今回、日本の教育をけん引する3名の先生にお話しいただきました。保護者の方々には、周囲のやり方にとらわれず、「こうでないといけない」という思い込みから自分を解放し、自分自身と子どもを信じながら毎日を楽しむことが大切である、という先生方からのメッセージが届くことを願っています。

また、次代を生きる子どもたちには、勉強に限らず何かに没頭することで得る学びを大切に、自分の世界を広げていってほしいと思います。

そのためには、周囲の大人が子どもの創造性あふれる世界を大人の価値観で邪魔しないことも大切です。子どもたちだけがもつ「クリエイティブな秘密」を尊重して、それが将来の生きる力になっていくことを信じ、見守っていきたいものです。

(執筆/神田有希子)

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プロフィール

佐野和之先生

佐野和之(さの かずゆき)先生

東京・私立・かえつ有明中・高等学校 副校長。埼玉県私立中・高での勤務を経て、2014 年同校で「学ぶことの喜び」を追究する新クラス立ち上げの一員として赴任する。 中学ではアクティブラーニングをベースに論理的思考力・表現力を育てる「サイエンス科」、高校では生徒が自分と向き合うマインドセットから知的欲求を喚起する「プロジェクト科」など、「新しい学び」を推進する。

プロフィール

庄子寛之先生

庄子寛之(しょうじ ひろゆき)先生

東京・公立小学校 指導教諭。専門は道徳。コロナ休校中は、オンライン教育に関心を持つ教員らをつないだオンラインイベントを5回にわたって実施し、約2000人が参加した。『残業ゼロの仕事のルール(明治図書)』など著書多数。女子ラクロス21歳以下日本代表の元監督でもある。

プロフィール

中村好孝先生

中村好孝(なかむら よしたか)先生

東京・私立・武蔵野大学中学校・高等学校 校長。専門は数学。小学校および高等学校教諭等を経て、淳和学園(岡山龍谷高校)では専務理事として学校改革に関わり、2021年度より現職。広報戦略や受験指導等に関する数多くの講演を行っているほか、アクティブ・ラーニングの実践的導入者としても知られる。

プロフィール

小村俊平

小村俊平(こむら しゅんぺい)

ベネッセ教育総合研究所 主席研究員。OECD日本イノベーション教育ネットワーク事務局長、岡山大学学長特別補佐を務め、ベネッセコーポレーションでは次世代の教育の研究開発等に取り組む。

プロフィール



株式会社ベネッセコーポレーションの教育、調査、研究機関です。子ども、保護者、先生、学校などを対象に、教育に関連する調査、研究を行い、その研究成果や調査報告書、各種データを無償で公開しています。

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